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2024年9月7日土曜日

三谷幸喜「オリエント急行殺人事件」(2015)

三谷幸喜脚本によるドラマスペシャル「オリエント急行殺人事件」(2015)がこの夏再放送されたので録画してチェック。昼過ぎ地上波放送でものすごく挟まれるCMが多かった。

三谷幸喜はアガサ・クリスティー原作ドラマを3本も手掛けているが、これが第1作。自分、ドラマを見るか見ないかは出演するキャストに依る。今作は見てなかった。今回、ようやくタイミングが合って見た。
今回も昭和初期の日本・下関から寝台特急「東洋」に舞台を置き換えてる。登場人物たち英国人、米国人、欧州人の名前を、響きの似ている日本人らしい名前に置き換えている。(これは毎回面白い)
なので翻案といえるかもしれないが、自分が見たところ、ほぼ原作に忠実。

本放送当時はドラマを第1夜、第2夜と分けて放送。今回の再放送では1夜ぶんをさらに2回に分けて放送。

だが、第1夜ぶんが終盤にさしかかるにつれ、もうほぼ全パート完走では?!となって戸惑った。
それに、この悲劇を視聴者にわからせるためには、発端となった剛力家で起こった悲劇を、もうちょっとフラッシュバック的に写真なり短い映像なりで見せないといけないのでは?と思って観ていた。
だが、さすが三谷幸喜だった。第2夜では剛力家回想パートと、寝台列車に剛力家の人々が乗り合わせて以降の、ポアロ氏側から見えていなかった背後ドラマをすべて、行間を補って、新規創作して見せていた。これには驚いたし、口あんぐり。

第2夜後半の、実は背後でこんな会話とやりとりがありましたパートはとにかく感心した。クリスティが原作でまったく描いていない箇所がみごとだった。本当にそんな会話がなされたに違いないとすら思った。
ほぼ「12人の優しい日本人」のようなテイスト。「鎌倉殿の13人」かもしれない。
全員が一蓮托生。想定外の事態に焦ったり、口論したり、テンション上がって予定外のことしたり、うっかりミスしたり…。ほぼ三谷舞台のブラックコメディー。

日本人は忠臣蔵が好き。なのでこの「オリエント急行」も仇討話として見てるはず。
全体としてコメディ調なのに殺害現場シーンはエグい。
たぶんおそらく竹中平蔵は介護施設で藤堂と同じような最期を迎えるに違いない。

この三谷版はかなり好印象。出演した役者たちがかなり高い精度でしっかり役割を演じていて感心しかしなかった。悲劇を浮かび上がらせるためにはコメディパートも必要。
このテイストで三谷脚本の金田一耕助が見たい。

2023年12月24日日曜日

アガサ・クリスティー「謎のクィン氏」(1930)

アガサ・クリスティー「謎のクィン氏」(1930)を1978年ハヤカワ・ミステリ文庫クリスティー短篇集5(石田英士訳)で読む。
THE MYSTERIOUS MR. QUIN by Agatha Christie 1930
5年以上前にBOで見つけて確保しておいた一冊。108円の値札が貼ってある。前の所有者がメシ喰いながら読んだせいか油跳ねなんかで汚い。

神秘の探偵クィン氏の活躍を描く11篇を収録する短篇集。では順番に読んでいく。
  1. クィン氏登場
  2. 窓ガラスに映る影
  3. 道化荘奇聞
  4. 大空に現れた兆
  5. ルーレット係の魂
  6. 海から来た男
  7. 闇の声
  8. ヘレンの顔
  9. 死んだ道化役者
  10. 翼の折れた鳥
  11. 世界の果て
  12. 道化師の小径
それぞれ1本ずつ感想を書いていくつもりだったのだが、それは無理だった。読んだ先から内容を忘れていくw 
短編ミステリーというより、恋する男女を観察してる老人目線のおしゃれ短編文芸。チェーホフ戯曲のようにすら感じた。

60代の老人サタースウェイト氏は社交界にも顔を出す資産家英国紳士。たぶん特に仕事などしていない。パーティーなどに顔を出して話題の男女などを観察し、背後にある何かを感じ、時に事件が起こり、それを解決したり納得したり。

すべてサタ―スウェイト氏という小柄な老人による体験主観語り。すべての話で終盤にハーリ・クィン氏という正体不明紳士が登場。
毎回毎回、パーティー会場のお屋敷、事件現場、レストラン、田舎旅館、裁判所、劇場、列車の中などでサタ―スウェイト氏の視界に入ってきて偶然出会う。
このクィン氏と何か少し話をすると物語が展開し始める。ヒントを得て事件(殺人事件でもなければ事件というほどでもないものもある)が解決する。

てっきりクィン氏という名探偵が事件を解決するミステリー短篇集だと思っていた。まったく違っていた。
クィン氏の容姿や年齢や職業、地位、家族、友人関係などの情報がほとんどない。(最終話で意外な特技?が判明)

ホームズとワトソンのようですらない。クィン氏のような存在感と登場のしかたの名探偵は他で見たことがない。強いて言うならミス・マープルが終盤になって登場人物の視界に斜めから入ってくるパターン。

あまりに二人が偶然バッタリ出会う。そんなことってある?名士同士ならロンドンで、カンヌやモンテカルロで出会うこともあるかもしれない。しかし、コルシカ島の海に突き出た崖で視界に現れたときは「もっと驚けよ!」と想ったw 
不自然すぎて、このクィン氏と言う人は孤独な老人サタ―スウェイト氏の深層心理と内面から現れる幻覚のようなものか?とも思えてくるのだが、他の登場人物からちゃんと見えていて会話もしている。

そんな短編を楽しめる人のみが評価できる短篇集。「謎のクィン氏」はそれほど有名でもないのだが、わりと人気があるようだ。

これをもって2017年から開始した私的クリスティーマラソンのラスト86冊目。これで自分の持ってるクリスティ文庫はすべて読破。
たぶんまだ読んでないのはアンソロジー短編とか、児童向けとか、戯曲、恋愛小説、自伝、研究本のみ。

自分としては読みたいものはもうほぼすべて読んだことだし、これをもってクリスティ卒業。
しかし、1回読んだだけのものはもうあまり覚えていない。もしかすると2週目に突入するかもしれない。訳者が異なるものは買い集めてしまうかもしれない。

2023年4月6日木曜日

アガサ・クリスティー「茶色の服の男」(1924)

アガサ・クリスティー「茶色の服の男」(1924)を読む。中村能三訳ハヤカワ・ミステリ文庫(1982)の1995年14刷で読む。
2018年夏ごろにBO100円棚で見つけて確保積読しておいたものをようやく取り出して読む。極私的クリスティーマラソン85冊目。確保してるクリスティーはこれを含めて残り2冊。
THE MAN IN THE BROWN SUIT by Agatha Christie 1924
主人公アン・ベディングフェルドは地下鉄ホームで男(ナフタレンの臭いがぷんぷんするオーバーコート)が何者かに怯え後ずさって転落死を目撃。その場へ野次馬をかけ分けて自称医者が遺体を見る。看護婦の経験があるアンはこの医者が偽物だと見抜く。何かをまさぐってた。この偽医者がメモ書きを落としていく。

