「蔵の中」は他の表紙イラストの判も存在するのだが、今回自分が手に入れたものは西井正気という人によるもの。
横溝正史オタは杉本イラスト角川文庫を好む人が多い。あれは表紙イラストが不気味すぎて嫌だったw できれば他のものが良いと思ってた。昭和56年第19刷だったのだが天も小口も茶色く酸化していて汚い。
鬼火(昭和10年)上諏訪で療養中の横溝が、体力の回復に自信を持ち始めた昭和9年に苦労してかき上げたもの。諏訪湖が舞台。
人間はここまで不幸に落ちていくものなのか!という、憎悪しあう従弟同士のおぞましく陰惨で不幸な人生と最期。これは発禁処分になっても仕方ないわ。
江戸川乱歩の影響を強く感じた。「犬神家の一族」の原型要素も垣間見えた。
ミステリーとかサスペンスではなく純文学ホラーと言えるかもしれない。
蔵の中(昭和10年)聾唖だった姉との想い出の蔵の中。そこにあった望遠鏡で犯罪現場を目撃した青年が、小説として雑誌編集者に読ませるという形式。ちょっと変わった構造。テーマ的に清張の社会派サスペンスっぽいけど、どちらかというとやはり乱歩の影響か。
この短編集の中ではこれが一番面白い。でもやっぱり陰惨。
かいやぐら物語(昭和11年)は露見しなかった完全犯罪の話。ポーのような怪奇幻想ホラー。
貝殻館奇譚(昭和11年)ポーにも仮死状態から生き返るテーマがあったけど、これも乱歩の「パノラマ島奇譚」の影響?殺人を重ねるサイコパス女をあばく緑川大二郎という人物は後の由利探偵や金田一さんの前身?
蠟人(昭和11年)これが「鬼火」以上に読んでいて鬱になる話。諏訪湖を舞台にした美しい芸妓とその旦那、美青年の競馬騎手によるドロドロの三角関係三面記事。最後のほうはわりと驚きの展開。
面影草紙(昭和8年)上方コトバの口語体で、日露戦争直後の大阪を舞台に売薬問屋の家族崩壊を描いてる。友人の話という形式。多少の日常ミステリーの要素もあるけど純文学作品?自伝的要素も含んでる?このへんは谷崎文学の影響?
どれもが鬱系イヤミスなので精神が充実してる人にしかオススメできない。「蔵の中」は広く読まれてもよいと思う。
御存じかもしれませんが、この機会に三津田信三の刀城言耶シリーズを紹介します。
返信削除順に「厭魅の如き憑くもの」「凶鳥の如き忌むもの」「首無の如き祟るもの」「山魔の如き嗤うもの」「密室の如き籠るもの」「水魑の如き沈むもの」「生霊の如き重るもの」「幽女の如き怨むもの」「碆霊の如き祀るもの」(これが直近のハードカバー)・・どうですか、題名だけでも危ない感じがプンプンするでしょう?
このシリーズは殆どが毎年のミステリBEST10入りしていますが、「山魔」と「水魑」の評価が特に高いようです。わたしは「厭魅」も好きです。
横溝の「犬神家」や「手毬歌」を思わせる雰囲気を漂わせながら、全体はガチガチの本格です。もとが怪奇雑誌の編集者でホラーも書くので、基本怖いし、情報が豊富です。ブラックユーモアもある。初めの頃のは講談社文庫入りしているのでBOOKOFFでも手に入るかもしれません。
三津田信三という名前はなんとなく目にしたような気もしますが、まったく注目したことも手に取ったこともありませんでした。さっそく探して来ます。
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