島田荘司「透明人間の納屋」を読む。もう島田荘司を読む気はなかったのだが、講談社ミステリーランド版(2003)の図書館リサイクル本を無償で手に入れたから読む。
奥付の検印をみると図書館が購入してから18年経っているのだが、あまり読み込まれた感じがしないキレイな物だったので連れて帰った。読み終わったら元の場所に戻してくる。
自分は講談社ミステリーランドシリーズをてっきり児童向けだと思ってた。ほとんどが小学生が主人公になってる。漢字のすべてにフリガナがふってある。実際BOでは児童書コーナーに置かれてることが多い。
小学生目線一人称語りはこども主観こども文章であっても、これは大人でないと理解がむずかしい。子どもには難解な単語も使ってるし、理解しがたいたとえ話、表現、科学知識もある。つまり、子どももギリ読める大人向け小説だった。大人が童心に帰って読む本なのかもしれない。
「The Invisible Man's Virus」というタイトルがついている。じゃあ何でタイトルが「透明人間の納屋」なんだ?
装丁にがんばってる。だが、掲載されてるイラストが落書きのような抽象ヘタウマ画。この絵からは何もイメージが得られない。わざわざ掲載されてる意味が不明。
昭和52年の夏が舞台。主人公の少年ヨウちゃん(9さい)は母子家庭。水商売の母親は深夜2時にならないと帰ってこない。家の裏にある印刷工場のやさしい青年真鍋さんといつも一緒に遊んでる。いろいろな天文知識と科学知識を教えてくれる。学校の先生よりも上手に教えてくれる。(え、それ合ってる?という知識も語って聴かせてる。透明人間になる薬とか。)
ときには夜中に浜辺へ行って流星を見たりする。印刷工場に出入りする大人たちをこども視点で観察してる。
この少年の母親のことをよく思わない水商売の同僚真由美が、居酒屋チェーン店経営の篠崎と一緒に過ごすホテルの4階角部屋から突如あとかたもなく失踪する事件が起こる。真由美は篠崎と結婚することを強く望んでいた。なので自分から失踪するとは考えられない。そのへんを推理作家松下謙三がささっとまとめて前後関係を語る。
5日後、海岸で真由美の水死体が発見される。そして篠崎逮捕。だが、密室から失踪した謎は残されたまま。
透明人間になる薬で真由美は部屋から脱出した?ああ、そういうファンタジー要素を盛り込んだこども視点のファンタジーなのか…と失望しかけたのだが、だがしかし!
そして四半世紀。ヨウちゃんと母は東京へ出て、ヨウちゃんは大学を出て大手商社で働き、多摩川べりのマンションに住む。母はめっきり老け込んだ。
そしてある人物が手紙を持ち込む。ここから急転直下のこども時代のあいまいなままだった真実がバババッとクリアになっていく。
これはとても島田荘司らしい展開。伏線がたくさんあった。日本にとって数十年に渡って頭の痛いあの問題がまさか裏にあったとは!まさか身近にいた人々がアレだったとは!ネタバレになるので多くは語れない。
これは島田荘司の作品中でもわりと印象の強い一冊。15歳以上の読者にオススメ。
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