2019年11月30日土曜日

林芙美子「浮雲」(昭和26年)

林芙美子(1903-1951)の小説を初めて読んでみる。とりあえず「浮雲」を選んでみた。新潮文庫版で。
浮雲は成瀬巳喜男による映画も有名。まだ見たことない。たぶんいずれ見ると思う。

何の予備知識もなく読み始めた。戦争が終わって外地から人々が復員してくる時期の話らしい。
ボロボロになって雨に濡れて、今となっては知らない人が住んでいる家の玄関へ立つ。

昭和18年、不倫関係(ほぼ一方的に体を求められる関係)を清算するためにタイピスト事務員として仏印(ベトナム・ダラット)へと渡ったゆき子は農林研究所の富岡と出会う。
ゆき子は美人でもなんでもないのだが、男しかいない職場で、やがて三角関係と刃傷沙汰。だが、そこはあんまり詳しく描かれない。
日本軍が侵攻した当時の仏領インドシナの様子が貴重。プノンペンの芸者たちが日本軍の慰安婦だと書かれている。

日本の敗戦後なんとか内地へ帰還。だが、実家へは帰らない。富田に会うために東京へ。一時的に娘時代に無理やり貞操を奪ったあの嫌いな伊庭の家に「親類の者です」と狭い部屋の片隅で寝起き。自分をあれだけ酷い目に遭わせたのだからと、義兄の荷物を売って金をつくる。

やがて、ゆき子は富田と再会。役人の事務仕事に嫌気がさした富田、タイピストに飽きたゆき子、仕事をするでもなく酒を飲んで美しかった仏印の思い出話。

伊香保温泉で心中しようとする。ずるずると投宿。やがてお金がなくなり富田は腕時計を売る。そこで年の離れた夫婦とご縁があって出会う。だが、富田はその妻とイイ感じになってしまう。
東京へ生きて戻っても二人は流転。世知辛い世の中を漂流。

読んでいてひたすらやるせない。終戦直後の人々の心が荒みすぎ。食糧難、無気力、ただ生きるために日々食べ物を探して歩く。仏印で農林省の官吏だった男も浜で荷担ぎの仕事。やがて結核でやせ細って死んでいく。

伊香保の夫婦は夫が妻を殺害、ゆき子は富田の子を堕胎、伊庭は新興宗教の幹部に。いろんなことが起こる。気が滅入る。

材木取引も上手くいかず、まるで生活無能力。終戦直後は男はダメで女が逞しい。ゆき子は気が強い。たぶん、女性読者は富田の煮え切らなさにイライラ。

そして二人は屋久島へとたどり着く。ゆき子は咳が止まらなくて不安。
没落した男女の貧困と漂流。これがもう「人間失格」「斜陽」を上回る絶望の戦後鬱小説。
若者に古典文学を読ませるのはほどほどにしたい。こんな本、生きることに絶望しか感じない。男女のドロドロの関係を描いてるので中高生にも読ませたくない。

だが、林芙美子の文体は声に出して読みたいと感じた。作家として素晴らしい力量を持っていると感じざるを得ない。47歳で亡くなったのは残念だし悲しい。

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