2020年2月23日日曜日

芥川龍之介「歯車」(昭和2年)

芥川龍之介「歯車」(昭和2年)を岩波文庫版で読む。まだ読んでなかった芥川最晩年の3作を収録した1冊なので選んだ。順番に読んでいく。

玄鶴山房(昭和2年)
ゴム印の特許と土地ころがしで財産をつくり妾を囲った老人が肺病で亡くなる最期を描く。玄鶴老人とその妻の両方が寝たきり。世間知らずの娘と銀行勤めの女婿、そして幼い息子が行き詰まるように暮らしてる。

さらに看護婦が介護してる一家に、妾と妾に産ませた子が見舞いにやってきて家の雰囲気がさらに悪くなる…という話。とても陰気臭いし気分が落ち込む話。
だが、天才芥川の書く文章はまったくムダがないし分かりやすいし文体が美しいしで感心しかしない。

歯車(昭和2年 遺稿)
死の直前の芥川がどんな状態だったのかを知る日記のような短編。芥川は学生時代から右目に半透明の歯車が見えてそれが増えだすと思い偏頭痛に悩まされていた。

そして母親が発狂して死んだという事実と自己への不安。幻覚、不眠症、義兄の轢死、スリッパが片方なくなったり、モグラの死骸を見たり、街で話しかけられたり、レインコートの幽霊を見たり…、とにかく微妙に嫌なものと出会って憂鬱になってイライラしながらホテルで原稿を書く。金策に頭を悩ます。
「僕は芸術的良心を始め、どういう良心も持っていない。僕の持っているのは神経だけである。」
「誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」 
東大出て漱石先生に絶賛された天才も30代でこんな状態になるとか絶望しかない。

或阿呆の一生(昭和2年 遺稿)
友人に託された最後の作品。ほぼ遺書。
「僕は今最も不幸な幸福の中に暮らしている。しかし不思議にも後悔していない。唯僕の如き悪夫、悪子、悪親を持ったものたちを如何にも気の毒に感じている。ではさようなら。」
あとは20歳からの自分と見聞きしたものを振り返る短い断章が続く。
ゴオグという画家の画集が出てくる。しばらく考えてしまった。どうやらゴッホのことか?
「人生は一行のボオドレエルにも若かない。」
芥川と太宰はよほどメンタル強いときじゃないと読んじゃいけないと思う。受験生も。人生に絶望する。

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