2020年4月4日土曜日

芥川龍之介「奉教人の死」(大正7年)

芥川龍之介「奉教人の死」を新潮文庫(平成10年51刷)で読む。この時代の活字はいまの新潮文庫と違ってかなり小さく読み難い。
芥川の切支丹物11本を収録した1冊。では順に読んでいく。

煙草と悪魔(大正5年)煙草が日本に伝来した伝説。その名前を教えてくれないとき、カマをかける手法は有効。芥川にしたら結局悪魔の勝。芥川は残された映像を見れば超絶ヘビースモーカー。心とカラダを蝕んだのも当然。

さまよえる猶太人(大正6年)芥川の「さまよえるユダヤ人」解釈。衒学的で読んでみて得たものは少ない。

奉教人の死(大正7年)長崎に伝わる切支丹の悲しい自己犠牲殉教悲劇。
これが一番読みづらい。こういった短編を中学高校生に読ませるのは無理がある。時代劇時代小説に通じた子でないと入試に出たら太刀打ちできない。

るしへる(大正7年)さらに難解明治文体。これ、中1ぐらいに読んだはずだけど、まったく理解できなかったであろうと。

きりしとほろ上人伝(大正8年)これも「奉教人の死」のような切支丹語り。ただし、舞台がシリアとアンティオキア。ファンタジーっぽい。

黒衣聖母(大正9年)これは急に現代が舞台で芥川らしい。表情が不気味なマリア観音像にまつわる話。「信仰とは?」と考えさせられる作風。

神神の微笑(大正11年)デウスの神VS日本の神々。伴天連オルガンティーノ神父が庭を歩いていると日本の霊を名乗る老人と出会う。日本人にデウスの神を説いたところで無駄なことを教えられる。日本人は中国の神もインドの神も別の者に変えてしまった。

報恩記(大正11年)桃山時代の京都を騒がせる盗人が阿媽港甚内。船が沈んで資金繰りに行き詰まった商人北条屋弥三右衛門、そのやくざ者の倅弥三郎。3人それぞれの主観で描かれる。これがちょっとミステリーっぽくもある。

命を救ってもらったので恩返し。拒絶された恨みからの恩返し。さすが天才芥川だ!という短編。これが一番面白かった。「藪の中」が好きな人はきっと好き。どうして今まで映画やドラマになってないんだろう?

おぎん(大正11年)切支丹弾圧と棄教を描く。遠藤周作「沈黙」でも見たような風景。

おしの(大正12年)南蛮寺の神父のもとへ、15になる息子の病を治してほしいという女「しの」がやってくる。神父はイエス・キリストの物語を語り聞かせたら、しのの態度が急変して神父口あんぐり…という短編。

糸女覚え書(大正13年)石田治部少の乱における秀林院(細川ガラシャ)の悲劇を女中目線で描く。これもかなり明治文体で読みづらい。この女中が秀林院すごく嫌っていて笑った。ほぼ悪口w 明智光秀を惟任将軍とも呼ぶということを学んだ。

以上、11短編を読んで、やはり「報恩記」が芥川らしい天才の筆で感心。芥川で面白いものを読みたいという人にまずオススメできる。あと、個人的に「黒衣聖母」「神神の微笑」も味わい深かった。
正直、「さまよえる猶太人」「るしへる」「きりしとほろ上人伝」は国文学専攻でもないかぎり読まなくていいと思う。

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