2022年5月17日火曜日

有村架純「花束みたいな恋をした」(2021)

「花束みたいな恋をした」(2021)をようやく見る。
菅田将暉と有村架純のダブル主演。おそらくこの二人が最初にありきの企画。
監督は土井裕泰坂元裕二のオリジナル脚本による恋愛映画でなかなかの話題作になっていたのは聞いていた。フィルムメイカーズとリトルモアの制作。配給は東京テアトル。

菅田将暉は「糸」という若者が出会ってラブラブという映画を見たばかりだし、監督はが土井裕泰だしTBSっぽそうだしでなかなか見ようという気分になれなかった。あと、自分はそれほど坂元裕二脚本ドラマを見ていない。あんまり自分と合ってない気がする。(だがそれは完全な間違いだった)

おじさんたちの作った若者の恋愛映画。大学生の男女が出会ってラブラブ同棲して就活して社会人になって破局…という恋愛ドラマ映画をそんなに見たくない。だが、有村架純が主演なので見ておきたい。清原果耶も出てることだし。
音楽は大友良英。有村に大友の音楽だと「あまちゃん」を連想。
2020年、とあるカフェで2組のカップルがそれぞれの相手に、とある別のカップルを批評。そのカップルは1つのイヤホンを片方ずつ共有して同じ音楽を聴いているのだが、「それはLとRそれぞれ別の音楽を聴いていることになる」という。
この映画は菅田と有村の恋愛映画だと聞いていたのだが、なんともうすでに別れてしまってそれぞれ別の相手とデートしてるネタバレ風景から始まる。
LとRの件はかつて菅田有村カップルで話題になったに違いない。この冒頭がおしゃれだし、新鮮だし、良質コメディを想わせる。

2015年に遡る。八谷絹(有村架純)は21歳大学生。トーストはバターの側を下にして床に落とす。たぶん実家暮らし?
ひたすら視聴者に語り聞かせる独白。元カレと焼き肉(おごってもらったのか?)して終電を逃してネットカフェ。飛田給に朝帰り。そんな生活。
合コンの数合わせにでかける。世間を高い所から見下ろしてるつもりの悟ったかのような批評を繰り広げる。心で毒づく。

そして山音麦(菅田将暉)の独白。通行量調査のバイトをしている。イラストを描くことが趣味か?ストビューに自分が写っていることを発見し興奮する。大学で自慢する。これもどうでもいい問題を語って聴かせる。
卯内さん(八木アリサ)という美人女子大生に誘われてこちらもカラオケ合コン。
これが東京の大学生活だ!という風景。そんなふたりが共に終電を逃したことで明大前駅で出会う。またしても「明け方の若者たち」と同じく明大前か!明大前が今キテるのか!

終電を逃した見知らぬ人々が深夜営業のカフェで語り合う。その場に押井守がいることに気付いて大興奮w サラリーマンの2人が「ショーシャンクの空に」とか実写版「魔女の宅急便」などどうでもいい映画で盛り上がっているのをよそに、押井守で共感し合ったのがサブカル全力オタク麦と絹w 

好きな作家や映画、音楽など熱く語り合う。穂村弘をだいたい読んでいるw 長嶋有もほぼほぼ読んでいるw 現代の作家の名前がスラスラ何人も挙げられる女はすごい。
それ「モテキ」の藤本とみゆき。男女で趣味が何もかも一致することなど現実にはあり得ない。
この出会い場面が新鮮だが、同じお笑いライブのチケットを取ってたのに行けなかったということが判明するのはさすがに怖くなるだろ。普通。
自分も環八のガスタンクの写真を撮ったことある!w

急などしゃ降りの雨。絹は麦のアパート(調布駅徒歩8分)へ。本棚のセンスを確認。「ほぼ家の本棚じゃん!」
この映画、ふたりが恋人になるまでがほぼ完璧に面白い。ほぼ理想の出会い。バカ話センスも思想もすべて一致。自分の描くイラストも褒めてくれる。何時間でもファミレスで時間を共有できる。
ふたりはデートを重ね、麦のアパートでなんどもセッ〇スするようになる。村上春樹か!
海を見に行った後になぜに「炭焼きさわやか」で並んでる?あまりの行列に諦めて途中離脱。リアル。

