2019年4月1日月曜日

「カレワラ物語」を読んだ

以前からフィンランドの民俗叙事詩「カレワラ」を読もうと思っていた。岩波文庫にあるのだが、上下巻でなかなか手が出せないでいた。なにせ2万2千行におよぶ壮大な民族叙事詩。

岩波少年文庫版(2008)は中学生以上向けに抜粋し再構成され手軽に読めそうなので読んでみた。

「カレワラ(KALEVALA)」はエリアス・リョンロート(Elias Lönnrot 1802-1884)がフィンランドの伝承を採取して歩き編纂し出版したもの。1835年に最初に出たものが古カレワラ。1849年に出版されたものが新カレワラと呼ばれる。毎年2月28日は「カレワラの日」。

フィンランド(ウラル語系)は数百年間スウェーデン(ゲルマン語系)の支配下にあり、19世紀初めにロシア(スラブ語系)に割譲された。カレワラがフィンランド人たちに民族意識を発芽させ1917年にはロシア帝国からの独立を達成するための最初の重要なエポック。

新カレワラの最初の日本語訳は1937年。これは英語版からの翻訳。
現在の日本で広く読まれているのが1976年に岩波書店から出た小泉保氏によるフィンランド語原典からの翻訳版。この岩波少年文庫版のあとがき解説も小泉氏。

1155年のスウェーデン王による征服とキリスト教化以前のフィンランドの神話。
麦を育ててパンを焼きビールを飲む。豚や牛を家畜として育て、鮭を釣り鹿を狩る。金や銀の飾りの衣装、銅や鉄器、奴隷の存在、そんな生活をしている時代。

合理的に解釈できる物語ではなく、どう読んでよいのか困惑する。だが、日本人には古事記がある。きっと古事記の日本の神々のように解釈して読めばいいはず。たぶん弥生時代古墳時代の日本に相当する文明レベルじゃないか?

意外に登場人物は少ない。老詩人ワイナミョイネン、鍛冶屋イルマリネン、快男子レンミンカイネンが何度も登場する。そして悲劇の牧童クッレルヴォ。

おそらく、古事記で言ったら天照、スサノオ、神武天皇やヤマトタケルに相当する神々たち。
嫁とり、巨大魚との戦い、物々交換など、部族間であった戦争や征服、和議なんかを暗示しているのかもしれない。日本神話と共通する要素をいくつも感じた。
スキーや橇が登場するのはさすが北欧。北欧にも毒蛇がいるんだな。

トゥオネラは冥界を表しているようだ。ポホヨラは陰の国。ということはヤマトに対しての出雲のようなもの?
詩を唄うということはそのまま呪術的な行為。呪文を唱えて相手を攻撃。動物を呼び出して戦わせたりする。きっとウルトラファイトやウルトラセブンにおけるウルトラカプセルの原型だな。

鍛冶屋イルマリネンはサンポを鍛造できる能力を持つ。このサンポなるものがよくわからないのだが、富を生み出す機械のようなものらしい。機械も古代人からしたら神々が生み出したことにするしか想像が及ばない。
(そういえばRIP SLYMEにイルマリって人がいるけどフィンランドハーフなんだった)

カレリア王誕生の物語が処女懐胎と馬小屋での出産なのはどういうことだ?
そして老ワイナミョイネンの退去の場面。ここはやはりキリスト教が広まって異教徒が駆逐されていく時代を表しているっぽい。

岩波少年文庫版の挿絵は川島健太郎氏によるもの。小泉氏から古代フィンランド人の風俗を正確に描写しているとお墨付き。
表紙は魳(かます)の頭部の骨を使ったカンテレという琴を弾き唄う老ワイナミョイネンのイラスト。動物たちも一緒に聴きに集まってる。

実は自分がカレワラに関心を持った理由のほとんどがシベリウスの音楽。
この本を読んだことで今まで一体なんのことか皆目わからなかった「トゥオネラの白鳥」、「ポホヨラの娘」、「レンミンカイネン組曲」、「クレルヴォ交響曲」がなんとなくイメージできるようになった。

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