2018年8月7日火曜日

ジェイムズ・P・ホーガン「断絶への航海」(1982)

ジェイムズ・P・ホーガン「断絶への航海」(小隅黎訳 ハヤカワ文庫)を読んだ。そこに100円で売られていたから確保し購入。
VOYAGE FROM YESTERYEAR by James P. Hogan 1982
今回手に入れたのは2005年新版第1刷。実は自分は高1のとき「星を継ぐもの」に感動し、「断絶への航海」(1984年旧版)を持っていたのだが、買っただけで満足してしまい、その後全く読まずに処分してしまっていたw なにせハードSF。勉強で余裕を失うと分厚い本は開きたくなくなる。

新版のジャケットイラストを見てちょっと失望。旧版のイラスト表紙のほうが好み。

核戦争後の人類は存亡をかけて、植民できる惑星を探して無人全自動探査宇宙船「クヮン・イン」を恒星間旅行の航海へ打ち上げていた。人類の遺伝子情報のデータを乗せて。
40数年後、今度は巨大征服植民船「メイフラワー二世」号(アメリカの利益代表)が20年の航海を経てようやくアルファ・ケンタウリ系惑星ケイロンへと到着。

無尽蔵な資源とロボットによる自動生産によって、衣食住も安全保障も満たされ、地球と断絶した状況下で育ったケイロン人たちは地球人とはまったく異なった文明社会となっていた。

地球代表(ガチガチの軍事国家)外務大臣がファーストコンタクトをとるべく、ケイロン周回軌道を回るクヮン・インに乗り込んで、ケイロン代表と会わせろ!責任者と連絡を取りたい!といっても「は?そんなのいないけど」と言われ激しく面食らう。外交儀礼を尽くしてるのにバカみたい…。

ケイロンは資源エネルギーと物資食料が何もしなくても手に入るために、貨幣も存在せず、政府も命令系統も法体系も存在せず、人々はただ何となくやりたい仕事をしてただけだった!w

スウィフト「ガリバー旅行記」型の哲学的思考実験空想社会科学ユートピアSF小説だった…。
反社会的な人物は酒場で撃ち殺されても「しょうがないよね」と誰も気にも留めない社会なので、人によってはデストピアかもしれない。だが、そんな人は存在しない。

生物学的遺伝学的にはまったく地球人だが、育った環境がまったく違う。人々は富を蓄えようとしたり、見栄を張ったり、争って高い地位に登ろうとしない。ただ、他人の尊敬を得るために、誰の指図も命令もなく、仕事をがんばる原始共産主義社会だった。

征服植民船は宣教師も連れて来ていたのだが、科学技術が旧体制の地球以上に発達したケイロンの子どもたちに論理で論破されてしまう…。

ガチガチの階級社会だったメイフラワー二世号からケイロン社会へ、次々と組織を脱出し溶け込んでいく人々。
中間管理職が手薄になって、かつて出世を拒まれた人にも声がかかるのだが、「自分でやれば?w」「辞めるわw」「人事と経理に給料未払い分もいらないって言っといてw」と離脱。まるで人手不足に陥ったブラック職場を見ているようで、サラリーマンたちにはうらやましい光景。

「戒厳令を敷いてケイロンを武力制圧して我々の望む社会へ作り替えよう」という勢力と最終的にメイフラワー内部で武力衝突。やっとSF小説らしくなってきた。

ケイロンは我関せずとしれっとした態度。だが実は恐ろしい武器を持っているのでは?と気づく。そこにある月に1年前にはなかった巨大クレーターがあるんだが…。

誰も望んでいないのに、自分たちだけが有利になるようにルールをごり押しする幹部たちがまるで竹中平蔵と経団連。早くケイロンが隠し持っている反物質砲でそいつらを消しちゃってよ!って思いながら読んでいたw

米ソ東西冷戦、貪欲な資本主義、人倫を踏みにじる極悪社会主義、人類の闘争の歴史に嫌気がさしていたホーガン氏の、もう人類の過去とは断絶しちゃいなよ!というメッセージ。そこそこ面白く読めた。

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