就活の圧迫面接に傷ついた絹に、麦は「一緒に暮らそう!」
駅から徒歩30分の多摩川沿いの部屋を借りて同棲生活。
絹は寝る間も惜しんで就活してたのにともに大学を卒業後フリーター。

イラストレーターとして生計をたてられないか?と男は考えていたのだが、その仕事は安いものでしかない。3カットで千円。時給にしたらいくらだ?
絹の両親(戸田恵子、岩松了)、麦の父親(小林薫)が相次いでふたりのアパートにやってくる。就職への圧力をかけられる。麦は親からの仕送りを絶たれる。

絹は簿記の資格を取り医療事務の仕事を始める。麦は終わりの見えない就活の末に営業職として就職。仕事は5時に終わると聞いていたのに多忙。だが仕事にやりがいを感じて完全社畜化。
ふたりは漫画や読書やゲームや映画にも時間をさけなくなる。ここから先は悲哀。日本の若者の現実がリアル。もう見ていて何も楽しくない。
かつて何かも価値観が一致していたのにすれ違い。絹はまた単独行動に戻る。麦がビジネス書を読んでるのを見て決定的にがっかり。ふたりはもう3か月もしてない。

絹のイベント会社転職の件でふたりは口論。労働観で大きく食い違い。この会社の社長(オダギリ・ジョー)が見るからにギョーカイ人だしうさんくさい。
麦は楽しい仕事がしたい。けど麦は「責任ある仕事じゃない」とか言い方もキツくなる。人は変わる。もう同じ価値観を持っていない。

口論の末に勢いで絹にプロポーズ。絹はそのプロポーズを「思ってたのと違う」と断る。
大学のセンパイの死でもふたりは同じ感情も持てない。恋愛と結婚は違うと悟る。労働観と結婚観の違いがお似合いラブラブカップルを引き裂く。
もう見ていてつらくなる。悲しい。ああ、やっぱり見たくないタイプの映画だ。せめて映画でぐらいバカみたいに楽しいものが見たい。

ふたりはもう会話もないまま友人の結婚式に参列。別れ方がわからないけど別れを決める。
この男は男に養ってもらうことを目的とする女とつき合うべき。この女は同じ業種の男と付き合うべき。
別れを決めてからまた以前のような楽しい会話をしてカラオケ。ファミレスで語り合う。「4年間楽しかった」

土壇場で男はやっぱり別れたくないと言い出す。「恋愛感情なくても結婚してやっていきたい」
女は「そうかもしれないな」と思うのだが、ファミレスでかつての自分たちとまったく同じようなカップル(清原果耶と細田佳央太)を見ていたたまれなくなって泣く。
ああ、このカップルさえこの場に来なければ。こんなん自分も泣く。このシーンが衝撃のクライマックスだし名シーン。

2020年にぐうぜん同じカフェで一緒になり、背中越しに手を振って去っていく。これがクソみたいな日本における花束みたいな恋ってやつか。
ラストでまたGoogle ストリートビュー画面が効果的に登場。深い味わい。
さすが人気脚本家の書く本は上手いわ。日本映画界の偉いおじさんたちの計算通りに効果的な恋愛映画。
若い男女が出会って別れての4年間「いろいろあった」としみじみするTBSらしい映画。それはなんとなく予想ついた。
もうライブコンサートに行かなくなったし流行りものを追いかけなくなった自分もこんな感じだと思った。もうあの楽しかった日々には戻れない。
そして資本主義で幸せになれる若者がごく一部しかいないことも考えざるをえない。

だが、これは大名作だったかもしれん。土井監督と坂元をちょっと見直した。これは恋愛もの日本映画として胸を張って海外に紹介してもよい。爽やかな余韻。
だから炭焼きさわやかだったのか。炭焼きさわやかを全国区にした長澤まさみは偉大。

有村架純はこの映画で同年の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をゲット。若手女優にとってこういう賞が経歴に加わることは大きい。有村が先輩として尊敬し私淑する前年の受賞者長澤まさみの手からトロフィーが渡ったシーンは感動的だった。

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