2014年8月4日月曜日

井伏鱒二「駅前旅館」(1957)

井伏鱒二(1898-1993)の本を初めて開いてみた。「駅前旅館」(新潮文庫)、この本もたまたまそこにあったから。
駅前旅館の番頭さんの独り独演で戦前戦中戦後の駅前旅館業の日々の騒動が延々と江戸コトバで語られる。なんだかリズムが独特で話がわかりにくい落語みたい。

地方を旅して回っていると、古い駅前旅館の残骸を目にすることがある。ビジネスホテルにもなれず干からびた、誰が泊るんだ?というような日本旅館。

かつて国内観光が華やかだった時代がある。この本を読むと工場経営者とか、炭坑を持ってる経営者とかが芸者や幇間連れ回って酒宴して旅行するのって戦後まで続いていたのかよ!って思った。もうそんなことする人は誰もいない。

番頭ってホテルマンでしょ?って思っていたけど、羽振りのいい客を馴染みの女中がいる茶屋から吉原遊郭へ案内するとか、江戸時代と同じことを昭和までやってたってすごい。今の時代の若者と大きな断絶がある。この時代の人のやってることが理解できない。

修学旅行の先生からの「なんで高校生が1階で中学生が2階なんだ」ってクレームをなだめすかすことも旅館の番頭さんの仕事。時には東京土産の羊羹が酷いとクレーム。口八丁手八丁べしゃりのコミュニケーション力と才覚がすごい。
この時代のやんちゃ修学旅行生は宿を抜け出してカフェーや酒場、赤線地帯へ出かけたりしてただと?そんな騒動だらけ。

なんでこの国には修学旅行なんてものがあるんだろう?大部屋でザコ寝して寺社仏閣を回るとか本当にくだらなすぎて意味不明。高校の修学旅行なんて今思えば行かなければよかったと思う。そもそもお金がもったいない。今の自分なら積み立てたお金を返してもらって自由に一人旅をする。そのほうが有益だと思うのだが、そこに何か利権があるのだろう。

顔や字をみただけでお金を持っているかどうか、ちゃんとした人かも判断する。独自の符牒を使い電報を打つ。客を呼び込むテクニックとかピンハネキックバック、こんなことばらしていいのか?という番頭稼業の裏話や女中との色恋。へぇと思うことはあった。

今はネットでビジネスホテルを予約してすっと行ってさっと帰る。便利でいい時代になった。おいしい部分は旅行会社へ、やがて楽天のようなネットへ持っていかれて絶滅。

2 件のコメント:

  1. 川崎鶴見U2014年8月4日 22:48

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    「さざなみ軍記」ぐらいしか、井伏鱒二は読んでないですね。
    都落ちした平家の少年の格調高い手記でした。あと「山椒魚」とか。
    福山生まれの井伏は森鴎外の弟子。井伏の弟子が太宰治。。
    「太宰も瀬戸内海を見たら死ななかっただろう」と言ったとか。
    「さざなみ軍記」も瀬戸内海が舞台だったな。
    太宰の人柄を愛していて、「太宰が生きていたらなあ」が口癖だったそうですよ。

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    太宰治、今年で105歳。
    師匠の影響はあまり感じない。
    井伏はかなり時代を感じた。
    有名な「黒い雨」はまだ読んでない。

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