死んだ男が女と待ち合わせするミル・ハウスで若い女の死体が見つかる。アンは警察に話をしに行くのだが担当刑事が気に入らない。すると今度は新聞社社主に強引に面会し、事件を調査したら新聞記者に雇ってもらう約束を取り付ける。アンは考古学者の父を肺炎で亡くし、身寄りも財産もなく働く必要。

アンが信じられないほど行動的。冒険おてんば娘。メモ書きにあったキルモーデン・キャッスルという名前が古城でなく、南アフリカ・ケープタウン行きの船便だとにらんだ。そして全財産で片道切符を買う。

船内にはミル・ハウスの所有者であるユースタス・ペドラー議員と人相の悪い秘書パジェット。さらにユースタスにローデシア行きを進めた人物が送り込んだ怪しい秘書。レイス大佐と呼ばれる謎の人物。社交界の花型ブレア夫人。偏屈な宣教師。
ブレア夫人のイングリッシュジョークのセンスに笑った。船酔いで苦しむアンに対して「元気になった?水葬が見れるんじゃないかと楽しみにしてたのにぃ~」

メモ書きにあったのは船便と部屋番号と時刻では?船酔いで舷側窓部屋に移ることを勧められたのだが、その17号室をめぐってアン、パジェット、宣教師の3者が激しく言い争いw
結局、事務船員は美人の見方。だが、何者かが部屋に変な臭いを撒いたりしてアンが使用するのを妨害しようとする。意地でも負けないアン。夜間にアンの部屋に背中を刺された男が逃げ込んできたので匿う。
アンは正体不明のこの男に一目で恋してしまうw なんというヒロインだ。

客船、そして南アフリカ。ケープタウン、ヨハネスブルグ、ローデシア。1920年代の南アフリカという日本人になじみのない土地を舞台に、犯罪組織のダイヤモンドをめぐる陰謀、そして恋。尾行されたり、敵の罠にハマったり。崖から転落したり。銃撃戦があったり。魅力的な英国娘の大冒険譚。

「茶色の服の男」はクリスティー女史のクライムサスペンス冒険小説として今も人気作。当時もウケたようで、クリスティーはこの本で最新型の車を購入したらしい。

1924年って日本では大正時代。南アフリカもローデシアも政情不安だったようだ。

2023年4月5日水曜日

クリスタル殺人事件(1980)

まだ見たことのなかった「クリスタル殺人事件 The Mirror Crack'd」(1980)
を見た。2月にBS日テレで放送されたので録画しておいた。

アガサ・クリスティーの長篇「鏡は横にひび割れて」(The Mirror Crack'd from Side to Side, 1962)を原作とする英国田舎屋敷ミステリー映画。
監督はガイ・ハミルトン、脚本はジョナサン・ヘイルズおよびバリー・サンドラー。
70年代になってアガサ・クリスティーのミステリー小説が次々と映画化されていた時代のもの。コロンビア ピクチャーズ/ワーナー・ブラザースの映画。制作はEMI。

アンジェラ・ランズベリーが主演。探偵にあたる老嬢ミス・マープルを演じてる。この女優は「ナイル殺人事件」にも出てた。
1953年が舞台になってる。村の映画上映会の途中、名探偵が犯人を指摘するというそのときに映写機トラブル。犯人がわからないなんてモヤモヤ。ミス・マープルは得意げに犯人を指摘して途中で立ち去る。え、マープル婆さんってこんなキャラだっけ? 

1953年セント・メアリ・ミード村。往年の大女優マリーナ・クレッグ(エリザベス・テイラー)が久しぶりに映画に復帰するというのでにぎわう。夫のラッド氏がロック・ハドソン。撮影隊が村のゴシントン荘に長期滞在し映画撮影するらしい。
監督ラッドとマリーナ夫妻の秘書エラはジェラルディン・チャップリン。この女優はあのチャップリンの娘。

村をあげての盛大な交歓パーティー。これが英国田舎の村祭りか。運動会みたいなゲーム大会も兼ねてるのか。
ミス・マープルは犬のリードに足をすくわれ転倒。やむなく帰宅。

映画プロデューサーのブルースター(トニー・カーチス)がグラマー女優ローラ(キム・ノヴァク)を派手に連れてやってきて周囲はざわざわ。この女優はヒッチコック監督の「めまい」に出てた人だ。マリーナとローラは犬猿の仲。バチバチにやりあう。
そして戦時中にマリーナの慰問公演を見て感動したというヘザー・バブコックさん(おしゃべりファン)が急死。 

パーティーで給仕手伝いをしていたマープル家の家政婦娘チェリーがマープルさんにそのときの状況を語って聴かせる。
バブコックさんはマリーナに一方的に退屈な思い出話を喋り倒してた。その時マリーナは階段の聖母子像を見つめて「凍りついて」いた。

バブコックさんの死因はカクテルに混入された毒物。その毒入りのカクテルはマリーナが飲むはずだったのだが、バブコックさんが直前でこぼしてしまって交換していた。
マープルさんの甥でスコットランドヤードの警部クラドックはエドワード・フォックス。こうやってマープル婆さんは捜査はしないのに事件の情報を得ていく。

マリーナは鬱病だった。熱望してやっと生まれた子は障害を持っていた。以後女優の仕事をしてなかった。やっと映画の世界に復帰。

撮影の休憩中にヒステリー。コーヒーに毒が入ってると騒ぐ。脅迫もされて精神状態が悪化してるようだ。さらに助手エラ(花粉症)も毒殺され…。
劇中の相手役(チョイ役)がなんとピアース・ブロスナンだ。後の007ジェームス・ボンド俳優だ。

金と欲のドライな動機が多いクリスティ作品の中で、こいつだけは動機が忘れられない作品。だが、魅力を感じるのはその一点のみ。
映画としてはめちゃくちゃ地味な映画。舞台作品かテレビ映画でいいような会話劇。マープル婆さんがそれに気づいた瞬間すら劇的に見せてくれない。気づいたら事態が判明してました…と視聴者は知らされるのみ。

2022年12月2日金曜日

アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」(1944)

アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」(1944)を早川書房クリスティー文庫(2004 中村妙子訳)で読む。ついに読む。私的クリスティーマラソン84冊目。
ABSENT IN THE SPRING by Agatha Christie 1944
これはミステリー小説でなくメアリ・ウェストマコット(Mary Westmacott)名義で発表された恋愛小説。
これを読むのは最後でいいか…と思っていたのだが、わりと世間の評判がいいし、サスペンス要素があるらしいので期待して読む。

イラクにいる娘バーバラが寝込んだのでお見舞いと身の回りの世話にやってきたヒロイン・ジョーンはたぶん40代後半(孫がいる)だがほっそりして顔にしわもなく30歳ぐらいに見える美人らしい。3人の子どもも独立し結婚し、夫の弁護士事務所も順調に経営発展。人生なにもかも上手くいってる。

バグダッドで女学校時代の旧友のブランチと再会したのだが、まるで60歳ぐらいに老けていてショック!「獣医なんか」と結婚してしまったせいで落ちぶれて、しかも品がない。

