2020年7月11日土曜日

ロンゴス「ダフニスとクロエー」(200年ごろ)

モーリス・ラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」は何度も何度も聴いてるけど、この2世紀後半から3世紀初めごろに無名の二流作家によって書かれたギリシャ文学古典「ダフニスとクロエー」にはまだ一度も触れたことがなかった。

岩波文庫に松平千秋訳、ボナールの挿絵入り「ダフニスとクロエー」があるので読んでみた。三島由紀夫にもインスピレーションを与え「潮騒」という小説になった。

この物語は作者が見た絵画にインスピレーションを得て書かれたものというてい。
ギリシャのレスボス島の主邑ミティレーネーとその周辺が舞台。
舞台のレスボス島は今ならグーグルですぐさま見れる。ストビューで島の風景が見れる。

文明の中心がローマに移動した後も、知識人の共通語としてギリシャ語とギリシャ古典は残った。ロンゴス(生没年不詳)という著者もギリシャ語に精通したイタリア系作家であろうということが推測される。この時代の大衆通俗ギリシャ小説は、完全なものとしては5編しか現存していない。

この物語はゲーテも耽読したほど昔からよく知られている。多くの写本のうち、1つをのぞいてすべて第1巻の一部に欠落があるらしい。1807年にフィレンツェの図書館でサン・ロレンツォ版と呼ばれる写本を書き写したP.L.クリエという人物がインクで一部汚損してしまったらしい。それ、とんでもないな。

昔から「性描写が露骨」などと言われていたらしい。フランスでは性教育にも使われた本らしい。この本の感想を書いている人も「えっち」と言う人が多い。

山羊飼いラモーンが男児を拾いダフニスと名付ける。そして羊飼いドリュアースが女児を拾いクロエーと名付ける。成長したふたりはやがて恋を知る…という牧歌的恋愛物語。

初恋という感情に戸惑うふたり。フィレータース老人が「恋には薬もまじないも利かない。服を脱いで横たわるしかない。」みたいなことを教えてる。それ、大人としてどうなん?
で、実践してみるふたり。だが、その後がわからない。
以前から美少年ダフニスが気になってた好色な人妻がふたりを見かねてダフニスに「初めて」を手ほどきしてしまうw 「あんたを男にしてあげたのはこの私だってことを忘れないで!」正直、ここはかなりエロい。

ダフニスに片想いする男、クロエーの美しさを讃えるよそ者が「家畜になって飼われたい」と言って愛を伝える箇所が「?!」ってなったw この時代によくあった表現?

この本、西暦200年ごろに書かれた小説とは思えないほどわかりやすい。19世紀後半の児童文学と同じようなテイスト。ほぼ「まんが日本昔話」。

ダフニスもクロエも双方が美男美女なので、めんどくさい相手から懸想され困った事件になったりもする。だが、身に着けていた目印で親(高貴な身分、大金持ち)が判明してめでたしめでたし。昔の人は簡単に子どもを捨ててたんだな。

性愛の箇所がある。家畜を生け贄にする風習がある。隣村とのトラブルが戦争に発展する。捨て子がよくある。男色があたりまえにある。だが、意味の解らない箇所はそれほど多くない。小学校高学年から読むのは可能だと思う。それぐらい訳が平易な文体。

大人が読んでも面白いと思う。2世紀3世紀のエーゲ海の島にタイムスリップする本。

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