2019年2月11日月曜日

イザベラ・バード「日本奥地紀行」(1885)

明治11年(1978)6月から9月にかけて、東京から粕壁を経て栃木日光へ入り、会津、新潟、山形、秋田、青森、北海道を苦難の旅をした婦人旅行家イザベラ・バード(1831-1904)の「日本奥地紀行」を読んだ。

この本は大変有名な旅行記。15年ほど前から何度もパラパラとめくって挿絵を眺めたり、一部を拾い読みしたりしてたのだが、今回、初めて最初から最後まで読み通した。
Unbeaten Tracks in Japan by Isabella L. Bird 1885
調べてみたら、平凡社東洋文庫には前4巻からなる新訳完全版も存在する。だが、今回自分が読んだものは高梨健吉訳の「普及版」(1973年 東洋文庫240)

1878年といえば日英修好通商条約によって江戸に英国代表部が置かれてから20年。西南戦争が終わって1年後。
西欧諸国からはまだまだ日本は謎の国。そんな時代に英国婦人(47歳)が外国人未踏地を一人旅。

では読んでて思ったことを
  • 一体何がそこまでさせる?!という苦難の旅 この人は生活のために働かなくていい階級。パークス公使のはからいで無制限に北海道まで陸路の旅ができた。婦人が一人旅をできるような国は当時世界で日本ぐらい?だが、それは日本人もしり込みするような過酷な旅だった。なにせ当時の日本人は数マイル先の情報も何も持っていない。
  • 書かれていることが率直すぎ!w 妹にあてた手紙がベースになっていて、日本人に読ませる想定でなかったためか、とにかく正直に辛辣な意見も包み隠さず書いている。だが概ね日本人の親切さと礼儀正しさには好意的。ほとんど浮浪者がいない。みんな働いている。
  • 蚤と蚊の大群! 一体なぜ?というほどに、どの土地に行っても大量の蚤と蚊に悩ませられている。防ぐ方法が蚊帳ぐらいしかない。当時の日本人には毒虫の防御方法が何もなかった?
  • 日本の内陸の村々が極貧で不潔!悪臭が酷い 150年前の日本の田舎の記述が読んでいて哀しくなる。おそらく生活排水の垂れ流しや肥溜めのせい?
  • 皮膚病患者が多い 毒虫に刺されまくって皮膚がただれ炎症を起こしているケースが異常に多い。大人も子供も。こどもたちの半数は疥癬しらくもに冒されている。しかも医療も受けられない。
  • 眼病患者が多い これは日本の農村の特色?眼炎をおこしてる人が異常に多い。明治時代になってもこれだと江戸時代以前は失明する人がもっと多かったに違いない。
  • 行っても行っても泥の道 日本の陸運はほぼ存在していない。文明国として歩みだした日本政府に対して「まず道路をなんとかしろ!」と建白。通常の外国人のように、大きな街道沿いの宿場町を観光旅行してればこんな目には遭っていない。
  • 馬がいない 当時の日本はやせ細った貧相な駄馬しかいなかった?泥道に躓く馬が多い。この馬に乗ることがよほどの苦行だったらしい。落ちないように必死。バードさんは背中を痛めて体調を崩している。
  • 食べ物が酷い 西洋人は肉を食べたがるのだが当時の日本では入手が困難。臭い米(雑穀)、味のついてない野菜、塩魚、ひどくいやなもののスープ(味噌汁)などを食べる勇気がすごい。
  • 日本男子の体格が貧相 日本に上陸した当初から日本の男が小柄で痩せて肌につやがないと指摘している。胸が凹んでいてみすぼらしいと指摘。洋服が日本人をさらにみすぼらしく見せる。
  • 50歳ぐらいだと推測していた女性が22歳と判明してショック! 当時の日本人女性はあっという間に老けてしまったらしい…。
  • 新潟をこき下ろしている 当時すでに開港していた新潟だが、信濃川が砂がたまりやすく港としてほとんど機能していない。外国船もほとんど入港しない。気候が悪い。
