2017年5月7日日曜日

山下敦弘「マイ・バック・ページ」(2011)

山下敦弘監督作でまだ見ていなかった「マイ・バック・ページ」(2011)をやっと見た。70年安保とか左翼学生たちの話だろうと思っていた。あまり当時のことは自分にはよくわからないし、それほど興味もない。原作のこととか何も知らないまま見始めた。

この映画は東大安田講堂陥落のニュース音声でなんとなく始まっていく。松山ケンイチ演じる片桐という学生、誰もいなくなった戦場に1人迷い込んだようにたたずむ。そこで何かが覚醒。
ちなみに、安田講堂の安田さんはオノ・ヨーコの曽祖父。

この片桐という男が左翼学生運動がかっこいいから、流行ってるからという理由で、時代の雰囲気に呑まれて独自の組織を作っていくように思えた。ハンサムで弁がたつものだから、多くの友人たちも巻き込む。

この映画、ざっくり言うとカリスマ革命家を気取った甘々ダメ学生の大風呂敷、暴走、そして転落、巻き込み事故。時代に翻弄された人々の顛末。そんな映画だとは事前にまったく予想してなかった。

序盤はなかなか状況が呑み込めずイライラするけど、後半は面白かった。でもやっぱりジャーナリズム村内の話なので、ほとんどの人はどうでもいい傍観者に置いて行かれる。70年安保自体も多くの庶民にはそんな感じ。
この映画、石橋杏奈が出てる。片桐にひかれて闘争に参加してしまう。なんとなく。ずーっと嫌々参加してる感を出している。ペンキの看板とか、政治スローガンで埋め尽くされたキャンパスを不快そうに眺める。ちゃんとした家庭のお嬢様風なのに、片桐と関わったために、自衛官殺害事件に連座してしまう…。哀れ。

ま、石橋は脇役。ヘアスタイル、化粧、服装、あんまり1970年っぽい感じはしない。一方で同志の韓英恵は紅衛兵みたいなメガネ才女って感じで時代の雰囲気を出している。
この映画、風景や室内セット、小物で1970年前後をよく表現していた。美術さんは頑張った。

この映画にはさらに雑誌表紙モデルとして忽那汐里も出ているのだが、こちらもさらに脇役。最初の方と最後のほうにしか出番がない。敗北感でいっぱいの主人公にさらなるダメ出し。
この映画のもう一人の主人公・新聞社の左翼雑誌記者沢田は妻夫木聡。新聞の社会部に「あれはただの殺人」という判断に対し、「思想犯だ!」「取材源を明かすことはできない」と主張し、結局有罪判決。この人も片桐に騙された1人だが、やっぱり時代の雰囲気に飲まれ熱にやられた。自分の位置が見えていない甘々ジャーナリスト。職をも失う…。

妻夫木聡は人によっては演技が下手ってみなしてるらしいけど、ラストシーンの涙には様々な感情を推測させる正しく情報量の多い演技だったように思えた。自分はかなり感心した。

長回しシーンのことごとくが計算されつくしたスキのない演出とカメラワークだった。襖1枚隔てた向こう側で男女の情事が始まってる中でヘルメットにペンキを塗ってるシーンとか、基地内での自衛官殺害シーンとか、感心したシーンはたくさんあった。山下監督は何度もテストを重ねて相当に厳しく役者たちを追い込んだに違いない。

反戦自衛官役の人、どっかで見たことあるな~って思ってた。エンドロール見て、あ、「超能力研究部の3人」で舟木マネージャーを怪演した山本剛史だ!三文芝居に騙されて「え、やんの?」って表情とか完璧w

ワンシーンのみ登場する東都新聞社会部部長の三浦友和の「ちゃんと教育しとけ!」とか偉そうで強烈に不快。あがた森魚の窓際おじいさん感が枯れすぎで心配なレベルw 

やはりワンシーンのみのカリスマ活動家の長塚圭史が表情だけでヤバい人。京大のカリスマ前園の山内圭哉の得体の知れなさ感もいい。
あと自分が日本で一番活舌の悪いおじさん俳優だと思っている古舘寛治がこの映画では先輩記者役でかなりフィットしていい味出してた。

この映画、取り調べ室の刑事に至るまで、表情をアップで抜かれたカットすべてにおいて、邦画を支える名脇役俳優たちがすごく高い精度で正しい情報を伝える演技をしている。その辺を見てるだけで楽しい。

かつて学生が世界を変えられると信じていた。警察、公安にみごとにぶっつぶされる。学生運動に人生を狂わされた若者たちは今みんな70歳前後。日本の歴史の一コマ。

「マイ・バック・ページ」を見てよかった。

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