2025年1月23日木曜日

小川哲「地図と拳」(2022)

小川哲「地図と拳」(2023 集英社)を読む。第13回山田風太郎賞と第168回直木賞を受賞するなど話題の本。625ページもあるかなり分厚い本。何も予備知識はないまま読み始める。

時は1899年夏、松花江を遡る船に帝国陸軍高木大尉とインテリメガネ通訳細川。これが決死のハルビン潜入調査。商人の振りをしてたのだが小刀を見つかりロシア兵から銃を突き付けられるなど大ピンチ。
しかし二人は李家鎮に「燃える土」の鉱脈があるという重大な情報をつかむ。
そして義和団事件。匪賊とロシア人宣教師。日露戦争。

どうやらこの本は、多くの人々の希望と命を飲み込んだ「満洲」という土地自体が主人公。「満洲とは何だったのか?」を問う群像劇フィクション時代小説。李家鎮という町も登場人物たちもすべて架空のもの。

炭坑の村・李家鎮が舞台。軍人、ロシア人宣教師、匪賊、日本軍と取引する漢奸、抗日ゲリラ女、憲兵、帝大卒インテリ、八路軍、そして日中は泥沼の戦争。さまざまな人々が次々と現れる。

満洲の地図をつくり、炭坑町での都邑計画の話だと思ってたのだが違ってた。内容はあんまり「地図と拳」というタイトルに合ってなかった。断章的な連作のようだが、満洲に関わってしまった人々の50余年の夢マボロシ大河ドラマ時代小説。

なんだか、この分厚い小説には特に主人公と呼ぶべき人物はいなさそうだが、満洲で地政学研究をしてる細川と、細川が満鉄にスカウトした気象研究者と高木大尉の未亡人の息子・明男はずっと出番がある。

小川哲という作家は1986年生まれだというのに、満洲を義和団事件から日露戦争、満洲国、日中戦争とすべて見て体験してきた世代の体験談を読んでいるかのような錯覚。
こういう小説はなんとなく設定だけとうものが少なくないのだが、この作家の語り口は本当に当時の人々が話してたことのようなリアリティと知性。圧倒された。

ある程度は満洲の歴史に詳しくないと置いていかれるかもしれない。とくに説明的でリアリティのない会話とか見当たらない。硬派でハードボイルドぽい。男女のロマンス要素もない。

読み終わってかなり強い印象と満足度。625ページが飽きる事なくずんずんめくれた。この作家さんはすごい。ほぼ傑作。強くオススメする。NHK大河はいつか満洲をテーマにするべき。

2025年1月22日水曜日

市川崑「八つ墓村」(1996)

映画「八つ墓村」(1996)を見る。1月13日にNHKBSで放送されていたので録画しておいたもので見る。
原作は横溝正史。監督は市川崑。脚本は大藪郁子と市川崑。音楽は谷川賢作。主演の金田一耕助は豊川悦司。フジテレビと東宝による映画。

自分、高校時代に一度読んだきりの原作もそれほど好きでない。これ、遠い昔に一度見たっきり。これはあまり放送されない気がする。
じつは、野村芳太郎「八つ墓村」(1977)よりもこちらを先に見た。この市川崑八つ墓村にはかなり期待をして観た。だが、それほど面白くない…。
大げさでユーモアのある演技と演出。時代を感じられる喋り方の台本。電灯の周辺のみぼーっと光ってる美術セット。葬式と竈の風景。襖で仕切られた暗い日本家屋。どのカットも市川崑でなければ撮れないカット。

加藤武神山繁は女王蜂のやりとりを思い出す。このふたりは尊大な役が似合う。
そして岸田今日子、浅野ゆう子、小林昭二、白石加代子といった昭和金田一おなじみキャスト。
なのに70年代の石坂金田一ほどに好きになれない。ミステリーというよりも猟奇殺人ホラーだからかもしれない。
神戸の弁護士事務所でいきなり依頼人が死ぬシーンは突然すぎて違和感で突っ込んだ。

平成キャストでは昭和の味わいは出せないかもしれない。だが、ロケハンと美術さんはすごくがんばったと思う。まだこんな村が日本にはあったのか!という家屋と風景に感心。市川崑金田一としてはめずらしく岡山で多くのシーンを撮影したらしい。

