2022年4月19日火曜日

三島由紀夫「愛の渇き」(昭和25年)

三島由紀夫「愛の渇き」(昭和25年)を新潮文庫で読む。

ヒロイン杉本悦子は未亡人。梅田の阪急百貨店で靴下を買う。亡き良人良輔(腸チフスで死亡)の好物だった朱欒(ざぼん)は手に入らない。驟雨で外に出られない。そのへんの描写と文体が数行読んだだけで三島だとわかる。25歳でこういう文章がすらすら書ける人は間違いなく天才。

吝嗇な舅の弥吉の家に住んでいる。義理の妹浅子(夫がシベリアから戻らない)とその子どもも住んでいる。喘息で応召しなかった義理の兄謙輔(無為無能ディレッタント)夫妻も住んでいる。

小作人から苦学し大学を出て関西商船で勤めあげた弥吉豊中市米殿村に広大な土地を買う。そして戦後の食糧難。田舎に野菜畑と果樹園を持つ先見の明。だが、農地改革で安値で土地を得たやつらのことを想うとムカつく。自分は数十年会社勤めでやっと土地を得たのに…。

梅田から帰宅すると舅が自分の日記を盗み読んでいる。だがそれは本当の事は書いてない贋物の日記。
義理の弟夫婦は悦子が弥吉とできていることを知っている。悦子が若く逞しい園丁の三郎のことを密かに好きなんじゃないかと見ている。弥吉は焦り始めてる。

悦子は靴下を三郎にプレゼント。だが、その靴下が棄てられてる?!
三郎を問い詰める。どうやら女中の美代が棄てたようなのだが三郎は自分がやったとかばう。
そして秋祭りの夜に美代は倒れる。妊娠発覚。
弥吉は大臣が来るといってすっぽかされ、女中の妊娠が村人に知られダメージ。

悦子という人が怖い。都会育ちで無表情。心の内を隠してるようで外に漏れてる。家族が全員風呂に入って最後に三郎と美代が…という段になって風呂の水を抜いてしまうイジワルには、自分も思わずツッコミの声が口を衝いた。とにかくふたりが仲良くしてるのを許せない。

三郎が天理に行ってる間に、妊娠4か月の美代に暇を出す。その辺の意味が分かってるのが謙輔夫婦だけ。悦子の怒りと嫉妬はすさまじいw
三郎が帰って来てからの緊張状態が読んでて辛かった。三郎を畑に呼び出して、美代に暇をやったのは自分だと告げる悦子。心裡留保と誤解。レベルの違うふたりの間の相互理解は難しい。ほぼ少年の三郎には悦子の愛がわからない。

そしてサイコパス殺人。悦子は狂ってた。ある意味パワハラ上司。三郎も可哀そうに。どうないせいっちゅうねん。

この小説、それほどボリュームはないのだが、考えながら読まないといけないような文体で読むのに時間がかかったし疲れた。25歳でこんな文が書ける三島はやはり桁外れの天才。今まで読んだ三島も中でも上位の面白さだった。

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