2023年11月30日木曜日

赤川次郎「ト短調の子守歌」(1987)

赤川次郎「ト短調の子守歌」を読む。これも処分するというのでもらってきた大量の赤川次郎文庫本の1冊。
この本は1987年に新潮文庫から刊行された後、2002年に角川文庫化。

小松原麻子17歳はデビュー1年でトップアイドルに登りつめたスター。新宿でイベントをやれば数千人集まる。
だがその裏で麻子を狙撃しようとする男がいる。向かいにあるビルで邪魔だと土曜出勤の老会社員を射殺。

そして麻子の通う高校の教室にライフル銃を持って乱入し人質を取って立てこもり。犯人の要求は「麻子ちゃんに会わせろ!」

アイドル麻子はなんら悪くない。警察から同行を求められる筋合いもないし、17歳女子児童が保護者同伴なしに警察の質問に答える義理もない。

80年代はたぶんまだ「メディアスクラム」という言葉がなかった。とにかくマスゴミが80年代90年代にやらかしまくったから今日がある。現場に大量に押し寄せ、タバコの吸い殻を棄てていく。関係者宅に無断侵入。偉そうにヒステリックに質問を浴びせカメラを向ける。
もうさすがに現在はここまで酷くはない。当時は職倫理とか自制とか期待できるほど、人間としての質が足りてなかった。

とにかく読んでいて酷い気分になる。麻子の事務所社長は麻子のアイドル人生が終わるとしても、いかに儲けるか?しか考えない。同事務所同僚アイドルも「麻子が自〇すればよくね?」と嗤う。追悼盤で儲けようと画策。

時間を守らなかったからと人質の1人(ヒロインの親友)を逃して背後から狙撃。
人質の親たちもハチャメチャ。マネージャーを買収し麻子の居所を探り、罠にはめておびき寄せ散弾銃で脅して拘束し、人質を交換するように犯人と交渉。現場をさらに混乱させる。

犯人の母親を名乗る女性も登場。犯人に呼びかけるも、この女性が偽物?!
麻子ファンが校門前に集結し「麻子ちゃんを護る!」と場所を占拠しガソリンをかぶるなどハチャメチャカオス展開。読んでいてひたすら酷い話で気が滅入る。

登場人物キャラがみんな立っている。読んでいて唯一爽快なのが、最初に麻子を匿う近所の大学教授(人を見る目がある)、そして人質が狙撃されてからの現場刑事(熱血に正義)。

しかし、犯人が人質をとったとしても、犯人の要求は一切聞くべきではない。ノビチョクガスで犯人(人質も)動きを止めて閃光弾かましてSATが突入するしかない。スナイパーが犯人の頭を撃ち抜く意外に選択肢がない。
しかし、この時代はドローンカメラもロボットカメラも特殊部隊もいない。ひたすらダラダラしながら現場がカオス。

おそらく赤川次郎せんせいには、あさま山荘事件とか三菱銀行人質事件とかがイメージにあったものと思われる。さらにマスコミが殺到して混乱する様子は豊田商事会長刺殺事件、オウム真理教村井幹部刺殺事件なども連想。

もしかすると「またアイドル映画になったらいいな」という書きぶりだった気がする。多くの視点と切り出し方が映像的。まるでフジテレビ本広映画、君塚映画。
(もうさすがに立てこもり犯と80年代のようなクソマスコミ映画は現実的でない。中井貴一と濱田岳の2016年「グッドモーニングショー」もわりと酷い出来だった。)

しかし、このヒロインはどことなく「クリミィー・マミ」。リメイクするなら、脚本を書き換えれば1話分にできそうだ。アニメならリアリティが必要ない。

ちなみに、赤川せんせいによれば「ト短調」とはモーツァルト:ピアノ協奏曲第18番の第二楽章をイメージしてるらしい。マレイ・ペライアがピアノを弾き振りしたものを愛聴とのこと。

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