石坂金田一の台詞はそのまま天然感があってよかった。豊川金田一はキャラに合わせて声を作っていて嫌。
里村典子役の女優の名前が思い出せない。ああ、喜多嶋舞という女優だ。この人、光GENJI大沢樹生と結婚したのだが長男がDNA鑑定の結果夫の子じゃない…という騒動後に芸能界を引退してたのか。
この映画でいちばん昭和20年代のちょっと頭のおかしい女感がしっくりして感心しかない。
あと、実質ヒロインの浅野ゆう子さんもすごく昭和美人の雰囲気出してる。ちょうどいい感じにエロい。
宅麻伸さんは最近見ないなと調べたら、今も俳優として活躍中。
77年「八つ墓村」にも出てた井川比佐志さんも最近見ないなと調べたら、今現在88歳で存命中らしい。この人は満洲国奉天市の出身。

岸田今日子一人二役の老婆が不気味というより違和感で気持ち悪い。自分が市川崑ならここも改変して1人にする。
エンディングで小室等「青空に問いかけて」が流れ始めるのも他の市川崑金田一と違ってて嫌。
そして、両親の故郷だからとか、自分を探してる人がいるからとかの理由で、人里離れたヘンテコ村に行ってはいけない。

あと、これは本末転倒だが、見ていてすごくTRICK感がするw
今後も金田一探偵を忘れないために、毎年お正月にオリジナル新作金田一とか作ってほしい。

2025年1月21日火曜日

阿津川辰海「午後のチャイムが鳴るまでは」(2023)

阿津川辰海「午後のチャイムが鳴るまでは」(2023 実業之日本社)を読む。このミステリー作家の本を読むのはこれが2冊目。表紙とオビ書きから判断すると学園日常系ミステリーではないか?

東京都心にある九十九ヶ丘高校は1学年3クラスでL字型5階建て校舎。この高校が旧帝大への進学率の高い進学校。校則も厳しく生徒の休み時間の外出を認めていない。
そして舞台は2021年9月のコロナ禍下。高校生たちも不自由な毎日。そのことを踏まえて連作短篇5本を読む。

ああ、この5本は1日で起こってることなのか。「桐島部活辞めるってよ」みたいなやつか。

高校生日常系ミステリーに興奮するほどの傑作というものはない。それが自分の結論。
強いて言うなら、第2話「いつになったら入稿完了?」は好きだった。チェスタトン的な盲点。文芸部とイラスト担当の青春の一コマ。

消しゴムポーカーの第3話がいちばん自分と合ってなかった。そういうゲーム実況は読む気にもならない。
ドラマとしては面白くできそうではある。

2025年1月20日月曜日

大河ドラマ「べらぼう」スタート

横浜流星が蔦屋重三郎を演じる「べらぼう」が始まってる。初回から録画しておいてチェック。
前作の紫式部も思ったけど、蔦屋重三郎で1年もつのか?って感じてる。だが、寛政年間の江戸の政治や文化を並行して描いていけば、まだ見たことのない歴史絵巻が見られるかもしれない。
このドラマに福原遥が出るって聞いてたけど、まだ当分出なさそう。なので序盤は小芝風花を目当てとモチベにして見る。このオスカー女優はもう27歳なのか。トップコートに移籍したのか。
主人公は吉原遊郭の松葉屋使用人で貸本を副業。幼なじみ花魁・花の井が小芝。たぶん相当に気が強い。
初回から小芝風花には大きな見せ場。

2025年1月19日日曜日

アンソニー・ホロヴィッツ「絹の家」(2011)

アンソニー・ホロヴィッツ「絹の家」(2011)を駒月雅子訳(2013)の角川文庫(2015)で読む。これは今年の夏に長野へ行ったときにそこにあったBOで110円購入本。
THE HOUSE OF SILK by Anthony Horowitz 2011
これはホロヴィッツ氏によるシャーロック・ホームズ長編。ホームズが亡くなって1年後、ワトソンはホームズの想い出に浸りながら、まだ公表していなかったホームズが関わった「ハンチング帽の男と絹の家」事件を原稿にまとめ、チャリングクロスのコックス銀行の金庫に保管する。100年後に開封公開する指示と一緒に。