そしてロンドンに帰国するために悪路を車で移動するのだが汽車に送れてしまう。週3回の便があるのだが、線路が寸断して数日トルコ国境のレストハウスでで足止め。

周囲に何もないので暇。散歩したり友人に手紙を書いたり…。インド人がアラブ人少年を雇って経営する宿泊所の食事が毎回同じ缶詰。読む本もない。

そして以後ずっと、ジョーンによるこれまでの人生の回想と自問自答。
夫ロドニーが弁護士事務所勤務に嫌気と過労で「農場経営やりたい…」とか言い出したときは必死の反対。
息子は弁護士にならずに農学校へ行きローデシアに行き果樹園をやって勝手に結婚。
長女エイヴラルは少女時代から反抗的で母を「何もしてないよね?」と見下す。20歳も年の離れた医師と恋仲になったときは母激怒。
末娘バーバラもイラクの土木業者と結婚してしまった。

読んでも読んでも面白くなってくれない。厳格な両親と厳格な女学校で育った堅物イギリス婦人の、これまでの人生で起こった不快な出来ごとの回想と幻想が延々と続く。
この夫人が気位が高くてめんどくさい。夫ロドニーはちょっとぼんやりしてるけど、心優しい紳士だし常識人。新しい世代の若者にも理解がある。人生経験もある。
結局、夫婦はお互いのことがわからないよね?というテーマか。

老婦人作家が老婦人を主人公に老婦人読者に書いたような文芸小説。おそらく男性読者には面白さがわからないかと思う。

2022年8月19日金曜日

アガサ・クリスティー「蒼ざめた馬」(1961)

アガサ・クリスティー「蒼ざめた馬」橋本福夫訳1979年ハヤカワ文庫版(1991年第20刷)で読む。
これも4年前に100円で見つけてずっと積んであったもの。手に入れたときからあまり状態はよくなかった。私的クリスティーマラソン83冊目。
THE PALE HORSE by Agatha Christie 1961
主人公のマーク・イースターブルック氏は著述を仕事にする学者らしい。オリヴァ夫人と仲良くしてるのでてっきり中高年かと思ってたら、読み進めるうちに青年だとわかる。
チェルシーのカフェでコーヒーを飲んでると若い女同士のケンカを目撃。後日、その当事者のトミイ21歳が病院で自然死してたことを知る。

場面が変わる。感冒から肺炎になって危篤の女性(謎めいてる)のアパートで最期を看取り懺悔に立ち会ったカトリック司祭が、霧の夜の路地で撲殺。この人の良い優しい神父は靴の中にメモ書きを残していた。その人名リストにある名前を調べると、何人かすでに亡くなっている…。

コリガン医師からその件を知らされたマークは不審なものを感じる。ステディな彼女もいるのだが、赤毛娘のジンジャと一緒に調査。
ルジュヌ警部は殺された神父を尾行していた男を探す。調剤薬局の主人がその男をしっかり見ていたのだが、その男は数年前から小児麻痺によって下半身がマヒしていて歩けない。

マークは三人の魔女が住むという宿屋兼居酒屋「蒼ざめた馬」が人々の死に関わっている疑惑を強める。いろんな人々のところへ出向いて話を聴いて確信。その仲介をしているのが弁護士のブラッドリィ氏?

マークは遂に潜入囮捜査のようなマネをする。赤毛のジンジャを巻き込んで。
「蒼ざめた馬」の三人の婦人がオカルト的な方法で人を自然死させている?!

これ、今まで読んできたクリスティ女史の作品とは一線を画すサスペンスホラー長編?
自分は読んでいてずっと困惑してた。場面が断片的で映画っぽい目線。
もし中学生時代の自分が最初にこの本を選んでいたら、アガサ・クリスティーにはそれほどハマらなかったかもしれない…などと考え始めた。それほどまでに独特な一冊。

だがしかし!ジャジャが大ピンチ?!そしていよいよ事件の黒幕に迫る!という段になって予想外な真相!さすがクリスティ女史だったわ。

でも、ずっとどんなジャンルなのかわからず読んでいた時間が長くてストレスだったw 全体としては退屈だったのに最後の最後で何かがスパークするような作品。
主人公よりも陰で動いていた刑事のほうが実は冷静沈着で有能だったという肩透かしパターンでもあった。そしてセンス高いおしゃれなラブコメエンド。

ちなみに、この物質を使った殺害事件は日本でも実際に起こっていた。
あと、邪知暴虐のプーチンが反体制的人物やジャーナリストを「--」によって殺害する事件が英国で最初に発覚したのは、英国人がクリスティのこれを読んでたからじゃなかったかと思った。

2022年4月30日土曜日

アガサ・クリスティー「アクナーテン」(1973)

アガサ・クリスティー「アクナーテン」(1973)を中村妙子訳2004年クリスティー文庫版で読む。古代エジプト第十八王朝の王アメンヘテプ四世(アクナーテン)の宗教改革とその妻ネフェルティティのドラマ戯曲。私的クリスティマラソン82冊目。
AKHNATON by Agatha Christie 1973
王の病気を治すためにシリアからイシュタール女神像がアメンに運ばれてくるシーンから始まる。シリア人たちを見た市井の人々の反応「外国人っていやね」。これはそのまま英国の保守層を風刺揶揄?
続いて大神官とその息子軍人ホルエムヘブのふたりが会話でエジプトの国情を説明。「王子の挙動がおかしい」「気がふれているのかもしれない…」

ティイ王妃と王子アクナーテンがシリアからの一行に謁見。その場でホムエルヘブはアクナーテンと初対面。
王子と軍人はまったく話がかみあわないのだが、王子から友人になってくれるよう頼まれる。王子の夢は戦争のない世界。

そして王の死。新王アクナーテンは政治に無関心。アメンの神よりもラー・アテンの神と新首都建設にご執心。そして妻ネフェルティティがすべて。この王妃は5人の子を生むのだがまだ男子を生んでいない。
娘の婚約者にツタンカーテンという少年が出てくる。どうやら後のツタンカーメンらしい。

周辺国との外交問題、そしてアメンの町での一揆。アクナーテンはアテン神以外の神を禁止する急速な宗教改革でさらに敵をつくる。ホルエムヘブが諫めるのも聴かず。国か国王か?アメンの神官たち、ネフェルティティの姉ネゼムート、そしてホムエルヘブの決断。

全3幕とエピローグ。芸術に打ち込み、外交と軍事をないがしろにし、治安を悪化させ、誰も求めていない宗教改革で孤立した狂王の悲劇的末路。

クリスティ女史はこの作品を気に入っていたらしい。シェイクスピアを意識した史実ではない創作エジプト史劇。登場人物たちが現代的で合理的で言う事が平易。中学生でも理解が容易。

2022年2月25日金曜日

アガサ・クリスティー「チムニーズ館の秘密」(1925)

