今村夏子による長編小説「星の子」(2017 朝日新聞出版)を芦田愛菜主演で映画化した「星の子」(2020 東京テアトル)を見る。
監督脚本は同年公開の「MOTHER」で日本社会には周囲に見えていない地獄があることを示した大森立嗣。すっかり社会派の名監督になってる。これもMOTHERと同じようなテーマ。周囲がなんとかしようと思っても、娘には親しかしない。
未熟児で生まれた病弱な娘ちひろ。アトピー?「これは水が悪い」としたり顔で語る職場の同僚がいる。娘を救うべく永瀬正敏と原田知世夫妻が新興宗教似非科学にハマる。
「奇跡の水」に傾倒。たまたま病状が改善。ホメオパシー的な?この国の科学教育の敗北。
すこしずつ崩壊していく家庭をわかりづらく描く。この両親があたまにおしぼり乗せて緑ジャージで可笑しい。
高校の新学期。カッコイイ数学教師岡田将生に生徒たちがざわつく。「私の取柄は元気です!」
そんな先生の話をぽーっとした顔して聞いてる生徒ちひろが芦田愛菜。岡田先生の授業中に先生の似顔絵イラストなんかを描いている。このヒロインが中学3年生らしい。
この少女がエドワード・ファーロングを見てしまったら周囲のすべてがブサイクに見えてしまった。自分の顔が一番ブサイクとか語る。ちょい文学作品っぽい。小学生女友達「アンタは病気じゃないよ。ただのメンクイ。」ごもっとも。
小学生時代と現在が交互に行き来する。姉が「おかえりモネ」に出演中の蒔田彩珠。この姉は主人公が高校生の段階で家には帰ってこない。
この姉妹はこどものころから好きな男の子の話をしてる。こういうシーンを見てると「ちびまる子ちゃん」みたいに面白い。
母の兄が大友康平。奇跡の水を信じない。中身を水道水に入れ替えて妹夫婦がダマされていることをわからせようとする。夫妻はヒステリックに「帰れ!」とわめき叫ぶ。ああ、地獄な家庭。
娘も水の効能を信じて疑わない。「有名な学者も認めてるんだもん!」もう救いようがない。
そのヘンな宗教の集会所にいる黒木華と高良健吾の存在感が不気味にリアルで感心。黒木華ってこんなに太ってたっけ?
子どもたちは大人たちに気に入られるように子どもを演じてしまう。これは紅衛兵や中共でも見る不気味さ。
夜遅くなったので他の生徒と岡田先生に家まで車で送ってもらう。「ちょっと待て!変な人がいる」「何やってんだ?完全に狂ってるな」それがヒロインの両親w 両親がこうなったのも私が病気になったせいなの? ああ、嫌だ嫌だ。夜の街を駆け出す。
あのヘンテコな両親からちひろを引き離そうとさぐりさぐり努力してる兄夫婦がすごくまともで真面目なしっかりした大人。なのにちひろは頑な。「考えても同じです」
はたしてこれでいいのか?
ざわざわうるさい教室で、ビシッと大声で正論を怒鳴る岡田先生にはスカっとした。正しい先生。
その後の友だちとの会話シーンがちょっと笑った。このへん、ユーモアで笑わせようとしたのかもしれない。
信者たちだけで教団本部へバス旅行とか、みんな笑顔で仲間同士で楽しそう。
「交流」とかわけのわからないイベントがあるのだが、宇野祥平と芦田愛菜のシーンもちょい不穏な内容。
信者たち、ステージイベントが徹底リアル。信者側視点で描いてることも新しい。
教団施設に来て以来、両親がずっとどこにもいないことがライトモチーフのように視聴者を不安にさせる。
やがて両親が迎えに来て夜道を歩く。雪原に腰かけて星空を見あげる。お風呂の時間を気にする娘に対して「時間を気にするな」と取り合わない両親。
これ、暗くて怖い映画じゃないよね?最悪な結末とかじゃないよね?と自分に言い聞かせて見続けた。それほど嫌だな怖いなというシーンはない。だが、説明もないままエンドロール。ぼんやり怖い。
たぶんもうひとつのミッドサマー。ジャンル的にカルト宗教をテーマにした社会派ホラー。十分に見る価値はあると思う。
たぶん、ビジュアルからハートウォーミングな家族の物語とファンタジーと思って見た人たちは困惑したんじゃないか?タイトルから想像する内容とほど遠い。
芦田愛菜ちゃんは大量の本を読み慶応に通う才女。そのへんの演技と表情がとても適切。この子はたぶん何もかもわかってる。その辺の高校生たちと違う。
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