2020年10月3日土曜日

武者小路実篤「愛と死」(昭和14年)

武者小路実篤「愛と死」(昭和14年)を初めて読んだ。新潮文庫(平成24年第115刷!)で。

武者小路実篤(1885-1976)は明治18年東京麹町に武者小路子爵家の8人きょうだいの末子として生まれる。父武者小路実世は岩倉具視の遣欧使節団のメンバーとして欧州に行った人物。帰国後に日本鉄道会社の創立に参加するなどしたのだが、実篤2歳のときに早世。

学習院に進んだ実篤は2歳年上の志賀直哉とも交流。実篤は高等科で聖書を読み、ドイツ語訳でトルストイを読むようになる。
実篤に聖書を読むように勧めた母方の叔父が勘解由小路資承(かでのこうじすけこと)。東京帝国大学での勉強会での友人が正親町公和(おおぎまちきんかず)。そんな名前を見つけてつい「ラノベかよ!アニメかよ!」と突っ込んだ。そんな時代を生きた人。

「愛と死」は昭和14年(1939)に中編として発表され出版。
今回初めて読んでみて、とても平易な若々しい文体で、青年期の恋愛を綴った青春小説。これは中学生どころか小学生でも十分に読める。

主人公村岡(25)が21年前のできごとを回想する形式。自分の書く文には悪口しか言われないのだが、尊敬する文士野々村(30)だけは褒めてくれる。
ある日、手紙で遊びに来るように呼び出される。そこで野々村の美しい妹夏子(17歳か18歳ぐらい)を見かける。このふたりの恋人のファーストコンタクトのとき、少女は逆立ち競争(?)をしていたw 

で、野々村の家で文士の集まりの席があった。なぜかかくし芸大会に。そこで額から脂汗を流して窮していると、夏子が手を上げ「宙返り」をする。村岡はピンチを脱出。

この「宙返り」が今でいうどのような物か?よくイメージできない。大正時代のことなので、東京が舞台であっても少女たちはもっこりと盛り上がった髪型に着物に袴姿?それともこの文庫本のカバー装画(村田喜子)のような柄ワンピース?

でもって何度か会ううちに二人は恋仲。若い2人はとても楽しそう。やがて男はパリにいる伯父に「来ないか?」と呼び出しの誘い。野々村に相談すると行くことを勧められる。村岡は夏子と洋行から帰ったら結婚の約束をする。

欧州と日本を手紙でやり取り。これが爽やかカップルの爽やかなラブレター往復書簡。半年の洋行が終わってナポリから日本へ帰路につく。

シンガポールを出港し香港に着くという直前、突然に夏子の訃報が電報で届く。美しい青春の日々が突然暗転。これは悲しい。著者の武者小路実篤もこの箇所は涙を流しながら書いたという。

夏子の突然の死因が流行性感冒。これがスペイン風邪?!何も知らずに読んでいてびっくり。

激しく落ち込み泣くしかない村岡。愛する者の死という悲しい現実とどうやって折り合いをつけるのか?「夏子を殺した自然に、自分を参らして見せるというような顔をしている自然に、自分は戦ってやろうという気分になって、敵に後をみせたくなかった。」という心境。
死んだものは生きている者にも大なる力を持ち得るものだが、生きているものは死んだ者に対してあまりに無力なのを残念に思う。
愛する者を失った若者へ、54歳の文豪であっても何もない。

「セカチュー」や「タイヨウのうた」「君の膵臓をたべたい」みたいな爽やか難病悲恋青春ラブストーリーの元祖か。

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