アガサ・クリスティー「チムニーズ館の秘密」を読む。高橋豊訳のクリスティー文庫版(2004年初版)で読む。2018年の夏に100円で見つけて買っておいたものをようやく取り出して読む。私的クリスティマラソン81冊目。
THE SECRET OF CHIMNEYS by Agatha Christie 1925
初期クリスティのスパイ物。ローデシアで英国婦人たちを案内中の旅行会社社員アンソニー・ケイドくんは旧友のジェイムズ・マグラスくんとばったり再会。

国王夫妻が暗殺され共和制に移行した「ヘルツォスロバキア」なる架空の小国の元大臣貴族が書き記した回顧録原稿を、ロンドンの出版社に持ち運べば1000ポンドもらえる。自分は金鉱の有力情報を持ってて掘りに行くので、代わりにロンドンに行ってくれないか?
アンソニーは旅行会社をすぐに辞めて、マグラス名義で船で英国に帰国。

一方そのころ英国では政府高官ケイタラム卿と外務省ロマックス氏がひそひそ話。チムニーズ館にその王子がやって来る。英国はこの小国の石油利権を狙ってる。回顧録原稿を持ったマグラスという人物が英国にやってくるので原稿を事前に回収する交渉をしたい。
回顧録が出版されると困る王政擁護派も原稿を狙う。アンソニーはホテルで襲われたりもする。

開始数章を読んだだけで面白い。クリスティー女史の書く大人たちの会話、男女の会話、おっちょこちょいの会話がユーモアがあってオシャレ。男女が出会ったり、死体が見つかったりする正しい英国スパイスリラー。
だが、展開はほとんど屋敷内部で起こるので地味。

アメリカ人探偵、フランス警察の刑事、フランス人家庭教師、イタリア人、などが登場する古典的な国際スパイもの。実はアイツの正体はアレで…という展開にはそれなりに驚けた。
これがバトル警視初登場作。ほとんど表情を変えない有能刑事。

第一次大戦後のオーストリアハプスブルク家の没落と逆行するようなロマンス小説。じつは貴種流離譚。ラストはちょっとダラダラ長かった。

2021年12月8日水曜日

アガサ・クリスティー短篇集「マン島の黄金」(1997)

アガサ・クリスティー短篇集「マン島の黄金」(1997)を読む。これは新聞雑誌に発表した後に日の目を見ず、短篇集などから漏れ落ちていたものを集めて、クリスティ死後四半世紀を経て1冊にまとめた最後の落穂ひろい的短篇集。
WHILE THE LIGHT LASTS AND OTHER STORIES by Agatha Christie 1997
日本では早川書房独占。中村妙子・他訳全10篇で2001年にハヤカワ・ミステリ文庫化。それぞれの短編の後に詳しい解説文がある。
ほとんどの日本人がこの邦訳出版で初めて読んだはず。自分は2021年になってようやく初めて手にとった。私的クリスティ―マラソン80冊目。そろそろゴールは近い。

「夢の家」(1926) ちょっとした夢と幻想の短編。

「名演技」(1923) 過去を性悪男につかまれた女。だが、女のほうが上手だった。

「崖っぷち」(1927) 資産家の男と女ふたり。醜い争いの嫌な結末。

「クリスマスの冒険」(1923) ポアロもの短編。「クリスマス・プディングの冒険」の原型。

「孤独な神さま」(1926) 大英博物館の東洋の神様の石像の前での男女のロマンス。

「マン島の黄金」(1930) マン島観光振興企画ミステリーイベント用に書かれ配布された宝探しスリラー小説。暗号を解いて殺人まで起こって…という。

「壁の中」(1925) 三角関係男女の小説。ミステリーとは言えない。

「バグダッド大櫃の謎」(1932) 「クリスマス・プディングの冒険」(1960)収録の「スペイン大櫃の謎」の原型。

「光が消えぬかぎり」(1924) 戦争で死んだはずの夫は生きていた?今は再婚している夫人の心の不安。ちょい怪談。

「クィン氏のティー・セット」 ある老人が車の故障で立ち寄ったカフェで、ハーリ・クィン氏と再会して、訪問先の親友と娘と孫の話をする。何かが起こりそうな不安。これは30分ぐらいのドラマにできそう。頭の中で映像が眼に浮かんだ。

以上の中で一番おもしろかったのは「クィン氏のティー・セット」だったかな。それほど印象に残るようなものはなかった。

2021年7月24日土曜日

アガサ・クリスティー「カーテン」(1975)

アガサ・クリスティー「カーテン ポアロ最後の事件」を読む。中村能三訳2004年クリスティー文庫で読む。私的クリスティマラソン79冊目。ポアロ長編33作目。(小説版ブラックコーヒーを含めると34作目)
(現在書店で新刊として買えるクリスティー文庫は田口俊樹訳の新訳。今回読んだものは旧訳。)
CURTAIN : POIROT'S LAST CASE by Agatha Christie 1975
この作品こそが名探偵エルキュール・ポアロが死すポアロ最後の長編。発表されたのはクリスティ最晩年の1975年だが、書かれたのは1943年らしい。一時的に経済的困窮してたクリスティは作品ストックの必要性を感じてたらしい。
これを読めばすべてのポアロ長編全33冊を読み終わってしまうことになる。なので、32冊を読み終わった今になってやっとページを開く。

ポアロ初期にしか登場しなかったヘイスティングズが再登場。懐かしいスタイルズ荘にポアロを訪ねる。ラトレル大佐夫妻の経営するゲストハウスとなってるスタイルズ荘にポアロは召使と滞在中。

すでにポアロは体の自由が効かない衰弱した老人。だが、頭は冴えてる。ヘイスティングズに「この中に殺人者がいる」と知らせる。過去に起こった5つの事件に共通する殺人者Xを探す助手を務めてほしいらしい。
ヘイスティングズもすでに老人。末娘ジュディスは自分の嫌いな男の肩を持つ。それどころか恋仲?ヘイスティングズは怒りと哀しみ。

やがてラトレル大佐が夫人を誤射して怪我を負わせてしまう事件が発生。大事に至らずなにより。
そしてジュディスが師事し助手を務めるフランクリン博士の鬱病妻が薬物中毒で死亡。
さらにバードウォッチが趣味の変わり者男が密室で頭を撃ち抜いて自殺?

