2018年12月25日火曜日

加藤シゲアキ版「犬神家の一族」(2018)

12月24日クリスマスイブ、フジテレビはゴールデンになんと「犬神家の一族」スペシャルドラマを持ってきた。これ、情報が解禁されてから放送まで短かった気がする。劇中の中禅寺湖の冬枯れの風景とか見ると、撮影はわりと最近だったのかもしれない。

平成最後の金田一耕助はジャニーズ加藤シゲアキ(31)。フジテレビ版金田一シリーズは10年ほど前までSMAP稲垣吾郎が務めていたので、ジャニーズが引き継いだ形か?

ひょっとするとこれは見なくてもいいかな…とも思ったのだが、見ておかないと後悔するかもしれないし。友人と洋酒にチキンやポテトをつまみながら、いろいろツッコミながら見た。

自分、市川崑の76年映画版は何度も繰り返し見てるけど、それ以外はよく知らない。2006年セルフリメイク版は1回しか見ていない。原作は15歳ぐらいのとき1回読んだが内容はもう忘れている。なので76年版と比較しながら見てしまう。

冒頭の犬神佐兵衛の臨終シーンでこのドラマのキャストがわかる。佐兵衛翁はなんと里見浩太朗だ。この人はすでに年齢的に佐兵衛翁より上かもしれないけど、今も健康的でさわやか。あの強欲で女たち娘たちを不幸にした怪人という感じはしない。室内シーンが暖色系だ。

古館弁護士は小野武彦。この人は今回のキャストで唯一昭和20年代30年代の人物に見えた。木戸内務大臣のよう。だが、76年映画版での封建時代を思わせるような、へりくだってかしこまって汗ふきふきお仕えするというのでなく、やや尊大な感じがした。事務所の応接室がかなり豪華。
松子、竹子、梅子の三姉妹が黒木瞳、松田美由紀、りょう。
昭和20年代に結婚適齢期を迎えた長男がいるということは明治生まれの女に違いないが、そんなふうに見えない。りょうは塚本晋也監督の「双生児」ではリアルな明治大正日本髪で前時代の雰囲気を出した人だったのに。
このドラマはそういうリアルさは不要と割り切って、現代に合わせた美術と演出だった。

遺言状公開の場面に小夜子がいない。今回割愛された。この子のお腹に佐智の子どもがいるということが、佐智が殺されるような酷い奴という前提になっていたのに。
金田一耕助登場シーンの街並みがまるで幕末明治。もう昭和20年代を感じさせる街並みはどこにもないのか?
そして、あっと声をあげた。市川崑版と那須ホテルのロケ地が同じだ!
それに警察署シーンも同じロケ地。今回のロケ班スタッフは探し回る時間と余裕がなかったのか。

旅館の女中が平祐奈。可愛らしさと愛嬌という点でぴったりだが、喋りはやはりイマドキJKという感じ。
76年映画版ではこの女中は金田一さんの助手を務めて買って出るなど活躍したのだが、今回は旅館シーンのみの脇役。
この子の姉・平愛梨は加藤シゲアキと、上戸彩が出てた「金八先生」で共演している。加藤はあの中学生当時から顔がたいして変わっていない。

あと、戦後直後の食糧難にしては旅館のご飯が豪華な気がした。映画版だと石坂浩二は米袋持参「これでたのむよ」と言っていた。
肉団子?この当時は田舎のほうが都会よりも生活の質が高かったようだ。

旅館といえばもう一つ、復員服姿の男が出没するシーンの旅館は完全に割愛。2時間ドラマということで実質1時間45分ほど?いろんな箇所を削らないといけない苦労も感じた。

犬神製薬が犬神製糸になっていた。映画版での大陸のケシと軍部、珠世の祖父・大弐神官(性的不能者)と佐兵衛の衆道の関係なんかもすべて変更カット。映画でできたことはもうテレビドラマではできなくなってる。

旅館の玄関で金田一さんがホームズのような優秀な探偵アピールをするシーンには呆れた。ここは気に入らない。
事件現場にもずうずうしく進入。警察署長の制止を無視し「あー、はいはい、これは」と頼まれてもいないのに講釈。金田一さんてこんな人だっけ?