  • 秋田を褒めている バードさんは各地の町並みをもれなくみすぼらしいと酷評してるけど、西洋料理にありつけた久保田(秋田)は褒めているw 自然風景はたいてい褒めたたえる。山形の米沢平野は桃源郷!?
  • 日本にはプライバシーというものがない 外国人というものを初めて見た明治11年東北日本海側の人々。千人、二千人が珍しい外国人見物にやってきた!好奇心が強いのかもしれないけど、みんなぽかんと口を開けてただ見てるw 障子に穴をあけて覗いたり、勝手に襖を開けられたり。宿屋の主人から帰れと言われても「こんな見世物を独占する気か!公平に見せろ!」w
  • 一目見て逃げ出す子どもまで! 猿回しの大きな猿だと思われ憤慨のバードさんwま、日本人は1970年の大阪万博でも外国人というだけでサインを求めたぐらいだからな。
  • 日本人のこどもへの愛情 こどもたちと遊ぶ大人たちが楽しそう。こどもへの愛情を「崇拝」と表現。「私は、これほど自分の子どもをかわいがる人々を見たことがない。子どもを抱いたり、背負ったり、歩くときには手をとり、子どもの遊戯をじっと見ていたり、参加したり、いつも新しい玩具をくれてやり、遠足や祭りに連れて行き、子どもがいないといつもつまらなそうである。」「私は日本の子どもたちがとても好きだ。私は今まで赤ん坊の泣くのを聞いたことがなく、子どもがうるさかったり、言うことをきかなかったりするのを見たことがない。日本では孝行が何ものにも優先する美徳である。何も文句を言わずに従うことが何世紀にもわる習慣となっている」英国人はこうじゃなかったんだなあ。
  • 礼儀正しい警官もいればそうでない警官もいる 人だかりができると追い払ったり護衛もしてくれる。だが、何度もしつこく旅券を調べる警官は邪魔でしかない。
  • 秋田から青森にかけて集中豪雨に遭っている 東北は連日の雨でさらに悪路に。濡れた衣服を着ないといけない。泥だらけでボロボロになり果てる…
  • 伊藤 バードさん以外でただ一人のレギュラー同行者。従者にして代理人通訳で秘書にしてネゴシエイター。この青年が大変に有能。英語学習意欲も高い。バードさんの旅が無事に終わった最大の功労者。忠実な仕事ぶりで高く評価されるべきだが、バードさんはところどころで「巧妙に上前を撥ねている」「態度が不愉快」などこき下ろしているw 読んでる最中はわからなかったのだが、巻末解説によれば伊藤は18歳だったらしい。それはびっくり。室蘭ではいつのまにか現地娘と仲良くなってるw
  • 後半3ぶんの1がアイヌとの交流 アイヌの集落に滞在してアイヌの風習を観察するバード。伊藤から嫌がられる。伊藤「アイヌ人を丁寧にあつかうなんて!彼らはただの犬です!人間ではありません。」とか、この時代の標準的日本人の認識だったのかもしれない。日本人はみんな好奇心が強く西洋人女性の自分に注目するけど、アイヌ人はじろじろ見たりしない。いろいろ学術的にも貴重な記録。
という婦人旅行家が妹に語りかける素晴らしい19世紀ニッポン大旅行記。文明開化と無縁な田舎の旅。
昔の旅行記を読むと、一緒に過去の時代を旅している気分になれる。

ポリコレとか関係ない時代、心の声をぜんぶぶっちゃけてる旅行記は面白い。
バードさんは日本の音楽が嫌いだったっぽい。三味線も調子はずれの唄も騒音にしか聴こえなかったっぽい。「日本人の車夫はひとりにすると歌い出してかなわん。アイヌ人は静かでいい」とかw

この本は一度は読んでみることをオススメ。NHK大河でイザベラ・バードをドラマ化希望。シャーロット・K・フォックスを希望。
自分も昔ヨーロッパをリュックサック一人旅をしたことがあったのだが、日々怒りのあまり日記に「イタリア人ファック!」とかそんなんばかり書き連ねていたw そしてその日記帳もチェコでスリに遭って失うという。

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