これ、5ぶんの4ページほど読んでもぜんぜん面白くなってくれない。ポアロは解ってるようで何もヘイスティングズに教えない。そしたら1行後にはもう死んでる。悲しい。
これは1975年の出版当時にこれを読んだ人々は「駄作中の駄作」だと失望しただろうな…と思っていた。

だが、最後のポアロの残した手記を読んで考えを改めた。やはりポアロは神のように全体像をお見通しだった。それどころかヘイスティングズやスタイルズ荘の人々を騙し、裏で手を回していた。「ポアロの犯罪」とでもいうべき、ラスト作にふさわしい作品だった。クリスティ版「レーン最後の事件」だった。

今作を読了したことでミス・マープル長編に続いて、ポアロ長編全作を読み終わった。
だが、まだ2周目の楽しみが残されている。クリスティは1回読んだものでもすでに誰が犯人だったか忘れているものも多いw

最後に、ポアロ長編33作を読破した今、個人的に面白かったポアロ長編ベスト10(2021年暫定順位)
01.オリエント急行の殺人
02.ナイルに死す
03.エッジウェア卿の死
04.邪悪の家
05.死との約束
06.葬儀を終えて
07.愛国殺人
08.三幕の殺人
09.杉の柩
10.ポアロのクリスマス

2021年5月27日木曜日

アガサ・クリスティー「スリーピング・マーダー」(1976)

アガサ・クリスティー「スリーピング・マーダー」(1976)を読む。早川書房クリスティー文庫(2004)の綾川梓訳で読む。私的クリスティマラソン78冊目。
SLEEPING MURDER by Agatha Christie 1976
ニュージーランドから英国へ移り住む新婚の若妻グエンダは、後からやって来る夫ジェイルズ・リードに代わって英国南部で新居を探し歩いている。ディルマスという田舎町にヒルサイド荘という家を見つけて移り住む。

マープルの甥レイモンドのパーティーで余興芝居を観劇中に昔の記憶がフラッシュバックしヒステリーとパニックを起こしたグエンダ。過去の記憶、女の絞殺死体。それは一体誰?

そして、ヒルサイド荘はかつて幼少時代に、軍人だった父ケルヴィン・ハリディ(インドでグエンダを生んだ後に妻病死。幼い娘はニュージーランドの姉の元へ。)と継母ヘレンと3人で短期間一緒に住んだことのあった家であることが判明。

ジェイルズ&グエンダ夫妻は、18年前にハリディ一家と関わりのあった家政婦、女中、医者、弁護士とその事務員、近くのホテルに滞在していた軍人夫妻に話を聴きに行く。18年前の埋もれた事件を掘り返す。ミス・マープルが「よしたほうがいい」と制止するのも聞かずに。

継母はインドで茶を栽培してたウォルター(現ディルマスの弁護士事務所経営者、独身中年)の元へ向かう船の中で別の恋?ウォルターとの婚約を破棄し、さらに帰りの船でまたさらに別の恋?それが父ケルヴィン?
父ケルヴィンを残して恋人と出奔した継母は今どこに?医者の兄も行方を知らない。ひょっとして、殺されてどこかに埋められてる?傷心の父は精神病院で自殺していた?!

マープル老嬢はリード夫妻とは別行動で、関係者たちの懐にしれっとインして世間話しながら事件の真相を探っていく。
18年間忘れられていて明るみに出なかった事件の真相がだんだんと判明していく「回想の殺人」もの。英国の田舎を舞台にした社会派ドラマ。

マープルはリード夫妻を適切にアドバイスして真相に導いてる。だが夫妻はあまりマープルの言うことを好意的に扱ってない。結局、グエンダがひとり真相に気づいて、あわやの危機一髪。
クリスティはマープルの姿を借りて、たったひとりの誰かが話すことの他ソースがないことを信じる危険を説く。間違った情報を信じると、正しい真相から遠ざかる。

これは読んでるときから面白かった。犯人も十分に適切に意外。
調べてみたらポアロ「カーテン」と同じく、1943年という早い段階で準備されていてクリスティ女史の死後に出版。

2021年4月12日月曜日

アガサ・クリスティー「ねずみとり」(1954)

アガサ・クリスティー作の戯曲「ねずみとり」を読む。鳴海四郎訳2004年早川書房クリスティー文庫版で読む。私的クリスティマラソン77冊目。戯曲は4冊目。
THE MOUSETRAP by Agatha Christie 1954
これはクリスティー女史の書いた戯曲としては半世紀以上のロングラン、2万回以上の上演回数を記録する最大のヒットとなった超有名作。古典中の古典。ミステリー劇のマスターピース。
「愛の探偵たち」に収録されている中編「三匹の盲目のねずみ」(1948)を戯曲化したもの。

戯曲「ねずみとり」は少しだけ違いがあるが、小説版とほぼ設定も展開も同じ。一番大きな違いは宿泊客にひとり記憶にない人物がいる。「愛の探偵たち」をパラパラとめくって確認してみた。やはり戯曲版にはミス・ケースウェルという女性客がひとり増えていた。

雪の山荘。オープンしたてのゲストハウスへやってくる客たち。さらに刑事もやってくる。口うるさいボイル夫人が絞殺され捜査が始まる。戦時中の児童虐待事件に関わった人物が殺され、その当時の少年が犯人か?だとするとあと一人殺される可能性がある!そして予想外の展開!

だが、現代のあらゆるパターンに接してきた読者にはそれほど驚くこともないかもしれない。だが、それでもこのお芝居は魅力的。演出家としても挑戦しがいがありそう。
ぜひテレビドラマにでもしてほしい。モーリー(ロールストン夫人)をぜひガッキーとかまさみとかばっさーとか有村架純とか人気女優でお願いしたい。

この戯曲もとくにトリックがあったり証拠を探したりすることもない。ただ、上質でおしゃれで趣味がよいお芝居。

2021年4月9日金曜日

アガサ・クリスティー「検察側の証人」(1954)

アガサ・クリスティー作の全3幕の戯曲「検察側の証人」を読む。加藤恭平訳2004年早川書房クリスティー文庫で読む。私的クリスティマラソン76冊目。戯曲は3冊目。

これはロンドンでもニューヨークでも大ヒット。1957年には「情婦」というタイトルでビリー・ワイルダー監督によってタイロン・パワー、マレーネ・ディートリヒによって映画化されたクリスティーの有名作。
WITNESS FOR THE PROSECUTION by Agatha Christie 1954
これ、高校生の時に読んだことがある。当時はハヤカワ・ミステリ文庫。十代の自分に法廷劇などとうていイメージできていたとは思えないのだが、ラストに二転三転するどんでん返しもあって、面白かったという印象は残っていた。

今回読み返してみて、ほとんど内容を覚えていないことがわかった。ただ、ストーリーと登場人物たちの役回りと真相は知ってる状態で読んだ。最近読んだ短篇集「死の猟犬」収録の短編小説「検察側の証人」とは別物と呼んでいいほど内容も印象も違う。

孤独な資産家老嬢が殺害された事件。親切に落とし物を拾ったことで老嬢に気に入られ友人となったハンサム男レナードが容疑者となって逮捕される。直前に書き換えられた遺言状で全財産がレナードに譲られることになっていた。事件の前に高額な海外旅行の問い合わせをしたり、家政婦に会話を聴かれたりと不利な材料が多い。

レナードの妻ローマインはドイツ人。英国人の常識が通じない冷たい印象の美人妻。
オールド・ベイリーで法廷弁護を担当するウィルフレッド・ロバーツ卿は初めて会ったときからローマインに嫌なものを感じていた。夫のアリバイを法廷で証言すればいいのに、夫の縛り首を決定づける裏切り証言をしてしまう。

だが、公判初日が終わった夜にローマインが何者かに書き送った手紙がウィルフレッドの事務室に持ち込まれる。こいつがあればローマインの偽証を証明できる!

