2015年2月26日木曜日

伊丹十三 「タンポポ」(1985)

この映画はおそらく日本映画史上もっとも面白い。自分的には全年代ランキングでも5本に選んでもいい傑作。昭和日本が舞台なのに主人公の名前が「タンポポ」って、おかしいだろ……。

「あまちゃん」でヒロインのおばあちゃんだった宮本信子がヒロイン。亡き夫から引き継いだラーメン屋を、小学生の息子を育てながら1人で切り盛り。だが、このラーメン屋が暗くて不味くて惨め……。流れ者のトラック運転手ゴロー(山崎努)がタンポポとともに行列のできるラーメン屋にするべく奮闘する……という話。

この映画、公開当時「ラーメン・ウェスタン」と呼ばれていた。西部劇のようなラーメン映画。山崎はずっとカウボーイみたいな帽子をかぶりっぱなし。

ラーメンに止まらず「食」という壮大なテーマに挑んだ圧倒的にバカバカしいめちゃくちゃな作品。伊丹十三(1933-1997)監督の残した大傑作。伊丹十三は「お葬式」「マルサの女」も有名だけど自分は見ていない。

この映画、日本映画界でおなじみの面々が次から次へと登場し話を脱線させる。通りかかった人に主役が移っていく。そして、すべてのエピソードで必ず笑いを取る。映画というものはこれぐらいアイデアに満ち溢れていないとダメ。最初から最後までめちゃくちゃ可笑しい。大滝秀治がモチを喉に詰まらせるシーンも抱腹絶倒。食品スーパー店長の津川雅彦と食品テロばばあとの争いも意味不明。渡辺謙さんも若い!白いスーツ姿のマフィアのボス・役所広司も若い!

役所広司は官能シーン担当。情婦との生卵の口移しでのやりとり。この映画、「食」に関するすべてを扱っているのだが、「食と性」を同時に描いたシーンは映画史上でこれしかないのではと思う。家族でお茶の間で見るには適さない。

海女の少女(洞口依子)から牡蠣をもらい食べようとして役所は口を切る。鮮血のついた役所の唇を少女が糸引きながらべろべろと舐めるシーンが異常にいやらしい。撃たれて血まみれの役所と情婦の会話も「それ今話す必要ある?」って突っ込むわ。「そうね、わさび醤油なんか合うわね」で爆w そしてこの女優、以前見たときは気づかなかったけど黒田福美だったんだな。

この映画は世界的に有名で、今日のアメリカでのラーメン人気に一役買った作品でもある。「食」「グルメ」をテーマにした映画はどれも「タンポポ」を超えられないと思う。「ラーメン」をテーマにした映画がまったくないのはこの映画がすごすぎるからかもしれない。

音楽がグスタフ・マーラーの交響曲第1番とフランツ・リストの交響詩前奏曲だ。大げさすぎて良い。目指すラーメンがついに完成するシーンでは自分もつい涙。

吉高由里子が最近この映画を見たとツイートした。とくに感想がなかった。何か言ってくれ、吉高。

この映画を見たことない人は損をしていると思う。死ぬまでに一度は見ていい1本だ。

2 件のコメント:

  1. Youtubeの(【洞口依子の生電話にタジタジ】宮藤官九郎「明日早い洞口依子、最高(笑)」)では「タンポポ」についての愉しい会話が出てきます。
    洞口依子のデビュー主演映画の相手は、伊丹十三。若いころの洞口、への字に口閉じた暗い感じが、山崎ハコやデビューの頃のyui様系。
    2007年頃にはウクレレバンドのアルバムも出していて、Youtubeには「PAITITI / Ukulele Rendezvous」とか「PAITITI / Picnic」とか能天気なPVも挙がっていて、なんだか笑えます。

    グルメ映画の洋画の横綱はデンマークの「バベットの晩餐会」でしょうか。アカデミー賞取ってます。先日もBSで放送してました。そういえば「リトル・フォレスト」。あれもグルメ映画ですよね。

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  2. 聴いてきた。自分がクドカンと同じ箇所に反応してて(笑)
    今回この映画を見て初めて海女の少女が洞口依子サンだと知った。少女すぎた。「アタイの手から直接食べるといいよ」、能年でもイメージしてみる。

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