2021年8月10日火曜日

横光利一「上海」(昭和7年)

横光利一(1898-1947)を初めて読む。横光初の長編小説「上海」を読む。1925年の上海「5.30事件」を描いてるらしいのだが、自分はその事件を知らない。
国際都市上海を見聞して書かれた小説。昭和3年ごろから書き始め昭和6年にまず「改造」に発表。

頭が切れて一旗揚げたい野心のある日本の男は上海を目指した。女たちも集まった。熾烈な競争社会でやっていくのは並大抵でない。ロシア革命の影響、中国共産党、愛国主義、排英排日運動の暴徒、不潔で雑多な混沌とした路地。

五・三〇事件って日本人にはあまりなじみがないかもしれないが、中国人にとってはわすれられない事件。アヘン戦争後の屈辱の連続の1ページ。その当時上海租界にいた外国人たちも、反植民地反帝国主義の暴徒にびびったし、各国の艦隊から陸戦隊が上陸して多数の死傷者。
できることなら五・三〇事件の予備知識がある状態で読んだ方が理解が進みながら読める。

主人公参木の勤める銀行も風前の灯。現金輸送が危険すぎて誰も担当したがらない。そこまで治安が悪いのか?主人公も「じゃあ専務がやれば?」「明日はもう来ないかも」という始末。
本国に帰っても生活の方法がない。各国人の最下層は乞食にでもなるしかない。もう死のうか?

そして日本資本工場での暴動。危うく難を逃れて中国共産党の美女党員芳秋蘭と出会う。中国におけるプロレタリアートの現状やら西洋と東洋の資本主義の現状、マルキシズム、日本と中国の関係などで意見を交換。

日本人会社員、トルコ風呂の男女、日本人と中国人、アメリカ人ドイツ人ビジネスマン、日本人とインド人(国民会議派)の会話が、当時の雰囲気を感じられて良い。
会話シーンが多い。舞台芝居や映画を見ているような感覚。ああ、新感覚派ってこういうことか。横光は新感覚派の旗手。

登場人物たちは自暴自棄。革命の暴徒が街にあふれている状態では今日明日の自分の命がさだかでない。怖い。外国で暮らすのは国家同士が対立したとき危ないなと思った。
歴史の本を読むよりも、この小説を読むほうが100年前の上海を感じられる。この本はもっと多くの日本人に読まれるべきだと感じた。

岩波文庫2008年改版の巻末には北京出身の中国人からみた上海について語られている。横光の上海は現代の中国人にも興味深いらしい。横光の「中国人」と「支那人」の使い分けにも理解が深い。

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