1890年の11月末、ベーカー街のホームズの部屋をウィンブルドンの美術商カーステアーズ氏が訪れる。「不審な男につきまとわれている」
以前にボストンの美術コレクターにコンスタブルの絵画4点を販売したのだが、運ぶ途中で列車強盗の被害に遭い、信頼する部下は銃撃殺害され絵画も爆破され粉々。

殺害された部下のためにも復讐したい。カーステアーズは美術コレクターと一緒に探偵を雇う。この探偵は仲間と犯人オドナヒュー(アイルランド系の双子兄弟)を襲撃。銃撃戦で双方に死傷者を出しながらも賊一味の組織を壊滅。だが、オドナヒュー兄弟の弟キーランは逃走し行方不明。
カーステアーズ氏によれば、このキーランがロンドンにやってきて自分に復讐しようとしているのではないか?

カーステアーズ邸リッジウェイ・ホールに泥棒が侵入したのを契機に、ホームズは浮浪児たちによる情報収集グループ・イレギュラーズを放つ。族は盗んだ宝石を質屋に持ち込むに違いない。
はたして目星の人相の悪いアメリカ人を突き止める。だが、当のアメリカ人は安ホテルの一室で殺害。そして、その場を見張っていたロスという浮浪児が何かを隠している…。

このロス少年が犯人を強請ろうとして、逆に何者から暴行(拷問?)を受け殺害。
そして、少年の姉サリーが働いているパブを突き止め行ってみると、サリーが急にワトソンを刺す。そのときに「ハウス・オブ・シルク」という謎の言葉を残す。

ホームズは兄マイクロフトを頼るのだが、「ハウス・オブ・シルク」について「これ以上調査するな」とくぎを刺される。
すると大胆にもホームズは新聞広告を出す。すると獲物がかかる。事務所を訪れた男の指定する場所のアヘン窟に行くと、そこでホームズは敵の罠に落ちる。持参したリボルバーでサリーを銃撃殺害したことになって逮捕。ハリマンという警部がホームズが犯人と決めつけ。絶体絶命のピンチ。

ワトソンはホームズを救出しようとするのだが、レストレイド警部以外のスコットランドヤードの関係者はホームズに冷たい。
あとはワトソンの孤軍奮闘。何者かに拉致されホームズを脱獄させるための鍵を渡される。ホームズが拘留されている監獄へ行くと、ホームズは忽然と姿を消していた…。

従来のホームズ譚になかったどす黒い巨大組織の陰謀サスペンス。これはコナン・ドイルには書けなかったスケールの大作。これは傑作といっていい。ホームズ第5の長編と呼んでいい仕事。アンソニー・ホロヴィッツのホームズ愛と見識と作家としての力量はさすがとしかいいようがない。

2025年1月18日土曜日

新・暴れん坊将軍(2025)

三池崇史が監督、大森美香が脚本を担当するドラマプレミアム「新・暴れん坊将軍」がテレビ朝日で1月4日に放送されたので見た。
実は自分、松平健という役者をほぼマツケンサンバの人としか認識していなくて、そのキャリアのほぼすべてを占める「暴れん坊将軍」を人生で一度も見たことがなかった。見た。

だいたい将軍が暴れん坊って何なん?って思ってた。そういう嘘歴史やめてもらっていいですか?と思ってた。
だが、すごく面白かった。史実としてデタラメもいいとこだが、ここまで自由が許されるのが娯楽としての時代劇ドラマ。
八代将軍吉宗の子で体の不自由な九代家重もやはり暴れん坊?家重(西畑大吾)がこれほど活躍するとは予想できてなかった。
大岡忠光って見てるときはわからなかったけど、木村了だったのか。久しぶりに見た。
ご意見番みたいな老人が小野武彦さんだ。まだまだ元気そうでなにより。

権力欲にまみれた悪役人本田博太郎のぐへへへ感に感心しかしなかった。あまりにわかりやすい時代劇の悪人。
慾にまみれた老中神保悟志もみごと。この役者、毎回毎回悪事がバレてとほほな目に遭うヒールのスペシャリスト。
中ボスに相当する人身売買元締め渋川清彦も時代劇の悪人としてぴったりで感心。もうなにから何までがピタッと高い精度で整ってて感心。
時事ネタも盛り込んであった気がした。ホストにハマる娘(藤間爽子)とか。
あと、尾張様こと徳川宗春(GACKT)が長煙管に騎馬姿で登場し、質素倹約を批判する自著を吉宗に読ませるシーンとか笑った。筋トレシーンとかも「何なんこの人」と突っ込んだ。GACKTが間抜けな存在に描かれてるのは珍しいと感じた。

