2020年10月21日水曜日

浜辺美波「屍人荘の殺人」(2019)

今村昌弘「屍人荘の殺人」(2017 東京創元社)を映画化した2019年12月の話題作「屍人荘の殺人」をやっと見た。

これ、公開当時から酷評を聴いていた。というのも、予告編だと名探偵明智役のように感じられていた中村倫也が、映画開始からほどなくして死んでしまうからw これはとんだ予告編詐欺だ。この俳優目当てで劇場に足を運んだファンは激おこw

それに、これは予告編だとまったく気づかないのだが、全編がゾンビ映画。夏フェスでゾンビパニックが起こってペンションが孤立しクローズドサークル化した状況で起こる連続殺人。信じられないかもしれないが本当だ。

だが、これらは原作小説を映画を見る前に読んでいた人にとってはすべて既知の当たり前の前提。事前に何も予備知識なく劇場で見た人だけが被害者。そりゃSNSで酷評をばらまきたくなる。金返せ!
だが、実質主人公のお嬢様名探偵浜辺美波と、一度も犯人を当てたことがない推理小説マニア大学生神木隆之介はずっと画面にいて活躍しているので、このふたりのファンは十分に楽しめたはず。

映画としてのクオリティにも苦言を呈する視聴者が多かったのだが、「トリック」をテレビシリーズから映画まで、ほとんどすべて見ている自分のような古参オタには、蒔田光治脚本と木村ひさし演出なんてそんなもんだけど?と想定の範囲内。

剣崎が明智と葉村を夏合宿に誘い出すシーンでナポリタンを喰ってるのだが、たしか劇場版トリック第1作にもそんなシーンがなかったか?

蒔田と木村ひさしは浜辺美波で昨年「ピュア」を、そして今年は「タリオ」も「ほぼトリック」の設定流用と演出で作った。だが、それほど話題になってもいない気がする。テレビを見ているのはすでに40代以上という説もある。いまもかつての栄光の使いまわし。
原作になかったような剣崎と葉村のシーンが多く盛られていたように感じた。すべて小ネタギャグ。ボケてつっこむ。軽薄。

ロックフェスへ向かう循環バス最後列に謎の老婆が乗っているのだが、登場人物はスルー。おそらく劇場で見ていた客も華麗にスルーしたかもしれないが、これは「悪魔の手毬唄」パロディ。こんなの、横溝正史の小説を読んだか、市川崑の映画か古谷一行金田一シリーズを見た人でないとわからない。

ペンションで大学生たちが自己紹介。あ、「映像研には手を出すな!」で大生徒會の切り込み隊長だった福本莉子がいる。ちなみに福本はチョイ役で最初にちょっとしか登場しない。
あと、ゾンビ映画オタクでゾンビ解説をしてくれるきのこヘア男が矢本悠馬。こいつを見ると「賭ケグルイ」を思い出す。山田杏奈と古川雄輝は現在「荒ぶる季節の乙女どもよ。」に女子高生と教師役で出演中。山田の役は「ミスミソウ」のようでもあった。

浜辺美波が神木くんをパシリのように使う。ゾンビに喰われた激グロ死体を移動させたりするのだが、「やってくれたらキスさせてあげる」とかいう。なのに浜辺はなにも美味しいごほうびを与えていない。酷いw だが、それは男子の夢。気の強そうな美少女にこき使われる無償の愛。
浜辺剣崎は原作にないキャラ設定を盛っていた。雲竜型土俵入りとか、舌打ちとか、ワトソン葉村を明智から奪いたいと願っているとか。
本格ミステリーを誰もが納得できる2時間映画にするのは難しい。視聴者にロジックとアリバイをしっかり理解させることは難しい。
それに、原作にあったゾンビ包囲網がひたひたと主人公たちを追い詰めていく恐怖と焦りがあまり感じられない。神木くんは美少女浜辺と一緒に探偵調査ができて楽しそうですらある。

ゾンビウィルスに冒されると人間は意志を失い、生きた人間を感知し近づいて来る。そしてかみつく。生きているときよりも筋力が強まる。唯一の退治方法はゾンビの脳幹を破壊すること。それがこの映画ではX線の頭蓋骨に剣や刃物が突き刺さるCG画像になっていて、映画としては特殊。これは批判する人も多いだろうけど、脳幹に槍や刃物が突き刺さるグロシーンを見たくない人もいるし、制作側は軽くて楽しいミステリー娯楽作を志向したのかもしれない。PG指定を回避したかったのかもしれない。
若者たちがわちゃわちゃ楽しそうに捜査すればそれで楽しい!という映画。それほど恐怖とサスペンスと圧迫感の感じられない演出だった。各登場人物が推理をしている間はゾンビのうめき声や破壊音がなにも聞こえてこないなど都合のいい演出。「トリック」時代から演出上なんでも都合よくするのはこの製作者には常態化してる。

ラストシーンでゾンビとなった明智がそこにいるのは何かの幻想シーンかと思ったらガチなのかよ。だとしたら、救助に来た自衛隊は隙だらけ。
それに、これほど大それたゾンビウィルステロを行った謎の組織について、この映画は何も触れてない。そういう回収はされていない。
推理パートがメインでゾンビパートはそれほどの本気を感じない。結果、どっちつかずで雑で、見終わった後の満足度はそれほど高くない。

エレベーターをゾンビのいる1階に降ろしてゾンビを載せないで2階に戻す方法は良いのだが、部屋の中で人をゾンビ化させるトリックが凡庸。真犯人の殺害動機も凡庸。

ただ、浜辺美波、山田杏奈はカワイイ。このふたりの若手女優に注目してる人、トリックシリーズのクオリティを十分に知ってる人にはオススメできる。

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