2016年10月8日土曜日

押川春浪 「海底軍艦」(明治33年)

BOできまぐれにこの本を手に入れた。「海島冒険奇譚 海底軍艦」押川春浪 明治33年 文武堂)のほるぷ社の初版復刻版(昭和49年)。 200円だった。
こういう本を児童向け書籍のコーナーに置いても誰も手に取らないと思うw 

これ、家で調べてみるまで「海底二万里」(1870年 ジュール・ヴェルヌ)の翻訳だと思っていたのだが、どうやら「海底二万里」にインスパイアされて書かれた明治日本SFファンタジーの草分け的児童向け読み物だったらしい。戦前の子どもたちにはおなじみの本だったらしい。

明治33年といえば西暦1900年なので、つまり116年前の児童文学!日露戦争よりも前!軍国日本の息吹!116年前の本が今でも当時出たそのままの姿で読めるって素晴らしい。

題字は伊東海軍大将(子爵)が書いている。序文は肝付少将(子爵)と吉井少佐(伯爵)、小笠原少佐(子爵)らの名前が並ぶw 発売時の価格は三十銭。

「海底軍艦」というと、円谷監督による昭和38年の東宝特撮お正月映画(高島忠夫主演でゴジラ博士の小泉博も出演!)が有名だが、いちおうこの本が原作のようだが内容はまったく違うらしい。原作そのままに映画にすると平和国家日本にはふさわしくない内容になってしまう。
このとき初めて小松崎茂画伯デザインによる「轟天号」が登場したのだが、明治33年刊の本書にはその名前は登場しない。「海底戦闘艇」とか「電光艇」とか呼ばれている。
仮名遣いはそれほど難しくない。慣れればすらすらと読める。だがやはり喋り言葉は明治日本だな。

とにかく読んでるだけで面白い。国民すべてが欧米列強に追いつこうという気概と思考回路w 
子ども向けとは言っても、登場人物たちがとにかく全力で大日本帝国のためにという動機だけで動くw 
世界を流浪するこの本の主人公で旅人・柳川君は伊太利の「子ープルス港」(ネープルス)で旧友と再会する場面から物語は始まる。
ネープルスって何?イタリアの地名っぽくない。どうやら「ナポリ」のことではないか?
珈琲には「カツヒー」と振り仮名がついていたりして、そっちのほうで苦労するw
最初はだらだらと何も起こらない。

たまたま旧友の妻子と日本に帰る汽船に同乗することになる。不吉な前兆を見た英国紳士が「南無阿弥陀仏」とか口走るw 
インド洋で海賊船の体当たり攻撃によって沈没。我先にと端艇に乗り込んだ人々は転覆してみんな沈んでしまい、主人公と旧友の幼い息子・日出雄の二人だけが生き残る。
船上サバイバルの末に南インド洋上の絶海の孤島へ漂着。なんだか面白くなってきた!w

その無人島で桜木大佐というスーパーマンと出会う。
この人物の天才的資質のみでスーパー新兵器が作られるのだが、無人島で33名の水兵だけでこんな宇宙戦艦ヤマトのような戦艦が作られるということになんらリアリティはない。
軍艦と工作機械を動かす動力を何か化学薬品のようなものから得ているらしいのだが、「軍事秘密」という一言で「詳しく書けない」で片付けるw
明治日本の空想小説にリアリティという概念すらないのかもしれない。
そもそも無人島へ片道1回で運んだ材料と工作機械で、運んだ船以上の軍艦が出来るわけがない。
鐵檻車が登場してからはさらに失笑の展開。とにかく都合がよすぎる!w

無人島を朝日島と名づけるのだが、欧米列国に大日本帝国の島だと主張するために、猛獣毒蛇がいて誰も近づけない場所に記念塔を建てようという話になる。そして「鐵檻車があるから大丈夫」ってことになる。まだ出来てないのに勝ったも同然のように話すw

しかも技術者でもない素人なはずの主人公がさらっと完成させるw 無茶すぎる。
ひょうきん武村兵曹、こいつの存在には呆れる。

ゴリラとライオンと虎が襲い掛かる無人島!w 
旋廻圓鋸機が虎を引き裂くと水兵たちがやんやの喝采w 実に楽しそうに動物を殺すw
完成した新軍艦「電光艇」が意味無く鯨を殺す!w
明治日本の兵士たち、大丈夫か?いや、大丈夫じゃなかったから後にあんなことになったわけだが。

突然の津波で燃料喪失。一か八か気球で海を渡り洋上でたまたま日本の軍艦と出会うw 燃料を補給した電光艇が海賊船と戦う。
ま、手塚治虫以前の日本の冒険SFマンガもこんな感じだったのかもしれない。大人が読むと、「そんなわけないだろう!」と突っ込みっぱなし。展開が突然すぎ!

クライマックスの戦闘シーンはまるで太平記を読むような名調子w
「今一度、諸君と共に大日本帝國萬歳!帝國海軍萬歳!を三呼しませう。」
というわけで、この本が手に入る人は一度は読んでもいいかもしれない。明治の日本人のファンタジーに笑える。

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