2018年10月1日月曜日

横溝正史「夜光虫」(昭和12年)

横溝正史「夜光虫」の昭和50年角川文庫版(昭和52年第13刷)を手に入れた。

こいつを100円棚で見つけたとき「おお、ラッキー」と思ったのだが、小口と天がすさまじく酸化して焦げ茶色で汚いw 
今年の1月にこいつを手に入れたのだが、以後まったく横溝正史本を見つけられない。

巻末解説によれば「夜光蟲」は昭和11年から12年にかけて「日の出」に連載されたもの。昭和11年は2.26事件があった年。5月に阿部定事件、11月に日独防共協定という年。

右肩に世にも不気味で奇怪な腫物「人面瘡」を持つ美少年・鱗次郎が逃走。隅田川花火大会での大捕り物というシーンで始まる。(横溝には「人面瘡」という作品もあったはずだが未読)

そしておなじみ由利探偵と三津木記者が登場。サーカス小屋からライオンが逃げ出したり、謎のゴリラ男が現れたり…。これ、ジュブナイル横溝正史かと思ってたけど、大人が読む怪奇浪漫大衆文芸?

この作品が読んでいてかなり古臭い。親子二代の執念の恋、そして財宝をめぐる争い。まるで講談。
自分がもしこの作品を横溝正史の最初に読む1冊にしてしまったら、私的横溝正史再ブームはもっとずっと後になっていただろうと思う。自分からするとかなり物足りない。内容が薄っぺらい。

映画のように、それぞれの視点から断片的に描かれる。これがかなりわかりにくい。文体は味わいがあるが、構成は美しくない。
話が突然、池袋郊外から白髭橋とかに飛ぶ。そこにもたまたま由利探偵と三津木記者が歩いている。そこ、何も説明がない。

池袋から要町にかけてのあたり、昭和11年ごろはまだ武蔵野の田園風景。時計塔のある怪しい屋敷とか出てくる。そこでインディージョーンズみたいな財宝探しの冒険。

時計塔の仕掛けと罠、男女双方に伝わる金無垢観音に刻まれた文字が財宝のありかを示す暗号?
ひょっとすると宮崎駿監督はこの本を読んでいて「ルパン三世・カリオストロの城」に活かした?とも思ったのだが、調べてみたら宮崎駿がイラストを描いた江戸川乱歩「幽霊塔」という本が岩波書店から出てることを知った。そっちが原点っぽい。

「みんな片輪ものばかりじゃないの。片輪オン・パレードだわね。」とかいう台詞であふれている。この時代の日本は障害者に対する気遣いがまったくない。
美少年美少女が正義で、悪は「片輪」って、この時代の読物には常識的なパターンか?
ヒーローのはずの三津木記者の台詞「ふふん、今度は跛(びつこ)かい、ははははは!」とか言う始末。
もうこの本はそのままだと出版できなさそうだ。もう需要もないかもしれない。

「真珠郎」は展開も面白くてわくわくしながら読めたのに、「夜光虫」はちょっと退屈した。

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