2019年8月26日月曜日

中島岳志「血盟団事件」(2013)

中島岳志「血盟団事件」(2013 文芸春秋)という本があるので読む。

昭和3年に起こった昭和最大のテロ事件「血盟団事件」について、教科書に数行書かれたこと以外に自分は何も知らなかった。深編笠を被った着物姿の被告たちの写真をこどもの時に歴史の本で見て恐怖を感じた。
松本清張「昭和史発掘」を読んで以来、なにか自分に適当な本はないか?と探していてこれに出会った。

血盟団事件って何? 群馬県川場村出身の怪僧・井上日召が流浪の末にたどり着いた茨城県大洗町で、祈祷などで貧しい農民らの病気を治しているうちに、寄付で御堂が建ち、弁舌とカリスマ性で日本改造と昭和維新の思想を同じくする同士を集め、腐敗しきった政財界のトップたちを狙うようになった事件。

この本は冒頭が川崎長光へのインタビュー。5.15事件で陸軍側の参加を制止し、血盟団側から裏切り者と思われた西田税を狙撃した人物。後年ずっとインタビューを拒んでいた。なんと筆者が会って話を聞いたとき99歳!この人は101歳まで生きたらしい。

井上準之助(前蔵相)に銃弾を浴びせて殺害した小沼正(20)、三井財閥の番頭・團琢磨を射殺した菱沼五郎、そして井上日召、みんな戦後長くまで生きていてびっくり。
菱沼は戦後、小幡五朗に改名し自民党から茨城県議になってたことを知ってびっくり。ちょっと昔まで人を殺したじいさんでも議員になれたことに驚いた。

大洗の護国堂には今も血盟団員の肖像写真が掲げられていると知ってびっくり。
5.15事件の三上、古賀もみんな戦後長く生きていたことをしってびっくり。恩赦後に政権ブレーンとなってた四元義隆にもびっくり。

この本の前半は事件に至るまでのそれぞれの血盟団員の生い立ち。
井上はべつに家が貧しかったわけでもないが問題児。前橋中、早稲田大、そして満洲では革命勢力の諜報活動もする。常に「もう死んでもいい」というやけっぱち人生。そして禅宗、日蓮、法華経に出会う。
大川周明、安岡正篤ら知識エリートとは相いれないものを感じ、上杉慎吉に失望。

大洗出身で、銀座で着物を上流階級相手に売ってた小沼は、貧乏にあえぐ農村と無関係に贅沢な東京の人々に嫌悪感。

国民は日々の暮らしに苦しんでいるのに政治家は党利党略と疑獄と汚職、財界は政治家と手を結んで国民を搾取。命は捨て石。流血革命しかない!海軍の青年将校藤井斉も接近。

宗教的救済を求めてたらいつのまにか革命を計画する団体へと変貌。どうやったら革命が起こるんだろう?陸軍、海軍、民間、各勢力が一緒になって考えるもいいアイデアが浮かばない。

陸軍側は三月事件、十月事件の失敗で血盟団側とどんどん溝が出来ていく。陸軍「血盟団は足手まといだわ」血盟団「こいつら自分の野心しかないわ」
そして血盟団は「一人一殺」テロへ。日蓮主義、国家主義、神秘のテロ集団へ。政党政治、財界、特権階級からターゲットを数名ずつ選ぶ。

そして狙撃事件。この本のラスト10分の1ページほどしか描かれない。小沼ー菱沼の段階であっというまに足が付く。全員逮捕。
この事件の2か月後に5.15事件が起こる。そして政党政治は戦争が終わるまで断絶。

この本は淡々と調べた事実の列挙で、読んでいてそれほど面白くもなかった。劇的に謎が解かれることもない。事件そのものの劇的描写がごくわずか。そこに至るまでの背景のみ。

読んでいて今現在の日本ととても似ていると感じた。逃れられない生活の困窮、企業の労働搾取。その一方で贅沢な暮らしをしてる上流階級の存在。政治は国民を見ていない。絶望と怒り。
池袋で起こった暴走事故は、上級国民と庶民の差別的取り扱いに対し、一瞬で怒りが燃え上がることを示した。一部の特権階級への怒りは今もくすぶっている。
PS. 日テレの情報ニュース番組ZIPを見ているとたまに團遥香という人を見かける。最初は女子アナかと思ってたのだが、この人はレポーター仕事などをしているタレント女優らしい。

変わった名前なので「もしや…」と思い調べてみたら、父親が建築家の團紀彦、祖父が作曲家の團伊玖磨、高祖父が團琢磨という、華麗なる一族の令嬢だった…。
おそらく、数年以内に政官財の毛並みの良い御曹司と結婚してるに違いない。

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