2018年11月4日日曜日

松本清張「黒地の絵」

松本清張「黒地の絵」(傑作短編集2)を読む。
これは昨年秋に北関東のBOで90円セールワゴンの中から確保した十数冊のうちの1冊。昭和40年版新潮文庫の平成22年第60刷。
松本清張の新潮文庫版はたいていどの作品も数件回れば安価で容易に見つけられる。

傑作短編集とあるけど、ここに収録されている9作品はそれほど傑作と感じない。初めて松本清張を読むという人にはオススメしない。どれもがミステリーというわけでなく鬱系短編小説。巻末解説が十分でなく作品の初出がほとんど不明。

では順番に読んでいく。

「二階」
2年におよぶ入院によっても病状が回復しない男、やっぱ自宅に戻りたい。妻を説得して自身の経営する町工場の二階で寝たきり。で、住み込み派遣看護婦を雇うのだが、鋭い妻はやがて疑惑を深めていく…。

「拐帯行」
会社の金を持ち逃げし女と九州へ心中旅行。行く先々で上品な中年カップルを目撃し死ぬ気が揺らいだ男の話。なんか、太宰っぽい。

「黒地の絵」
この作品を読みたくてこの本を買った。朝鮮戦争で劣勢に立たされる米軍、次々と送り込まれる兵士でふくれあがる小倉キャンプで、昭和25年7月11日夜に起こった黒人兵士250名の集団脱走と、周辺の家々に上がり込んで酒を飲み乱暴狼藉、婦女子を暴行したという事件。占領下の北九州、事件は軍によって隠ぺい。

妻を暴行され失った暗い過去を持つ男は、朝鮮の最前線から送られてくる米兵の死体処理の仕事を請け負う。心に復讐を秘める。あの黒人兵士の入れ墨は忘れない。
この事件は事実?何も記録に残っていない以上よくわからない戦時下の性暴力を考えさせられる事件。

朝鮮戦争の兵站補給基地になった九州の米軍基地には連日、処理しきれない数の米兵の遺体が送り込まれていたって知らなかった。とにかく暗い話。
松本清張の創作?それとも何かしら聴いた話ベースになってる?よくわからない。

「装飾評伝」
名和薛治という昭和の異端の天才画家について何か書きたい思ってた私。名和の友人で評伝を書いた芦野という人物の訃報を目にする。生前の話を聴くために芦名の娘に会いにいくもケンモホロロ。独自に推理によって名和と芦野の関係に迫る…という話。

これ、読んでいて名和という画家が本当に存在するの?って、ずっと疑問を持ちながら読んでいた。やっぱ清張が創造した架空の画家を追うフェイク歴史ドキュメンタリーだっんだ…。

「真贋の森」
日本美術史のボスたった一人に嫌われたために、アカデミズムでの出世の道を断たれた中年男による、贋作づくりによる復讐の話。
「コンフィデンスマンJP」でも美術品の贋作をつくって売りつけようって話があったけど、古美術の世界は恐ろしい。
自分、主人公はリリー・フランキーで脳内再生していた。この作品で初めて浦上玉堂という日本画家を知った…。

「紙の牙」
これが一番胸糞悪い。市の課長が、市政を監視すると標榜するゴロツキ新聞記者に、些細なことで付け込まれ金をせびられ続ける話。報道に名を借りた暴力の犠牲者。

「空白の意匠」
これがさらに酷い話。威張り腐った編集長の独断専行による薬害事件の誤報によって、広告の大部分を占める代理店と出稿元の製薬会社が激怒。弱小地方新聞社の広告部長が奔走しなんとか尻ぬぐいをするも…、理不尽極まりない結末。嫌な後味。

「草笛」
17歳の職工の廊下を挟んで向かいの部屋に間借りをしていた若く美しい女との交流。そして苦い結末。これは純文学作品っぽい。

「確証」
これがさらに記録を更新する胸糞悪い話。暗く性格の悪い夫が、愛嬌があって社交的な妻の浮気を疑う。どうしても確証が持てず悩んだあげく取った行動が最悪。性病を移す。おそらくほとんどの読者が鬱になるかもしれないラスト。

以上9作のうち、自分がオススメできる作品は「真贋の森」のみ。あとのどれもが暗い気分になる社会派鬱短編。この本は松本清張全作読破に挑んでるというような人しか読んではダメ。

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