これが日本の中高年が長年見続けて来たお約束時代劇か。はちゃめちゃすぎて面白い。
チャンバラで斬られる名も無き端役たちがこれからも技を継承できていくのかと考えながらドラマを見守った。

こんな自由な時代劇が許されるなら、暴れん坊天皇も作ってほしい。民を重税で苦しめる自公財務省政権の悪代官悪役人と身内に甘い東京地検をばったばたっと斬ってほしい。

2025年1月17日金曜日

内田百閒「第一阿房列車」(昭和27年)

内田百閒「第一阿房列車」(昭和27年)を読む。今作は昭和26年から27年にかけて小説新潮に掲載。昭和27年6月に三笠書房より刊行。平成15年(2003年)に新潮文庫化。

自分、第二阿房列車から読んでしまった。もう10年ぐらい前なので内容はあまり覚えていない。夏目漱石門下で芥川龍之介の友人だった内田百閒(1889-1971)はめんどくさいコミュ障の乗り鉄専門鉄オタ。旅行とか観光にほとんど関心のない無目的鉄道乗車を趣味とする謎老人。なので「阿房列車」。

昔の人はコミュ力高いと勝手に思ってたのだが、内田百閒の他人とのコミュニケーションのとれてなさ具合は異常。会話が噛み合ってない。

昭和25年の日本を感じられることは貴重。まだGHQ占領下。この当時は国鉄だったはずだが、内田百閒は「市ヶ谷から省線に乗る」とか言ってる。ま、人々は普段使っていた言葉をいきなり変更することはできないだろうな。

東京駅改札での内田百閒
いくつもある改札口の、今使っていない所に靠れて、地下道で縺れ合っている人の流れを眺めた。ろくな人相の男はいない。たまに女が混じって来る。女の人相は男よりまだ悪い。男も女も猿が風を引いた様な顔をしている。
毒舌すぎる。今現在の令和東京の人々で「人相が悪い」人はたまにしか見かけない。

あと、自分が「御殿場線はかつての東海道本線だった」という事実を知ったのは数年前だった。昭和9年に丹那隧道が開通するまでは山北から駿河小山、御殿場を通って沼津へ向かっていた。興津には西園寺公が住んでいた。

あと、このころはまだ大阪の宿の窓には防空演習用の遮蔽幕というのがあって自分は驚いた。内田百閒は北海道へ行くのは嫌がる。理由は日本海の水雷が津軽海峡に流れてこないか心配だから。まじか。あと、内田百閒は戦前に台湾へ行ったことがあるのだが、当時は乗客全員が甲板に集まって救命胴衣を着て沈没訓練というのがあったのか。

内田百閒は岡山市の出身。鹿児島へ向かう途中の岡山
汽車が旭川鉄橋に掛かって、轟轟と響きを立てる。川下の空に烏城の天守閣を探したが無い。ないのは承知しているが、つい見る気になって、矢っ張り無いのが淋しい。空に締め括りがなくなっている。昭和二十年六月晦日の空襲に焼かれたのであって、三万三千戸あった町家が、ぐるりの、町外れの三千戸を残して、みんな焼き払われた晩に、子供の時から見慣れたお城も焼けてしまった。
岡山大空襲は実際にあった出来事なんだなあって。ここを読んで、横溝正史「死仮面」のことを想った。

岩手・盛岡へ向かう途中、大宮と宇都宮の間での描写が興味深い
車内は大変こんでいる。通路に立っている人もある。私と向かい合った前の席に、今、赤ん坊を喰ったと云う様な真っ赤な口をした若い女がいる。岩乗なからだつきで、胸の辺りがはち切れそうである。どう云う婦人だろうと思っていると、車外のデッキに起っているらしい黒人兵が這入って来て、何か食べ物を差し入れした。
黒人兵と連れ添った若い派手な女。昭和20年代ならではかもしれないが、ベトナム戦争あたりの横田基地周辺にも見られた光景かもしれない。今はもう普通で気にも留めない風景かもしれない。

