2025年1月5日日曜日

西村京太郎「盗まれた都市」(1978)

西村京太郎「盗まれた都市 左文字進探偵事務所」を読む。今作は1978年にトクマ・ノベルズから刊行、1982年に文庫化。自分が読んだのは2001年の「新版」。これを読むことで処分するというので無償でもらい受けてきた西村京太郎を全て読んだことになる。

東京上野でビラ配りをしていた青年が溺死体となって発見。この青年は某県にある10万都市・尾形市でひたひたと進む異常事態に世間の注目を集めようとしていた。
その調査を依頼された左文字進(ハーフ、サンフランシスコで探偵業免許と弁護士資格を得てる)とその妻・史子は愛車のミニクーパーSで現地へ。

だが、この尾形市は住民全員が東京を強く敵視する異常な町だった。エンジントラブルで停止した愛車がいつの間にか破壊。それを警察に訴えても真剣に相手にされない。そのうち愛車が忽然と消えたと思えば、修理された状態で発見されたり、カーラジオに盗聴器があったり。町ぐるみで嫌がらせに遭う。

さらに、駅前のホテル(唯一のよそ者が止まれる宿)で話をした地元紙記者が河原で死体となって発見。左文字夫妻はまるで容疑者のように連行。地元警察の捜査一課刑事がとてつもなく酷い態度の冤罪刑事。

まもなく、東京から流れてきたヒッピー男の車が検問で止められ、被害者の財布と現金を所持していたとして逮捕。どうやらこの容疑者もハメられたらしい。地元民を東京の人間が殺した!と殺気立つ尾形市民。
この青年を左文字が弁護を引き受けるのだが、様々な嫌がらせ。あまりに早い起訴。これでは何も準備できない。

警察側が見つけ出した現場目撃証人の老人と面会。この老人の証言が嘘だと看破した左文字。だが、左文字が帰った直後に「自分が死んだら犯人はあの東京から来た夫妻」と書き残して、目撃者老人は河原で刺殺される。左文字はさらに窮地。

これ、読んでる最中から、星新一のような空想近未来社会派SFサスペンス?!驚きとイライラと困惑。なにこれ?

さらに、市と外部をむすぶトンネルも爆破。殺された記者の婚約者も巻き込まれ死亡。
左文字は公判でこの市で起きた事態を暴露する戦術へ。

たぶん、昭和5年生まれの西村京太郎が幼少時からナマで体験した、戦争へと転落していく日本社会の狂気そのものを描いてる。全体の空気になんとなく迎合。率先してお先棒担ぎ。
それでいて戦後は「みんな悪かったよね」と誰も責任を取ろうとしない。そんな戦後東京の混乱を実際に見てきた氏ならではの怒りと告発のサスペンスミステリー。

西村氏による近未来を警告する予言書?最後のオチもまさに近未来SF。1978年に書かれたとは信じがたいが、西村氏はコンピューターに関する知識もあったのか?
面白くてあっという間に読んでしまった。

これを今読んだ人は、政府主導で半日に狂う中国・韓国を連想するだろうし、今現在、大阪維新の会や兵庫で進行している事態も連想。

「最初は酷い知事だと思った」「自分でSNSで調べて真実を知った」「何で調べた?立花氏のYOUTUBEとか」って、これは本当に笑えない。マトモな人間の言うことではない。何も事実関係を把握していない。民意を尊重しろ?民主主義の危機はすぐそこにある。

ごく狭い限られた情報にしか接することのできない市民の巻き込まれた陰謀。今なら起こり得ない?いや、SNSのある今はさらに危ない。

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