2019年3月30日土曜日

西川美和「その日東京駅五時二十五分発」(2012)

西川美和「その日東京駅五時二十五分発」(新潮社 2012)を読む。西川美和の本を初めて読む。
西川美和は是枝裕和組スタッフとして映画人キャリアをスタートさせた。師である是枝のように、オリジナル脚本を書き小説家として本も出してる。

この本は、東京で陸軍特殊情報部傘下で通信兵として教育を受けている途中で終戦を迎えた伯父から聴いたという戦争体験を小説にした本。西川は1974年広島生まれ。
どうして私たちは、自分の知らない時代のものたちの起こした戦争の、嫌な話や、悲しい話を聞きながら育たなければならないのだろう、と、ずっと思ってきました。
日本人として、広島に生まれたものとして、「知っときゃなきゃいけない」というのは理屈では分かっていても、殺したり、殺されたり、焼いたり、焼かれたり、そんな話ばっかし。頭が割れるほど嫌だった。
西川の年代だと教師や祖父から戦争の話を直接聴いて育ってる。しかも、広島という土地で教育を受けた者なら、きっと原爆資料館へは強制的に行かされている。こどもにとってはトラウマのごとき辛い体験に違いない。
血みどろ人形の展示なんかを強要した教師たちは罪深い。こどもには選択する自由を与えるべき。そんなの見ないでも本を読めば頭でわかる。

低空飛行のグラマンから機銃掃射浴びたり遠くで街が燃えているのは目撃する。身近の人が死んだことを聞いたりもする。それでも絶望的な暗い雰囲気がない。

この主人公はとくにつらい厳しい体験はなかった。上官もとても理解があって優しい穏やかな人でよかった。西川もそこには肩透かしをくらった。

この本は戦争体験本としてはとても穏やか。8月15日正午は東京から広島に向かう汽車の中にいましたという。そんな劇的な場面はなかったという。

そういう戦争体験もあるんだな。あって当然だなと感じさせる一冊。
震災もそうだけど、地獄を体験した人と平穏だった人、この格差は何だ?

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