そして無罪評決。そのあとの二転三転はネタバレになるのでここでは書かない。短編小説版は後味が悪い感じだったのだが、戯曲版は悪人は報いを受ける。そこはスカッとするのでヒットしたのかもしれない。

1日でさっと読めるボリュームの本なのでぜひ一度読んでみることをオススメする。たぶん後の法廷劇サスペンスなどに多大な影響を与えている。

ちなみに巻末解説によれば、英国の刑事裁判はソリシター(事務弁護士)がバリシタ―(法廷弁護士)を選んで弁護してもらう。検事局、検察局というものはなく、起訴は公訴局が行う。

2021年3月12日金曜日

三谷幸喜「死との約束」(2021)

脚本家三谷幸喜によるアガサ・クリスティー翻案ドラマ第3弾「死との約束」が3月6日に放送された。前回の「黒井戸殺し」が面白かったので期待して見る。

原作では1930年代の中東ヨルダン・ペトラ遺跡が舞台なのだが、三谷幸喜は昭和30年の冬の熊野古道観光に舞台を移している。気候も季節もまるで逆。乾燥して暑い砂漠から、寒々しく湿度の高い紀伊山地に舞台を移設。

とてもクリスティ女史らしさのある古典的名作。自分は原作をすでに読んでいる。なので犯人を知っている状態で見る。
鈴木京香演じる婦人代議士上杉穂波(ウエストホルム卿夫人)の過去を、野村萬斎演じる世界一の名探偵勝呂武尊(エルキュール・ポアロ)に序盤で語らせる回想シーンがあるのには驚いた。

活字で読むクリスティなら強引な力業も許されるかもしれないが、ドラマではこれがないと「後出し」と批判されるかもしれない。なので三谷幸喜はあえて入れてきたシーンかもしれない。
この物語のヒロインである女医サラ・キング(沙羅絹子)を演じたのは比嘉愛未
自分、この人の出演したドラマも映画もあまり見たことがない。あまり三谷ドラマ常連というイメージはない。
この女優は沖縄出身だが、顔はあまり沖縄ぽくない。調べてみたら現在34歳。品のある美人でクリスティドラマのヒロインにぴったり。

熊野古道観光でポアロ野村萬斎と一緒になる。さらに、金持ち資産家本堂家(ボイントン家)の人々と一緒になる。本堂家の次男主水(レイモンド)市原隼人にちょいラブになってる。

本堂夫人(松坂慶子)が、夫の遺産を一身に握って家族を経済的にも精神的にも支配している。家族が家族外の者と口をきくのも気に入らない。息子娘たちの誰も逃げ出さず従順にお仕えしてる。そんな様子を見かねて沙羅医師は主水に自立するように忠告。

この婆さんが英米ならありえなくないけど、戦前戦中戦後を生き抜いた日本人老婆らしくはない。男尊女卑が強い昔の日本なら金を握っていてもこんな人は相手にされない。周囲がちやほやしなければ生きていけない。なのに自分から周囲をすべて敵にしてる。
長女キャロル(鏡子)が最近ドラマに映画に見かけるようになってきた堀田真由。現在22歳で売り出し中の女優。それほど美人と思えないのだが、この役はこの女優にぴったり。声質が良い。
実はこのドラマをチェックした動機のひとつが次女ジネヴラ(絢奈)を演じた原菜乃華。自分はこの子を松井玲奈に教えてもらった。そのときは12歳ぐらいだったけど、今ではもう17歳なのか。
原作を読んだ自分としては今回のドラマは正直それほど面白くはなかった。だが、原菜乃華が可愛らしくて救われたw 女医比嘉に「バカじゃないの?!」って言うシーンは萌えた。ちょい山崎天に似てる。
ポスト広瀬すず、ポスト浜辺美波としてこのまま順調に成長してほしい。この子なら横溝正史「悪魔の降誕祭」のヒロインもできそう。
最後は一同を集めてポアロの推理による真相披露。ポアロはこのシーンがなくちゃポアロじゃない。
家族の誰もが夫人殺害動機を持っていた。家族でかばいあい相互に矛盾するアリバイに勝呂ポアロは挑む。家族以外の犯行だとすると女医比嘉も容疑者?ポアロはひとりずつ検証していく。
消去法でひとりずつ消していって意外な真犯人が浮上。ここが原作で一番面白いところなのだが、加害者の過去を序盤で視聴者に教えてくれるので、それほど意外な犯人でもない。キャスト的にも。

「黒井戸殺し」よりも面白かったという人も多いのだが、自分としてはやや失望の出来栄え。野村萬斎ポアロの顔芸がさらに度が強くなっていた。2度も坂道を転げ落ちるなど三枚目キャラ変。次回は「鬼怒川下り殺人事件」をお願いしたい。

後日、まだ見てなかったスーシェ版を見たのだが、さらに原作を改変してて好きになれなかった。途中で寝てしまった。ユスティノフ版の「死海殺人事件」はまだ見ていない。

2021年3月7日日曜日

アガサ・クリスティー「フランクフルトへの乗客」(1970)

アガサ・クリスティー「フランクフルトへの乗客」永井淳訳の早川書房クリスティー文庫(2004)で読む。私的クリスティマラソン75冊目。
PASSENGER TO FRANKFURT by Agatha Christie 1970
肝心な場面でついふざける真面目でない性格のため、出世や重大なポストと無縁のミドル外交官サー・スタフォード・ナイ氏は、調査のために赴任したマラヤからジュネーブに向かう途中。霧のためにフランクフルト空港へ降りることになりトランジットを待っている。

すると女(美人)から貴方のマントとパスポートを貸してほしいと話しかけられる。私は命を狙われている。貴方は需要人物だからパスポートを紛失しても容易になんとかなる。と懇願説得される。
そして売店で買い物をして戻ると置いてあるコーヒーを飲むと眠ることになる。(なんでそんなものに乗っかる?)

新聞に出たり聞き取り調査されたりするけどそれほど問題にならないのが上級国民。伯母マチルダも貴族の邸宅に住んでいる。

で、あのフランクフルトでの乗客にしかわからないように新聞広告を出す。いくつかのスパイみたいなやりとりの後で女メアリ・アン(レナータ・ゼルコウスキ女伯爵という別名もある)とアルバートホールで出会う。クリスティ女史はワーグナーのオペラにも造詣が深かったのか。以後、一緒に行動。ナイ氏がいろんな場所へ行って色んな人と会う。

読んでも読んでもこれといった事件が起こらない。おしゃれで控え目なスパイものといったところだが、とくに恐ろしいことが起こらない。雰囲気的に村上春樹の「羊をめぐる冒険」みたいなテイスト。ほとんど会話シーンで進行。

1970年当時の世界情勢を織り込んでる。東西冷戦、学生運動、ソ連、毛沢東、ベトナム、パリ五月革命、南米。世界は左翼学生運動の季節。
それに「若きジークフリート」とかいうネオナチ?的な若者組織も。

ベルリンの地下壕で死んだのはヒトラーではなかった?!なんだか壮大なパラレルワールド歴史SF展開!今まで読んできたあらゆるクリスティ作品と明らかに毛色が違う。

これはクリスティ作品を十分たくさん読んできた人が最後に手に取るべき本かもしれない。面白かったか?最後まで読んでもとくに面白くなってくれなかった。驚くこともなかった。
これはダメなクリスティだったと思う。大風呂敷広げてハチャメチャなまま終わった。

2021年2月20日土曜日

アガサ・クリスティー「蜘蛛の巣」(1956)

アガサ・クリスティー「蜘蛛の巣」を早川書房クリスティー文庫(2004年)で読む。訳は加藤恭平。私的クリスティマラソン74冊目。戯曲は2冊目。
SPIDER'S WEB by Agatha Christie 1956
全三幕の戯曲。ケント州にある外交官ヘンリー・ヘイルシャム=ブラウン氏の住居になってるコップルストーン邸で東ドイツ首脳との極秘の非公式会談が行われることになった。だが、夫が空港に出迎えに行ってる間に、妻のクラリサは居間で夫の前妻の現在の夫オリバーの死体を発見してしまう。殺したのは前妻との娘ピパ(12才)?!

