シェイクスピア「夏の夜の夢・あらし」を読む。福田恆存訳の新潮文庫(平成11年54刷)で読む。
クラシック音楽を聴いてると否応なくシェイクスピア知識が求められる。メンデルスゾーンやウェーバー、ベートーヴェンもこれらを読んでいたと考えられるので今回ようやく手に取った。
「夏の夜の夢」(1600)
え、真夏の夜の夢じゃなく?そこは訳者が解説。「A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM」のMIDSUMMER NIGHTとは夏至前後の祭。日本では夏至というと天文学的な意味しかないし、日本で真夏というと土用の盛夏、暑中を言う。英国の初夏は爽やかなので、あえて「夏の夜の夢」という訳にしたという。
これってアセンズが舞台ってことになっている。アセンズってどこ?アテネのことか。
アセンズ公シーシアスとアマゾン族の女王ヒポリタは婚約中。老イジーアスが娘ハーミアとその許嫁ディミトリアス、そしてハーミアと相思相愛のライサンダーの3人を連れてきて王に相談。
「わが娘ハーミアが許嫁を拒んでライサンダーと相思相愛で困ってる」
さらに、ハーミアの女ともだちヘレナはディミトリアスに強く恋。という四角関係。
王は「娘は父の物なんだからいうこと聞けや」さもなければ死、もしくは神殿の奥で一生巫女として過ごすか?
そしてハーミアとライサンダーは森に逃げる。その森では職人たちが王の婚礼で上演する芝居の計画と演目の練習中。これは幕間狂言のようなもの。
そして森の妖精たちが登場。目が覚めて最初に見たものを恋するように魔法。どういうわけかライサンダーもディミトリアスもハーミアそっちのけでヘレナを求める。ドラえもんで見るようなカオス展開。
英国人、欧州人が「妖精」というものを具体的に肯定的にイメージできるようになったのはこの作品が最初らしい。
で、ライサンダーの魔法が解けて、ラストで3組の結婚。婚礼の場で職人たちの芝居上演。王たちの酷い芝居へのツッコミ。「月光と石垣がバーゴマスクを踊りながら退場」とか意味わからんしまったくイメージできない。
これ、今まで読んだシェイクスピア喜劇の中ではわりと面白い。たぶん現代の舞台人演出家もかなり面白いものが作れそう。シェイクスピアが劇中劇で「ロミオとジュリエット」パロディのようなことをやってる。「夏の夜の夢」ってこんな話だったのか。
「あらし」(1611?)
シェイクスピア最後の作品。シェイクスピアって47歳で劇作家を引退して以後は余生を送ってたって知らなかった。
これもやっぱり妖精とか怪物とか出てくるファンタジー。なので「夏の夜の夢」とセットにされるのか。
ミラノ公プロスペローは弟アントーニオに王位を簒奪され、漂流後に無人島の洞窟で娘ミランダと暮らしてる。そしてアントーニオとナポリ公アロンゾーら一行を乗せた船も嵐によって座礁し難破。同じ島に漂着。
で、プロスペローが妖怪変化を操って復讐。ミランダがナポリ公の息子ファーディナンドと恋。そして許し。
この戯曲もエアリエルやキャリバンという人間でないものたちの会話とやりとりがあるので、そこを許容できるかが物語に入り込めるかのカギ。
だが、自分は「夏の夜の夢」ほどにはこれを面白く脳内再生できなかった。魅力を感じることができなかった。ベートーヴェンのテンペスト・ソナタのほうが美しい。