根岸吉太郎監督の「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」(2009 東宝)を見る。ヒロインは松たか子。ダメ男作家を浅野忠信が演じてる。原作はもちろん太宰治の「ヴィヨンの妻」。短編を114分に引き延ばすのもどうかと思ったのだが、これはずっと見ようと思っていてやっと見る。PG-12指定。
驚いたことに音楽担当が吉松隆。それはすごい。
タイトルが微妙に変えられてるが、同時期に市川準もこの短編小説の映画化を企画していたからだったらしい。
太宰の短編を長編映画にするのは相当なチャレンジャー。脚本は田中陽造。制作に亀山千広、石原隆といった人が名を連ねるフジテレビ・東宝映画。
見ていて嫌悪感を催すほどのダメ男の小説家大谷(浅野忠信)。もうどうにも首が回らない借金を抱えて開き直り。ついには小料理屋で五千円を窃盗。夜の修羅場。
そんな男を旦那に持った妻佐知が松たか子。絶望的貧乏。この人も現実が見えていないのか見ようとしてないのかうつろな表情。この妻も旦那のその場しのぎの虚言癖が身についてる?
なんとか金を待ってもらう。そして小料理屋で働く。愛想がよく美人というのでたちまち評判。理想的な大繁盛w
男たちが集まりチップをはずむ。なんか、良い方向に運が回り始めた。
でもやっぱり大谷は学はあっても貧乏神。生活していく能力皆無で酒におぼれる。飲み屋で働いてる妻にむせび泣く。夫婦の会話もどこか他人行儀。
大谷の愛人秋子(広末涼子)登場。この人も大谷の犠牲者。自分、今まで女優としての広末涼子にそれほど感心したこともなかったのだが、わりといい感じにメガネキャラがハマってた。みんな嫌な物を抱えてる。
汽車の中で弁護士堤真一と再会。昔話の内容から佐知は元カフェ女給?万引きで捕まった過去が?この事件が大谷との出会い?
大谷は岡田(妻夫木聡)と妻の関係に疑念。美人とはいえ子連れ年増になぜみんな夢中?
岡田は大谷(太宰)の小説のファン。大谷と一緒に飲んで奥さんに惚れ、大谷のボロ家に一泊。それ、ファンとしてあるまじきこと。
大谷は佐知に結婚してほしいと告白。なんなんだこの男は。それを見ていた大谷は秋子と心中を図るが未遂。大谷は生き残ったので殺人容疑。蒼白になった佐知は堤弁護士に依頼するも拒絶される?この男もかなり気持ち悪い。
佐知は夜汽車で水上へ。この時代の汽車はめちゃ混み。取り調べ中拘留中の大谷と金網越しに佐知はやっと苦情をぶちまける。
え?秋子は生きてたの?じゃあ、話が違ってくるがな。
堤弁護士へ御礼に行く前にパンパンから口紅を高い金払って買ったのに、なぜに棄てる?
ああ、人には言えないことってそういうことか。
すべては旦那に責任のある絶望的貧乏夫婦の話。見ていて楽しいものでもない。ものには執着しないのに大谷には執着。貧乏でも夫と一緒にいたいという出来過ぎた嫁。
松たか子さんはこの映画で日本アカデミー、キネマ旬報、日刊スポーツ、報知映画賞など多くの主演女優賞を受賞。
根岸監督はこの作品で第33回モントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞。海外の人が見ても高評価だったのか。
美術の種田陽平さんもいい仕事。昭和20年代の場末の飲み屋街も駅のホームも列車内も文句のつけようがない。
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