2013年11月18日月曜日

太宰治 「正義と微笑」「パンドラの匣」

30代にさしかかった太宰が実在する無名の人物の日記を元に、戦時中に書き下ろし長編として発表した「正義と微笑」、そして若くして結核でなくなった無名の人物からの手紙を元に、終戦直後の10月から「河北新報」に連載した「パンドラの匣」の2作収録の新潮文庫版を読んだ。それぞれ16歳と20歳の若者が主人公。

「正義と微笑」は戦時中の16歳の中学生が主人公だが、まったく戦時下とは感じられない希望に満ちた楽しい作品。
教師批判やら先輩とのやりとり、受験勉強、俳優を目指すようになる主人公の学校や家庭での出来事がいきいきと描かれている。

中学生といっても17歳で一高を受験するようなエリートで秀才なので、今日の高校生が読んでもそのまま理解はできないかもしれない。
日記として語られる心理や思想は太宰の中学時代そのものなんだろう。だが、それでも高校生や若者にオススメできる作品だ。

R大学へ通うようになるのだが、これは立教大のことだろう。太宰がこの時期に熟読していた聖書からの引用が多い。
太宰の作品の中でも明るくてポップで面白いといっていい。太宰の小説には印象的な一文があるのだが、主人公のよき理解者の小説家を目指す兄と「何が一番美味しいか」についての議論が自分には強く印象に残った。
今夜は、兄さんと、とてもつまらぬ議論をした。たべものの中で、何が一番おいしいか、という議論である。いろいろ互いに食通振りを披瀝したが、結局、パイナップルの缶詰の汁にまさるものはないという事になった。桃の缶詰の汁もおいしいけど、やはり、パイナップルの汁のような爽快さが無い。パイナップルの缶詰は、あれは、実をたべるものでなくて、汁だけを吸うものだ、という事になって、「パイナップルの汁なら、どんぶりに一ぱいでも楽に飲めるね。」と僕が言ったら、「うん、」と兄さんもうなずいて、「それに氷のぶっかきをいれて飲むと、さらにおいしいだろうね。」と言った。兄さんも、ばかな事を考えている。
おそらく、ここを読むと、太宰もパイナップル缶の汁が大好きだったんだろうと思った(笑)。「正義と微笑」にはこんなくだらないことが書き連ねてある。

そして、「パンドラの匣」は終戦直後の結核療養所に入所している主人公とその他の面々を、親友に当てた手紙という形式で描いた青春小説。

これからの新生日本への太宰の心境が語られる。20歳の主人公と二人の若い女性助手とのラブコメっぽいのだが、こっちは読んでいて時代を感じる。

太宰らしい自意識過剰青年。若い女性の目を気にしすぎ。人によっては「コクリコ坂」の若者気風程度の差しか感じないかもしれないが、自分にはよくわからなかった部分も多い。

太宰はこの小説に途中でむなしさを感じるようになり早めに連載を終えてしまう。以後、太宰は絶望的な暗い作品しか書かなくなってしまった……。

2 件のコメント:

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    先日、文学全集の太宰さんの巻を105円で買いました。(しかし箱本て、ほんとに安い)
    自前の太宰さんの巻の箱が傷んでいたので、箱だけいただきました。
    太宰さんごめんなさい。

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    たしかに安い。紙の本はあと何年耐えていくんだろうって心配。電子書籍になったら古本文化はどうなるんだろう。

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