福島の宿で女中の話す言葉が聞き取れないだとか、東北は電力供給がひっ迫していて蝋燭と燭台と懐中電灯持参してきたという件も貴重だと感じた。
テレビドラマや映画で終戦直後を描くと、自分はあんまりリアリティを感じない。作り手が当時書かれた小説なりエッセイなりを読む必要があるように感じた。

2025年1月16日木曜日

私にふさわしいホテル(2024)

昨年末から劇場公開中ののん主演映画「私にふさわしいホテル」を見てきた。
原作は柚木麻子。監督は堤幸彦、脚本は川尻恵太。音楽は野崎良太(Jazztronik)。配給は日活。
成人の日の午後、15時からの回で観客は友人と自分を入れて12人ほどだった。

のん(能年玲奈)の女優としての活躍は劇場映画でしか見れないし、昨年2月から全館改修中で休業中の「山の上ホテル」でロケ撮影した話題の映画。
文学新人賞でデビューしたペンネーム相田大樹こと中島加代子(のん)は、大御所作家の東十条(滝藤賢一)から酷評されたことで後に鳴かず飛ばず。
大手出版社文芸誌編集にいる大学の先輩遠藤(田中圭)に「助けてください」と土下座までするも、対応が薄情だしドライだし冷たい…。

以後、中島は東十条への恨みを晴らすために、自身が作家として売れるためにあらゆる手段で攻めに出る。…というストーリー。
劇場で見る映画は毎回軽いものを選びたいのが自分。これも軽いコメディだからと選んだのだが、予想通りの内容。
「半年後…」「二週間後…」などと場面転換していく映画なので、脚本として雑な印象も受ける。それはあまり繋がりを考えながら見る必要がない。真剣に見る必要もない。

東十条の家族に接近していく場面がまったくなかったのには閉口。おかげで、話題の若手女優髙石あかり(父東十条をエロ小説作家と蔑み嫌う)のシーンがワンシーンしかなくて逆にびっくりした。
あと、別のホテル支配人光石研の出演シーンがワンシーンだったのにも驚いた。
さらに、カリスマ書店員橋本愛の初登場シーンでその風貌にちょっと笑ってしまった。こんな目立つ格好した書店員なんて見たことがない。なぜにベレー帽?
作家としての自分を卑下しへりくだって愛想笑いで追従する中島に、初対面の瞬間から徹底的にドライすぎておかしかった。なのに、新刊本万引き犯を捕まえた中島に急に眼の色変えて感謝するシーンは軽くて安いコメディだなと感じた。

編集者田中圭がドライすぎて、まったくコメディ要素がない。このキャラにはほとんど共感できなかった。
冒頭からずっと怒りブチギレっぱなしのチェゲバラみたいな能年と、ずっと困惑の滝藤賢一だけがコメディを引っぱる。
80年代とはいえ、あんな川端康成みたいな和服姿の文豪っていたのか?
面白かったと言えるが、それは能年と滝藤の熱量の高いやりとりのみ。編集者遠藤の家族にサンタ凸シーンはスベってたようにも感じた。他の客席からまったく笑い声が起こらなかった。脚本として練り込みが足りないようにも感じた。
てか、なんでこの線で「あまちゃん2」として連続ドラマ化できなかったのか?

山の上ホテルもスウィートルームとその下の階の部屋とロビーぐらいしか映らないのは意外だった。

主題歌は奇妙礼太郎「夢暴ダンス」

2025年1月15日水曜日

トーマス・マン「トニオ・クレーゲル / ヴェニスに死す」

トーマス・マン「トニオ・クレーゲル / ヴェニスに死す」高橋義孝訳の2タイトルを収録した新潮文庫で読む。
これ、コロナ期積読本。BOで55円で売られていた。挟み込まれたスピンを見る限り、ほぼ新品同様の令和元年63刷。

トニオ・クレーゲル(Tonio Kröger 1903)
トニオ少年は同じ学校に通うハンス・ハンゼン(金髪碧眼で美しい)と一緒に帰る約束。しかしハンスは湿った風が強いから散歩に適さないから他のクラスメートと一緒に帰るところだった。トニオもハンスも町の名望家の父を持つ。名門校なのかもしれない。

トニオの母は南国生まれ。だからトニオなどというドイツ人らしくない名前。喧嘩早く孤立しがち。トニオは美しい優等生ハンスくんに羨望と嫉妬しつつ友だちになりたいと願う。

