「八つ墓村」事件を解決した後、金田一耕助が岡山県警の磯川警部の元を訪ね、不気味なデスマスクにまつわる話を聴かされて…という、金田一耕助ファンならぜったいに読みたい作品。
金田一耕助が大ブームだった昭和50年代、角川書店は横溝正史の全作品の文庫化を進めていた。そんな時代にやむなく中島河太郎氏が欠落部分を補ってノベルズ版を出版。1984年には角川文庫化。
1998年になって突然、春陽堂書店(東京中央区日本橋)から完全版と銘打った文庫本が出た!
ということは欠落していた連載第4回分が掲載された「物語」昭和24年8月号分が発見されたということか?!
この春陽文庫版が謎。20年前に一度出版されたっきり再版された形跡もない。電子書籍されたこともない。よって古書としてネット上で2000円~6000円台で取引される事態に!w
入手が容易な角川文庫版では「ゆらめく蝋燭」と「謎の美術家」という章の間が欠落している。
「ゆらめく蝋燭」川島学園に足の悪い不気味な男が出現。校内の生徒たち、秘書の上野、川島家の養子で英語教師の圭介、古屋舎監たちがザワザワする状況。その夜、秘密の地下室から蝋燭をともして階段を登る川島夏代が、老婆の静子と鉢合わせする直前でその場面は終わる。
「謎の美術家」は
川島夏代が恐ろしい死に方をしてから、今日でもう一週間になる。眼まぐるしかった、この一週間をふりかえると、白井澄子はまるで夢のような気がするのだ。で始まっている。この二章の間でめまぐるしく状況が変わったことが窺える。
つまり、この間に夏代が無残に殺されて発見される様子が描かれないといけない。そして、白井澄子という女子生徒ヒロインを初登場させ紹介しないといけない。そして、問題のデスマスクのひとつが落下し砕ける場面が必要だった。
中島氏はその間にあった出来事を「妖婆の悲憤」「校長の惨死」という2つの章を設けてわずか8ページで簡潔に補筆。
で、ようやくその春陽文庫完全版を読む機会を得た。
実際の横溝オリジナル章は「妖婆」「灯の洩れる窓」というタイトルで18ページもあった。
階段付近で言い争いをする夏代と静子の会話が予想よりはるかに長い。妖婆・静子の言葉遣いが現代を生きる我々からするとややヘンに映る。
だが、横溝オリジナル版は冗長だが講談のように活き活きしてる。
白井澄子が寄宿舎から目撃する川島邸での不審な出来事の描写もイキイキして情報量が多い。
結論として、できることならなるべく春陽文庫完全版が読まなければいけないと感じた。
中島氏は残りの章から推測される情報で埋めて、できる限りのことはしたと思う。
その苦労には最大限に労い敬意を表したい。中島氏のおかげで多くの人がこの「死仮面」という作品を読むことができたのだから。
だが、中島氏も自身の仕事はオリジナルが発見されるまでのつなぎでしかないことは十分に承知していたはず。オリジナルが発見されたのならオリジナル版が広く読まれるべきだ。
なぜ完全版は古書としてしか読めないのか?他の出版社は20年間一体何をしていたのか?なぜ広く手に入りやすく出版しない?
春陽堂は横溝正史と完全版の独占出版権のようなものでも得たの?中島氏への敬意を表する業界の取り決め?いろいろ解せない。
春陽文庫版には掲載号が発見された経緯とか書いてあるのかと期待していたのだが、巻末解説が金田一さんと磯川警部の関係とかどうでもいいことしか書いてない!w
本当に物語8月号は発見されたのか?その幻の一冊の写真とかも見たことがない。
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