2019年1月10日木曜日

偽書「東日流外三郡誌」事件(2006)

偽書「東日流外三郡誌」事件(東奥日報編集委員 斉藤光政著 2006)という本がそこにあったので買って帰った。2009年新人物文庫版の2011年第5刷。100円でゲット。

青森県津軽地方の農家の天井裏から「発見」されたという失われた古代・中世史の写本とその後の大論争と大騒動の顛末記。
とある民事訴訟からこの疑惑を追いかけることとなった新聞記者によるスクープと関係者を訪ね歩いて偽書と判明するまでの詳しい経緯が描かれる。この人がこの事件に一番詳しい記者。

自分は10年ほど前に図書館で古代史に関する本ばかり読んでいた時期があって、この「東日流外三郡誌」に関する本も自然と目に入っていた。図書館ではちょっと時代遅れの古い本が自然と目につく。

もちろんそれは嵐のような騒動の数年後のこと。リアルタイムでこの事件を追っていなかった。そんなことが起こっていたとはぜんぜん知らなかった。
古田武彦と原田実による本も読んでいた。それでもうこの偽書に関する本は2度と見聞きすることもないだろうと思い、実際忘れていた。おそらくこの偽書と関わってしまった誰しもが忘れたい出来事。

古田武彦と支持者のイッちゃった感じが怖い。なにゆえ奉納額に秋田孝季の署名があると和田文書が偽書でない証拠となるのか?その思考回路が不思議。自説に不利な証拠はまったく見えていない。寛政原本なるものはついに登場しなかった。
古田武彦の著作はすべて読む価値を失った。和田とその与党を糾弾するのに安本美典と原田実の両氏が大活躍。

ここまで荒唐無稽な妄想に偉い先生までもが引っ掛かってしまった点は忘れるべきでないと思う。超古代史とかムー大陸とかキリストの墓とか竹内巨麿とかオウム事件とかフェイクニュースも根は同じ気がする。

和田喜八郎という人物はその才能を「ハリーポッター」「ナルニア国」「指輪物語」「南総里見八犬伝」のような空想ファンタジー小説に注ぎ込むべきだった。古文書の偽造に没頭するというとんでもない迷惑な趣味仕事に人生を費やしてしまった。

ある程度豊かな市民社会が成立してる国なら、たまにこういう恥ずかしい人が出現するのもやむを得ない。
旧石器時代遺跡捏造も日本人自らの手で糾弾し抹殺できた。この偽史書も青森県人の手で糾弾し追及し汚名を晴らそうと奮闘した人がいたことは希望。
(その一方で自国に半万年の歴史があるとか吹聴しつつ、他国に間違った歴史を捏造するなと騒ぐ某国の存在が怖い)

この本は今読んでもとても面白い。そんなことが?!という嘆息と驚愕の展開を見せる。
功名心?愉快犯?東北人の中央への屈折した心情?嘘に嘘を重ねた哀しい偏屈古文書詐欺師老人の人生と末路。

これ、ドラマ「TRICK」そのまんまだと感じた。横溝正史よりも面白い。コンプレックスを持った人々の心にぬるっと入り込む。

多少のお金を失ってしまって怒り心頭という人がいる一方で、「エエ夢みさせてもろたわ~」っていう人も多い。和田は詐欺師であったが名優でもあった。著者はその点にまるで触れていないが、和田は多くの教訓を投げかけた。
まるで「コンフィデンスマンJP」。古沢良太脚本でドラマ化希望。NHK未解決事件ファイルでもやってくれ。

2 件のコメント:

  1. この本自分も興味深く読みました。和田の有り得ない創作パワーには恐れ入った。ちょっとの期間青森にも住んでいて、関係ないけど三戸のキリストの墓にも行きました。結局、古田武彦の古代史本は全部捨てました

    返信削除
    返信
    1. >古田武彦の古代史本は全部捨てました

      まじすか!ww この本ほんとに面白いですよね。誰か映画化してほしい。
      キリストの墓、以前行きたいと思ってたけど、この本読んだら別にどうでもいいかなってw

      削除