2018年4月12日木曜日

杉本苑子「風の群像」(1997)

杉本苑子(1925-2017)が南北朝時代と足利尊氏直義兄弟を描いた歴史小説「風の群像 小説・足利尊氏」の2000年講談社文庫版を手に入れた。
1995~1997年に日本経済新聞夕刊に連載されたもの。
上下巻ともに2000年の文庫第1刷。昨年秋に関東北部のBOで1冊90円でゲット。

日本史音痴だった自分、南北朝時代のことをほとんど何も知らない。足利尊氏がどのような人物かも知らない。

「太平記」は一度は読まなくてはと思っていた。10年ぐらい前に講談社から出ている少年少女古典文学館(平岩弓枝版)でしか触れたことがない。
戦争と軍部にアレルギーを持っていた司馬遼太郎も松本清張も南北朝をテーマにした大作を書いてくれなかった。吉川英治版は戦前の皇国史観が強そうで読む気が起こらない。
ずっと新田次郎「新田義貞」の文庫版を探しているのだが一向に出会えない。そんな中、この「風の群像」と出会った。

上巻は南北朝に分裂した経緯から説明し、尊氏が後醍醐天皇側について起つことを決意し鎌倉から京へ上るシーンから始まる。

この杉本版足利尊氏が現代の若者言葉を話す。基本バカで素直で一本気でおおらかで駄々っ子。上杉兵庫入道や高師直、弟の直義といった知恵のある人々のアドバイスでなんとか源家の流れをくむ足利一族の棟梁をやっている。北条鎌倉政権が崩壊し建武の新政へ。尊氏は新政権には参加しない。

そして鎌倉北条政権を倒した功労者・大塔宮護良親王の死。この人の名前はよく神社で見かける。どういう人だったのかだいたいわかった。

後醍醐天皇って、この本だと酷薄で部下も息子も切り捨てるサイテーでドイヒーな怪人として描かれてる。「秘書が勝手にやったことだ」と逃げる政治家そのもの。新田を見捨てて比叡山から洛中に戻るシーンは酷い。そもそもこの人の強欲さが諸悪の根源。多くの人命が失われた。

尊氏って一時期は九州まで敗走したってしらなかった。やがて盛り返して逆襲。
新田義貞の敗走が哀れ。道連れになった皇子たちも哀れ。新田義貞って無口で暗い人物だったの?!
そして足利と後醍醐天皇側と京都市街戦。三木一草(結城親光、楠木正成、名和長年、千種忠顕)もみんな戦死。北畠顕家も戦死。

尊氏、直義、師直の3人が三種の神器について話し合うシーンは本当にそんなことを話し合ったっぽくて笑った。この時代の武士にしては合理的で論理的な討論をしていてちょっと可笑しい。

そして吉野へ逃げた後醍醐帝が死んで上巻が終わる。

下巻は天竜寺の造営、そして尊氏の隠し子・直冬が成長。そして高兄弟による吉野侵攻と楠木兄弟との対決。足利政権内部の闘争と軋轢。
鎌倉時代もそうだけど、この時代の武士はほんの些細なことでキレる。喧嘩だらけ。

尊氏が主人公だったはずなのに直義が主人公に代わる。いままで気持ちの良い人物だった尊氏がサイコパス化。よく意味の分からない策略で直義を副将軍から罷免。足利義詮と足利直冬の出来の違いで尊氏直義兄弟が敵対。

尊氏が存在の耐えられないほどに軽い。お前のせいでどんだけ人が死んでるんだよ!高師直高師泰兄弟を見殺しにして「許して」と直義の元へ。呆れた。こいつには本当に呆れた。
許されて戻ってるのに義詮ともどもまるで反省なし。やがて直義は毒を飲む。
この時代の武将たちはあまりに簡単に裏切る。読んでいて「今こいつどこに従ってるんだ?」とわからなくなる。室町幕府と南朝の時代の混迷ぶりは酷い。

下巻の諸悪の根源は北畠親房。こいつと尊氏と義詮は読んでる最中にずっと「早く死んでほしい」と思ってた。下巻は上巻の爽快さが失われる。それは南北朝を扱う以上しかがたない。
この本では赤松円心はわりと出てくるけど佐々木道誉の存在感がほとんどない。

結論から言って、この「風の群像」はここ数年読んだ歴小説の中でもかなり面白い。小中学校で習う日本史はこういった小説で補完される。そんなんだったの?!ということをたくさん知った。巻末の解説で南北朝正閏論争の疑問も解けた。

91年のNHK大河ドラマ「太平記」がとても評判がいいようだが自分はまだ見る機会がない。いいかげんNHKはそろそろ本気で「太平記」と南北朝時代の大河ドラマをつくってほしい。

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