この時代のドイツ少年が学校帰りにどんな話題をしているのか興味あったのだが、なんとシラーの戯曲「ドン・カルロス」w うそだろ。今の16歳はマンガか韓国アイドルかポケモンカードバトルだろ。
トニオくんは詩をノートに書いている。え、そのことだけで教師や同級生たちから不評?!いったいどんな詩なんだ。16歳詩人なんて自分が高校時代はまったくいなかったぞ。

そしてトニオ16歳が密かに恋する娘がインゲボルク・ホルム。フランス語でのダンス講習で一緒に踊るのだが、笑われ恥をかく。
父が死ぬと商売をたたんで母は再婚。トニオもイタリアへ。やがてミュンヘン。もう青年?
リザヴェータという女流画家に意味のわからない長広舌をぶつのだが「あなたは芸術に迷い込んだ俗人」と看破され北へ。

故郷のホテルで指名手配の詐欺師と間違われて凹むw そしてデンマークへ。かつて憧れたハンスとインゲのような若者を見て、話しかけようかとも考えたのだが何もせずに去る。そしてリザヴェータに手紙を書く…という小説。
読んでて辛い孤独青年の彷徨遍歴。自分も少なからず思い当たる。青年を孤独にさせるのはよくない…って思った。

ヴェニスに死す(Der Tod in Venedig 1912)
こっちはヴィスコンティの映画で見たやつなので内容はなんとなく知ってる状態。
こっちもざっくり説明すると神々しいまでの美少年に羨望した中年男性の孤独死。
いや、読んでて辛い。青年にも中高年にも孤独はよくない。

武漢肺炎のことを思った。どう言い訳しようとも、現地で危機を伝える医師を妨害し罰した罪と人類への罪は逃れられない。コロナ期間はカミュ「ペスト」でなく、マン「ヴェニスに死す」のほうが読まれるべきだった。

読んでてすごく三島由紀夫っぽいなと感じてた。内容も文体も。三島がトーマス・マンの影響を受けてることは国文学に詳しい人には常識らしい。知らんかった。

2025年1月14日火曜日

長濱ねる「十角館の殺人」(2024)

綾辻行人原作をhuluが実写ドラマ化した「十角館の殺人」全5話が年末年始深夜に地上波放送されたので録画して見た。
これ、TVerでも配信されたのだが、第3話以降が正月を大幅に過ぎても配信されていない。すべてはhuluの戦略だろうけど、見逃し配信を見るしかない人々にとっては焦らし過ぎ。
今現在、とくにZ世代にとってはスマホもケータイもなく、大学生たちがすぱすぱタバコを吸ってる様子も、ダイアル黒電話もプッシュホン電話も、何から何まで未体験で逆に新鮮かもしれない。

今回のキャスト、島田潔が青木崇高で、アガサが長濱ねるという以外は、ほぼ無名俳優たちかもしれない。エラリイの望月歩は「量産型リコ」を見ていた自分には馴染みのある若手俳優。声の特徴がある。
建築家中村青司が仲村トオルなのはよいのだが、その弟が角田晃広ってどうなん?自分、この人はいつもふざけてるイメージしかなかったので、見るとつい笑ってしまう。

このドラマ、自分は原作を読んでいるので、初回から犯人を知ってる状態で見た。ああ、そういう演出で来たかと。これを実写ドラマにするためには、出演者が無名俳優でないといけない。原作を読んでない友人がいつか気づくんじゃないかと心配しながら見てた。
アガサねるが気の強そうな不機嫌ヒステリックな感じがよい。しかし、薬学部学生ってあの場面であんなにも無力なのか?
タバコ吸ってるねるもよい。
原作読者が驚くあの1行があるのは第4話終盤。ああ、そうきましたかと。
しかし、ドラマをしっかり見て台詞をしっかり聴いてる人でないと、あの場面で驚けないかもしれない。二つの異なってると思われたものがピタッと一致する瞬間の驚きを味わえないかもしれない。

大学生って、女のことであんなギスギスできるの?そんな大学生見たことないし都市伝説でしかない。てかなんで関係を周囲に隠すんだよ。あんな逆恨みをする大学生が周囲に紛れてるとか怖い。

2025年1月13日月曜日

織田作之助「五代友厚」(昭和17年)