クラリサは客の叔父ローランド卿と判事のヒューゴー、そして秘書のジェレミーに手助けを依頼。この死体を森の中で見つかったことにしよう。
だが、その場に警部と警官が乗り込んでくる。この屋敷で殺人があったという電話があったとのこと。一体誰が?

クラリサと客3人は嘘に嘘を重ねてどんどん話がこんがらがっていく。しかも庭師の女がさらに余計なことをしでかしていた。
死体の消失、隠し引き出しのあるアンティーク机、麻薬取引疑惑、邸宅の賃料が破格に安い疑惑、などなど不審な事態が次々に。一体どうやって着地する?!

ややこしい事態の末の意外なラスト。とはいっても、オリバーを殺害した真犯人はそれほど意外でもないし、とくにトリックとかあるわけでもない。
しかしそれでも、読んでいてこの戯曲はオシャレ。名作舞台は読んでも名作。

巻末解説を読むまで、この舞台作品のもうひとつの主役がサンドイッチであることに自分は気づかなかった。クラリサはまさみかガッキーで脳内再生したい。いつかこの戯曲を演じてもらいたい。

2021年2月17日水曜日

アガサ・クリスティー「招かれざる客」(1958)

アガサ・クリスティー「招かれざる客」を深町眞理子訳2004年クリスティー文庫で読む。クリスティマラソン73冊目でついに戯曲に手を出した。
THE UNEXPECTED GUEST by Agatha Christie 1958
ブリストル海峡に面した田舎の邸宅を、深い霧のために車を溝に落としてしまったという謎の青年スタークウェッダー氏が訪問する場面から舞台は始まる。電話を貸してもらいたい。できることなら一夜泊めてもらいたい。

呼びかけても声がない。扉が開いていたので入ってみると、車椅子の当主が銃で撃たれて死んでいる。その傍らには銃を持った若い妻ローラが立っていた。「私が撃ったの」
不自由な体になり深酒、サディズム的性格を持った夫リチャードとケンカの末の妻による犯行か?

この話の予想外なところは、ローラが美人なものだから、よせばいいのにスタークウェッダー氏が外部の犯行に見せかけようと提案し半ば強引に協力し真実を捻じ曲げていく。ローラは困惑しながらも従うしかない。
リチャードは飲酒運転で子どもを撥ねて殺してしまった過去があった。その子の父を犯人に仕立て上げよう。

実はローラは真犯人ではないらしい。恋仲の男友だちをかばってる?
リチャードの実の母、その忠実な看護婦、執事、前当主と後妻の間に生まれた知的障害のある少年、クビになった庭師、みんな怪しい。とくにローラと恋仲らしい地元の名士ジュリアンは執事のエンジェルに殺害時刻の直前に目撃されていた。

警察の調査の結果、交通事故死した子の父マグレガーはアラスカで死んでいた。よって、家族に犯人がいる!操作は振り出しに戻る。

クリスティらしい書斎でのみ進行する全2幕のサスペンス舞台脚本。色々な可能性を提示しておいて真相は霧の中…と思わせておいて、ラストは二転し意外な真相へ。そしてサッと幕が降ろされる。

通常の推理小説のように証拠を探したりしない。殺害に使用された銃の件は疑問。警察がもっとよく調べたら?執事が主人の銃コレクションに詳しかったら?やはりあの犯人はやがて追われる身になるのでは?

しかしたぶん、これを舞台で役者たちが演じてるのを見れば多分楽しく見れるだろうと思う。2時間ほどで読めるライトな一冊。

2020年12月17日木曜日

アガサ・クリスティー「愛の探偵たち」(1950)

アガサ・クリスティー「愛の探偵たち」(2004 早川書房 クリスティー文庫)を読む。訳者は宇佐川晶子。1925年から1948年に書かれた8短編を集めた一冊。どの作品が何年に初出なのか?巻末解説の内容が薄くて不明。
THREE BLIND MICE AND OTHER STORIES by Agatha Christie
私的クリスティマラソン72冊目。これも2年前に100円で購入確保してほいた本。では順番に読んでいく。

三匹の盲目のねずみ(1948) 128Pの中編。これは有名な戯曲「ねずみとり」の原型となったオリジナル。まず冒頭でロンドンで夫人が殺された事件のワンシーンが示される。そして、おばから相続した田舎のマナーハウスでゲストハウスを開業したジャイルズ&モリー夫妻。オープン初日の雪の夜、黒いオーバーコートにマフラーのレン氏がやってくる。

いろんな客がやってくる。刑事もやってきて、そして宿泊客の口うるさい夫人が絞殺される。外は吹雪で電話も不通。クローズドサークル殺人。戦争中に疎開先で起こった児童虐待死事件の逆恨み?正直マザーグース的なものはよくわからない。

みんな怪しい。そして、意外な真相。幕引きもささっと鮮やか。最後は恋愛要素。クリスティでなくとも舞台作品にしたくなるクオリティ。これがクリスティ!という古典的スリラー。これは傑作といっていい。自分はまだ戯曲「ねずみとり」を読んでいない。

奇妙な冗談(1944) 伯父が残してくれた資産がどこにもない!という相談がミス・マープルの元へ。この相談者男女がマープルに対してわりと信頼感ゼロで脱線話にイライラしてるw なのに親切にも「財宝」の謎を自身の人生経験から解いてあげるマープル嬢。

昔ながらの殺人事件(1942) セントメアリミード村で老婦人が居間で絞殺されて発見された事件。夫人の資産を相続する夫が疑われる。これもマープル老嬢が人生経験から「たぶんこう!」と簡単に手際よく解決。それにしても最初に現場に駆け付けた警察官が大事な物的証拠を拾って上着に刺したままにしてちゃまずいだろ。

申し分のないメイド(1942) ミス・マープルのメイドのいとこが奉公先でブローチ盗難事件に巻き込まれ解雇された話。マープル婆さんは奉公先のスキナー姉妹の真実を見抜く。

管理人事件(1942)病で寝込んだマープル婆さんにヘイドック医師が置いていった原稿。村の悪童はアフリカでの軍役から帰ってくると資産家フランス人妻を連れていた。村一番の豪邸を建てたが近所の老婆を妻は怖がる。やがて落馬事故で妻死亡。その裏に隠された陰謀。

