黒岩比佐子「パンとペン 社会主義者・堺利彦と売文社の闘い」(2010)を2013年講談社文庫版で読む。第62回読売文学賞を受賞した大作。
黒岩比佐子(1958-2010)がすい臓がんと闘いながら書き上げた文庫600ページに迫る堺利彦伝。
堺利彦(1870-1933)は明治大正期の社会主義者。日本史でこの時代の社会主義には数ページさかれているはず。だが自分は堺利彦を名前しかしらなかった。
弾圧と迫害と度重なる入獄。この時代は左翼思想を持ってるだけで取り締まりの対象。いつも刑事が尾行。
豊前国仲津で小笠原藩藩士を父に生れた堺利彦は幼少時から優秀。豊津中を卒業後に上京し一高に入学するも放蕩の末に中退。以後、文筆で身を立てようと考える。
小学校教員、新聞記者を経て小説を書くようになる。
1900年に北清事変(義和団の乱)を従軍取材。1903年に幸徳秋水と平民社を興す。日露戦争では非戦を表明。
大逆事件のときは入獄してたので連座することなく命が助かる。この本の第5章はまるまる大逆事件。(大逆事件で死刑執行された冤罪12人の顔写真を初めて見た)
そして売文社を設立。てっきり左翼系オピニオン誌のようなものかと思ってら、海外作品を翻訳出版する会社。博文館や早川書房みたいなもの?アルセーヌ・ルパンなどの意外なものまで翻訳。なにせエリートたち。海外文献を読み漁る。
この時代、主義者は関わるだけで累が及ぶと一般人から恐れられる。堺は命を狙われる。関東大震災では大杉栄が殺される。堺もターゲットらしかったのだが、やはり入獄していて助かる。
この本、明治大正期の文士の名前が大量に列挙されていく。このジャンルに多少は詳しくないと読者は置いていかれる。自分もそこは困った。だがそれでも意外な人物が登場したりするので読み続けられた。
堺の文筆業と売文社の出版事業と関係者がひたすら書き連ねられる。ほぼ学術書。読んでいてそれほど楽しいものでもないが、堺利彦について十分すぎる知識は得られるものだった。
いろいろと初めて知ったことが多かった。忘れないように書き留めると、松本清張が古代史に関心を持つきっかけは、売文社とも関わりが深かった明治大正昭和の大衆作家白柳秀湖(しらやなぎ しゅうこ、1884- 1950)の影響。
0 件のコメント:
コメントを投稿