2019年4月3日水曜日

横溝正史「蝶々殺人事件」(昭和22年)

横溝正史「蝶々殺人事件」を初めて読んだ。「ロック」昭和21年5月~昭和22年4月号に連載されたもの。1998年春陽文庫版で読む。

たぶん角川文庫版のほうが入手しやすいが、自分はあの表紙が好きでない。コントラバスのケースに入れられた女性の全裸死体のイラストが。

驚いた。今まで読んだどの横溝正史作品よりもガチの本格中の本格探偵推理小説。同時期に書かれていた「本陣殺人事件」よりも好き。ケレン味がない。

由利探偵と三津木記者が昭和12年秋に起った連続殺人事件を回顧する。「蝶々夫人」を歌うソプラノ歌手がコントラバスの中から扼殺体でバラの花びらと共に発見された!という事件。

序盤はソプラノ歌手・原さくらのマネージャー土屋の手記という形式で書かれているのだが、この人がおっちょこちょい中年。語り口がまるで落語。
前日に大阪入りして旧友と飲んでいて駅への出迎えを忘れ焦る(汗)。ホテルにチェックインしたことは確認できたのだが、翌日のリハにも表れない。不明になっていたコントラバスのケースを開けてみて事件発覚。

これ、どうやらクロフツ「樽」を意識した作品。東京から大阪へ移動するトランク、そしてコントラバスケース。移動する箱の中の死体。このへんがとてもややこしい。
あと、読者への挑戦もあってエラリー・クイーンの作風も意識。昭和12年が舞台となっているのも古き良き本格がギリ成立する時代だかららしい。

この時代の横溝正史の才気を感じた。移動する死体、アリバイとトリック、出生の秘密、気持ちよく読者をダマしてくれた。内容充実てんこ盛り。この犯人はかなり骨がある。

古い時代の鉄道用語がよくわからなかった。「チッキ」とかわからなかったので調べた。
「防空演習用の砂嚢」もよくイメージできなかった。戦前はモダンな集合住宅にもそんなものがあったのか。この事件はトランクの中の「砂」が重要なカギ。

女性の性的不能というのが自分にはよくイメージできずググって調べた。どう考えてもここで書かれている内容から判断して子供が産めないとかそういうことじゃないから。ひょっとして角川の杉本イラスト表紙はそういうことを暗示していた?!って思った。
これが動機ならすっごいな…と思ったけど、その悲劇は直接の動機とは関係なかった。

横溝正史はオペラに詳しかった?戦時中のイタリアではオペラ歌手も招集されテノールが不足。テノールをコントラルトで代用、男女を女女で演じる…みたいなことがあったって初めて知った。そういえばヘンデルやベルリーニではソプラノとアルトで男女を演じることがよくあるけど、ヴェルディやプッチーニでは見たことない。

この春陽文庫版はもう1編「カルメン殺人事件」という作品も収録。「蝶々殺人事件」で事件関係者で容疑者だった千恵子夫人が由利探偵と後に結婚していた。
「でも、安心してちょうだい。今度は決して、カルメン殺人事件なんか起こりゃしないから。だって、うちのがついていてくれるんですもねえ、ホホホホホ」と言って終わる。なので「カルメン殺人事件」も読む。

だが、この作品は角川文庫「幻の女」に収録の「カルメンの死」という作品と同じだった。なんで作品タイトルが角川文庫と春陽文庫で違うのかわからない。春陽文庫の巻末解説はあまり有意な内容がない。

「蝶々殺人事件」が現在入手困難になっているのは惜しいと思ったのだが、柏書房から「由利・三津木探偵小説集成」として刊行中。これは自分もいずれ買うかもしれない。

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