市川準監督作品「つぐみ TUGUMI」（1990）

TSUTAYAでこのDVDが目に入った。よしもとばなな原作のベストセラーを当時の人気CMモデルで女優だった牧瀬里穂主演で映画化された「つぐみ」(1990年 松竹）だ。

今の高校生、大学生は牧瀬里穂をまったく知らないかもしれない。90年代初頭、牧瀬里穂、宮沢りえ、観月ありさの3人の名前から3Mといわれていた時代だ。まあ、今でいったら長澤、ガッキー、戸田えりかといったところか？

過去に何度か放送されたので2回ほど観ているのだが、今回久しぶりに見てみることに決定。実は自分にとってよしもとばななは２大「どこがいいのかわからない」作家のもうひとりなのだ。以前観たときには、まったく納得できない、よくわからない映画だった。

大人になった今、観ればわかるのではないか？そんな期待をもって見始めた。ちなみに「つぐみ」はセンター試験で出題されたこともある。映画は朝の築地の風景から、もう１人のヒロイン中島朋子のナレーションで始まる。

自分は市川準の作品が好きだ。都市で生活する人々を独特の眼差しで切り取る様が。

90年代の始め、街の風景は今とさほど変わらないが、まだケータイもないし、茶髪のギャルもいない時代だ。西伊豆松崎の美しい風景をバックに、東京へ進学した従姉妹とつぐみと姉のひと夏を描いた作品だが、これが市川準の、ゆったりと流れる時間を詩情豊かな映像で見せるセンスがすばらしい。

美しい日本の風土と、移ろい行く時と人々の暮らしを描かせたら日本一。この作品では市川は脚本も担当している。

今回見て驚いたのだが、牧瀬里穂（当時18ぐらい？）が現在から見ても、とても魅力的なことに気がついた。牧瀬里穂が女優として演技が評価されることはあまりなかったように思われるが、この「つぐみ」での熱演はすばらしい。この役は当時の彼女以外にありえなかったと思う。そして何よりも‥‥、圧倒的に可愛い！女優にとって若いって決定的な武器なんだな。

性格のひねくれた女の子という役どころだが、誰からも愛される可愛さを持った意地の悪い女の子の役を絶妙なバランスで演じた。大人になってから観てみたらいろいろな点で納得がいった。これは名作といっていい。心地よい余韻が残った。市川準は女の子の青春映画を撮らせたらどれも素晴らしい。オレのまさみとガッキーも撮って欲しかった‥。

真田広之、財津和夫、あがた森魚、吹越満が若い！まあ22年前だからね。自分的に真田が牧瀬の恋の相手というのがちょっと‥、キスシーンとかあるけど‥、あんまり合ってなったような。今回調べてみたら、牧瀬里穂は3年ちょっと前にNIGOと結婚していた。そして、つぐみの姉役の白島靖代は2001年にヤクルトの選手と結婚後、芸能活動を引退したらしい。つぐみの従姉妹まりあ役の中島朋子も1998年に結婚している。この3姉妹の浴衣姿もこの映画の見どころのひとつ。美しい日本の風景だ。

今回、この映画についていろいろ調べてみて最大のショックは、この映画の舞台となった梶寅旅館が昨年取り壊されていたことだ。びっくり。松崎への交通が海運から道路へ変わるという時代の変化と共に、この立派な日本旅館の役割も変わっていったんだろう。

実は、自分はこの旅館に宿泊したことがある。大きな風呂にも入った。もう10年ぐらい前のことだと思う。この映画の撮影当時のものがそのまま残っていた。松崎の街を歩き回った。美しい街だった。ずっと心の中でいつかまた‥と思っていたのだが、それはもう叶わない‥。

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PS.　遠い昔にこの旅館に泊ったときの写真を探し出した。心の奥底に微かに残っていた記憶をたよりに。

続く

そして、先日、吉本隆明が亡くなったというニュースを聞いた。またひとつの時代が終わった。