2021年4月9日金曜日

アガサ・クリスティー「検察側の証人」(1954)

アガサ・クリスティー作の全3幕の戯曲「検察側の証人」を読む。加藤恭平訳2004年早川書房クリスティー文庫で読む。私的クリスティマラソン76冊目。戯曲は3冊目。

これはロンドンでもニューヨークでも大ヒット。1957年には「情婦」というタイトルでビリー・ワイルダー監督によってタイロン・パワー、マレーネ・ディートリヒによって映画化されたクリスティーの有名作。
WITNESS FOR THE PROSECUTION by Agatha Christie 1954
これ、高校生の時に読んだことがある。当時はハヤカワ・ミステリ文庫。十代の自分に法廷劇などとうていイメージできていたとは思えないのだが、ラストに二転三転するどんでん返しもあって、面白かったという印象は残っていた。

今回読み返してみて、ほとんど内容を覚えていないことがわかった。ただ、ストーリーと登場人物たちの役回りと真相は知ってる状態で読んだ。最近読んだ短篇集「死の猟犬」収録の短編小説「検察側の証人」とは別物と呼んでいいほど内容も印象も違う。

孤独な資産家老嬢が殺害された事件。親切に落とし物を拾ったことで老嬢に気に入られ友人となったハンサム男レナードが容疑者となって逮捕される。直前に書き換えられた遺言状で全財産がレナードに譲られることになっていた。事件の前に高額な海外旅行の問い合わせをしたり、家政婦に会話を聴かれたりと不利な材料が多い。

レナードの妻ローマインはドイツ人。英国人の常識が通じない冷たい印象の美人妻。
オールド・ベイリーで法廷弁護を担当するウィルフレッド・ロバーツ卿は初めて会ったときからローマインに嫌なものを感じていた。夫のアリバイを法廷で証言すればいいのに、夫の縛り首を決定づける裏切り証言をしてしまう。

だが、公判初日が終わった夜にローマインが何者かに書き送った手紙がウィルフレッドの事務室に持ち込まれる。こいつがあればローマインの偽証を証明できる!

そして無罪評決。そのあとの二転三転はネタバレになるのでここでは書かない。短編小説版は後味が悪い感じだったのだが、戯曲版は悪人は報いを受ける。そこはスカッとするのでヒットしたのかもしれない。

1日でさっと読めるボリュームの本なのでぜひ一度読んでみることをオススメする。たぶん後の法廷劇サスペンスなどに多大な影響を与えている。

ちなみに巻末解説によれば、英国の刑事裁判はソリシター(事務弁護士)がバリシタ―(法廷弁護士)を選んで弁護してもらう。検事局、検察局というものはなく、起訴は公訴局が行う。

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