アーサー・コナン・ドイル(1859–1930)によって生み出されたシャーロック・ホームズが世界一有名な名探偵であり、名探偵とその助手というコンビのパターンの始祖なことはずっと知っていた。
これまで小中高とそれぞれで一度は「読んでみようかな」と思ったこともあったのだが、ヴィクトリア朝時代の英国とか理解できないだろ…と、手に取りかけては棚に戻していた。
だが、もうこれまでにアガサ・クリスティーで英国人についてだいたいのことはつかんだw 読むとしたら今だろうと。
それに「シャーロック・ホームズ」は長編が4本、短編56本しかない。これはわりと簡単に読破できるのでは?と思った。
では何から読むか?それはもう初めてシャーロック・ホームズが登場した「緋色の研究」だろうと思った。
ホームズというと延原謙による個人全訳が有名。新潮文庫で今も手に入りやすいのだが、今回はたまたまそこにあった駒月雅子訳による2012年角川文庫版で読むことにした。
A STUDY IN SCARLET by Sir Arthur Conan Doyle 1887これがアフガニスタンから帰還した元陸軍医師ワトソン博士による回想録という形式で、第1章「シャーロック・ホームズという人物」から始まる。
ワトソンは第2次アフガン戦争で負傷し失意の帰国。ロンドンで寂しい生活。資金も底をつきルームシェア相手を探していた。
街でばったり再会した旧友スタンフォードくんがシャーロックという変わった男を紹介。
シャーロックはあらゆることに詳しいスーパーマンかと思っていたのだが、知識に偏りがあり、政治、文学、哲学、天文学に関しては常識以下ということを初めて知った。
自分は今までホームズをてっきり中年男性かと思っていたら、化学を研究する学生?新訳だととても若々しい印象。
で、ブリクストン通りローリストガーデンズでアメリカ人の死体が発見された事件で、刑事が相談にやってくる。すぐに馬車で向かって手がかりを捜す。
壁には血で「RACHE」という文字が!
この時代はまだ指紋を検出するとか、法医学とか、現場保存とか、科学捜査とかいう概念がまったくない?
現在の水準ではホームズの言う事が酷い断定と決めつけ。とてもそのまま鵜呑みにできない。現代の我々からするとこんな捜査で犯人を逮捕できるとは思えない。
第2部からいきなり西部開拓の話になってびっくり。娘をカルト教団幹部の息子に強制的に結婚させられた父親の無念と、娘の婚約者だった猟師の若者の復讐の話になってびっくり。
ここに登場するカルト教団とは末日聖徒イエス・キリスト教会、つまりモルモン教のことだ。ブリガム・ヤング(1801-1877)のユタ入植の時代を描いている。
モルモン教徒は異教徒と娘を結婚させることを重大な教義への違反とみなしていた?!
19世紀英米文学もそれほど読んでいないのだが、当時の知識人たちは、ブリガム・ヤングとその一味を、独裁と秘密警察による反対分子の粛清、一夫多妻制を維持するために婦女子を誘拐する恐怖のカルト教団とみなしていたことを、この本を読んで初めて知った。
「緋色の研究」は戦前から日本の読者にモルモン教の恐ろしさを印象付けたに違いない。シャーロック・ホームズは世界中で読まれる本なので影響力は世界に及んだはず。
というわけで人生初めてシャーロック・ホームズを読んだのだが、意外に社会派で動機がしっかりしてて物語としてよくできていた。
PS. 乃木坂の佐々木琴子も「緋色の研究」を昨年読んだそうだ。面白かったそうだ。
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