四階のフラット(1929) パーティー帰りの若者4人「アパートの鍵がない!」ということで話し合いの末、石炭用リフトで4階フラットへ侵入するも、間違って3階のフラットへ。真っ暗な中、女性の死体を発見。そして、5階フラットの住人がアルキュール・ポアロ。ふらっと現れて事件を解決。

ジョニー・ウェイバリーの冒険(1928) ジョニー坊や誘拐事件の相談を持ち掛けられたポアロ。誘拐が起こる前から身代金を要求する警告や誘拐日時の予告があるとか不自然な展開。ポアロが鮮やかに解決。ポアロがいきなりヘイスティングズに語りかける場面に驚いた。いたのかヘイスティングズ!とページを戻ったw

愛の探偵たち(1926) これが自分にとって初のクィン氏登場短編。老人が鈍器で殴られ死んでいる。愛するふたりが双方が犯人だと思い込み、自分がやったとかばいあう。けど、それって小説っぽくない?というクィン氏。

訳が新しいせいかとても読みやすくわかりやすい。どれもが好きな感じ。「管理人事件」は後の長編「終わりなき夜に生れつく」と同じプロット。

2020年11月27日金曜日

アガサ・クリスティー「死が最後にやってくる」(1945)

アガサ・クリスティー「死が最後にやってくる」(1945)を読む。私的クリスティマラソン71冊目。加島祥造訳の早川書房クリスティー文庫で読む。

今回はなんと紀元前2000年ごろの古代エジプト・ルクソール周辺が舞台。
夫が死に出戻った寡婦レニセンブがこの物語のヒロイン。古代エジプト人とは思えない論理的思考で迷信を信じない現代人。ほぼ英国婦人w

墓所守一家の家長インホテプ、その長男でおとなしく愚鈍なヤーモスとその口うるさい妻、やんちゃでやらかしも多い次男ソベクとその妻、三男で美少年イピイ、インホテプの老母エサ、ずる賢い告げ口家政婦ヘネット、管理人ホリ、みんな父インホテプに依存して生活している。

北方の領地から帰館したインホテプが娘よりも若い愛妾ノフレトを連れてきた。なにやら一家に緊張が走る。まるで古代エジプトの犬神家の一族。
仕事のトラブルでインホテプは再び北へ。ノフレトを家族の中に置いていく。

このノフレトが邪悪で不気味な存在。もともと不穏だった家族たちに新たな軋轢。やがてノフレトは崖の上の小径から転落死。
この事件をきっかけに、長男の妻も同じ場所で転落死。毒入りの酒を飲み次男死亡。一緒に酒を飲んだ長男は危うく一命をとりとめるも衰弱。何者かが甕に毒を入れるところを目撃した少年奴隷も殺される。言動が粗暴で野心的な美少年三男も溺死。つぎつぎと人々が死んでいく…。ノフレトの呪いなの?!

レニセンブ、書記で有能な番頭ホリ、家長的な祖母エサの3人が首を突き合わせて一家の内部にいる邪悪な殺人者が誰か相談。この3人だけが現代人でマトモな思考ができる。次に命を狙われるのは誰?

ついには祖母エサも殺され、一家内部を女主人のごとく取り仕切る邪悪家政婦ヘネットも殺された。そしてついにレニセンブにも魔の手が!

これも推理小説というよりは家族内サスペンス小説。怪しい奴がつぎつぎと死んでいく。真犯人は十分に意外。人間心理を描いていてなかなか佳作だと感じた。
クリスティ作品が好きな人には十分にオススメできる。中世以前の日本に置き換えても映像化は可能だと思う。だがその前になんとか古代エジプトを舞台にした映画化希望。

巻末解説を読むと、レニセンブはアガサ、ホリはマックス・マローワンがモデルか。年下の考古学者を夫としたアガサのノロケ恋愛小説? 
写真どころか肖像画もなかった時代は、再婚したら前の夫の顔とか思い出せなくなったんだろうなあ。

2020年10月20日火曜日

アガサ・クリスティー「牧師館の殺人」(1930)

アガサ・クリスティー「牧師館の殺人」を読む。2年前の秋に100円で見つけて確保しておいた田村隆一訳1978年ハヤカワミステリ文庫版(1997年第22刷)で読む。これがミス・マープル長編第1作。私的クリスティマラソン70冊目。
THE MURDER AT THE VICARAGE by Agatha Christie 1930
セントメアリミード村のクレメント牧師目線で村の人間模様が語られる。他者に辛辣な心の声も書かれてる。牧師館に若い妻グリゼルダと甥のデニス、女中のメアリと暮らしている。

治安判事のプロズロウ大佐は村人から好かれていない。(多くの人が殺害動機を持っている)
娘のレティスは牧師館にアトリエを借りている画家ロレンスと恋仲らしい。レティスの水着姿を描いたりして父は「けしからん」と怒ってる。
だが実は、大佐の若い後妻アンとできているところをクレメント牧師は目撃してしまう。牧師は画家に村を出るように言う。

嘘の村人危篤の電話におびき出され牧師館に戻ってみると、面会の約束のあったプロズロウ大佐が書斎で頭部を撃ち抜かれ殺されている。(誰も銃声を聞いていない)
画家ロレンスは死体発見の直前に牧師館にやって来て2分ほどで帰るところをクレメント牧師に家の前で会い少し話していた。なにやら様子がヘンだ。

ロレンスは警察に出頭し自供。「自分が殺した。」
だが、殺害時刻が村の医師の証言と合わない。ロレンスが殺したという時間より死亡時刻はだいぶ前。
で、今度は殺されたプロズロウ大佐夫人のアンが「自分がやった」と自供。だがこれも否定。

牧師館の隣に住んでるオールドミスがパープル婆さん。主人公の牧師にはこの人が「いじわる婆さん」に見えるらしい。
マープル婆さんはそう見えることを信じない。鋭い観察眼で真の関係が見えている。

これ、ミス・マープル長編第1作なのだが、マープル婆さんはほぼ脇役。クレメント牧師がいろんな話を聴きまわる。牧師という職業上、村人から密告の手紙が来たりする。
だが捜査は進展してるように思えない。これは退屈…。

実はアイツは詐欺師でしたとか、真犯人に犯人にされ殺されそうになったりだとか、それ以外にあまり展開がない。
終盤になってやっとマープル婆さんならではの鋭い視点で意外な事実が明らかに。証拠が何もないのでマープルと刑事は犯人を罠にかける…。

だが、自分としては驚けなかった。この作品は凡庸。クリスティ70冊目ともなると、新鮮さを感じたり驚いたりすることはなかった。

そもそも構成に美しさを感じないしわかりづらかった。会話にあまりユーモアもないし登場キャラにも魅力が乏しい。読後の満足感もそれほどない。
この「牧師館」を褒めている人はたいてい、英国の田舎ステキ!だとか、ミス・マープルのキャラがいい!とかしか見ていないと思う。

この「牧師館の殺人」を読んだことで、未読のミス・マープル長編は「スリーピング・マーダー」の一作のみ。