自分の理想の金田一耕助は石坂浩二。知的だけどたよりない感じ。吃音でビビリ。繊細さと鈍感さ。ひょうひょうとしてどこか抜けたところがあって人懐こく優しい。それでいて緻密な計画で人を殺すような冷酷な犯人には容赦なく果敢に立ち向かう。
その点で加藤はかなりいい点を取っているのだが、顔が少年。声質と喋りもイメージと違っていた。

警察署長が生瀬勝久だとどうしてもTRICKの矢部に見える。犬神家の娘婿に板尾がいるのも笑ってしまう。
この物語のヒロイン野々宮珠世は高梨臨。これもちょっとイメージが違う。イマドキのチョイ美人。
10年以上前から知ってる女優さんだがサッカー選手(あまり好きでない)と結婚したのでもう関心ないw 
珠世に仕える猿蔵は大倉孝二。映画版での怪人的に人間離れした異様さと程遠くイメージが違う。
この物語の主役のスケキヨ。今回のゴムマスクのデザインが初めて見た瞬間からダメだこりゃと思った。映画版はぼってり唇が厚く首が太くふてぶてしい感じ。目の周りが黒くギョロっとしてる。今回のは完全に星野源。ツイッター世論を調べてみたら同じことを思っている人がたくさんいたw

黒頭巾を取ってさらに間髪入れずゴムマスクもめくって見せるのも怖さ半減。
その後の遺言状開封での修羅場を見ると、やはり市川崑は偉大だったと感じないではいられない。

佐武佐智はもっとギラギラした性欲強そうなホストみたいな俳優にしてほしかった。佐智はフィギュアスケートの選手にしか見えなかった。

そして衝撃の青沼菊乃襲撃シーンw 市川崑の白塗りも相当にヘンテコだが、今回は三姉妹が般若のお面w
菊乃を演じた女優は安藤聖という女優さんだが、この人は元おはガールだ!まだ女優を続けていたのか。

脚本も演出も分かりやすい言葉や表現に置き換わっていた。違和感を感じたことが多かった。昭和20年代を知ってる人はもう制作の現場にはいない。
「女性工員を見染めまして」という表現もおかしい。「女工に手を付けた」でエエやん!
珠世のボートに穴が開いていたと聞かされた古舘弁護士の「またですかあ」という反応が軽くて可笑しい。人が殺されかけたんだぞ!w
スケキヨ本人を松子夫人の前に出してから犯人を問い詰めるシーンも気に入らない。映画版で高峰三枝子が見せたふてぶてしく嫌らしい流し目と挑戦的な笑みを浮かべての金田一さんとの対決シーンがなかった。黒木はずっと焦燥してる感じ。

松子夫人の琴の師匠・梶芽衣子はぴったり配役。

時間的制約もありだいぶ端折った感じになっていた。脚本も演出も練り込まれた感じがしなかった。これで視聴者に物語の面白さが理解できたのかな?

これはダメかも…と思った。だが、ネット世論を見てみると「面白かった!」「怖かった!」という意見が多かった。え、世間はそんなにもピュアなの?
事件を解決して金田一さんは去っていく。よく見ると向こう側に蒸気機関車の煙が見える。もう今の子供たちはそれが何かすらもわからない。今後も金田一さんが人気名探偵であり続けるには作り手側の努力がいるかもしれない。

横溝正史の原作がよほど面白かったんだろうと思う。さすが長い間多くの俳優たちによって演じてこられた名作だと感じた人が多い。横溝正史は日本のシェイクスピアかもしれない。

「犬神家」「獄門島」「笛を吹く」「八つ墓村」はしばらく要らない。できることならあまり知られていない作品を、横溝オタ識者と脚本家にがんばってもらって、時間も金もかけて作ってもらいたい。
その点でNHKの満島ひかり江戸川乱歩は大胆すぎる新機軸。とても立派で良い仕事をしている。NHKのほうが民放よりもチャレンジしてる。

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