織田作之助「五代友厚」を読む。日進社より昭和17年4月刊が初出。この河出文庫版(2016年)は織田作之助全集3(講談社)を底本としたもの。
自分、織田作之助(1913-1947)を読むのは今作が初めて。織田作之助が五代友厚の評伝時代小説を書いていたとは知らなかった。初めての織田作之助がこの本でいいのかはわからない。

おそらく、NHK朝ドラ「あさが来た」(2015秋~2016春)を契機に企画された復刻?
昨年の春ごろにBOで110円で仕入れた中の1冊。
自分が手に入れたものは2020年5刷で映画「天外者」(2020公開)に向けたオビがついていた。

前5ぶんの3が評伝時代小説「五代友厚」で、後5ぶんの2が取材ノートと解説的な「大阪の指導者」という構成。

「五代友厚」パートは五代才助と名乗っていた時期。生麦事件と薩英戦争、その後の放浪と帰郷、そして英国留学までを扱う。
若くして島津久光に才能を買われ長崎へ出る。商才を発揮してグラバーと交流。薩摩へ向けて英国海軍軍艦が向かうのを長崎で待ちうけるはずが、クーパー率いる艦隊は直接薩摩へ。

才助は英国艦船に捕らえられ横浜へ。以後、過激な攘夷派の薩摩藩士から命を狙われる。武州熊谷で匿われ、薩摩と英国の和睦が成ると才助は薩摩へ戻る。五代は開国派という誤解が解けると久光に英国留学を願い出る…というところまで書かれた歴史小説。

「大阪の指導者」パートでは「五代友厚」で描かれた、五代が上海で軍艦を購入した年代の誤りを読者から指摘され…という件から語ってる。
書簡からの引用が多く、漢文書き下し候文が多いので、この手の本を読みなれてる人でないと匙を投げるかもしれない。(吉村昭とか読んでる人なら問題ない)

大阪堂島にある商工会議所前の五代友厚銅像に惹かれた織田作之助。風貌の精悍さにおいて坂本龍馬に伯仲すると感じていたらしい。
今日の大阪が発展しているのは第一に豊臣秀吉、第二に五代友厚のおかげ。なのに渋沢栄一は長く記憶され、五代は黙殺されているのは不公平だという大阪人織田作之助の憤り。

友厚会編「故五代友厚」(大正10年)には無数の誤謬と荒唐無稽なデタラメ作。昭和8年に友厚の女婿・五代龍作が編纂発行した「五代友厚伝」が出るまではこの「故五代友厚」しか評伝がなかったらしい。
「五代友厚伝」は女婿による編纂なので五代家の資料が豊富で概ね信用できるが、余りに英雄視もされている…というのが織田作之助の思うところ。

この「大阪の指導者」で五代友厚の経済人としての業績を綴る。自分は五代友厚という人をほぼ名前しか知らなかった。この本で五代友厚の知識のほとんどを学んだ。

2025年1月12日日曜日

加藤小夏「ながたんと青と―いちかの料理帖―」(2023)

加藤小夏は2023年春に放送されたWOWOW連続ドラマ「ながたんと青と―いちかの料理帖―」に出演している。

ドラマは全10話なのだが、加藤小夏出演シーンは第6話と第7話のみ。しかもトータルで2場面しかない。
加藤小夏はたぶん何もしてなくても色白で美しいので、舞妓はんどすえシーンがぜんぜん似合ってない。驚くほどにこの出演は話題になってなかった。
現に自分も録画したまままったく見てなかった。今回、出演シーンのみを見たので、ドラマのストーリーを何も把握していない。
料亭経営者若夫婦を主人公とするドラマ。主演の門脇麦および作間龍斗と1回ずつ会話シーンがあるのみ。これは加藤小夏ファンが小夏目当てで見る必要はない。

ただ、自分のような、加藤小夏さまに特別な何かを感じる加藤小夏研究家(自分以外にいるのか知らんが)は見ておく必要はあるかもしれない。
ほぼ「美味しんぼ」における試食して感想を言うだけのモブのような出演。脇役すぎる。これでは加藤小夏さまの才能を何も活かせてない。
小夏さまは東京の日野・八王子で育ったので、京都人が見たら舞妓言葉に多少は違和感を感じるのかもしれない。

今年はドラマの主演を待っている。何かどでかい話題作映画とかに出てほしい。