2021年5月23日日曜日

横溝正史「空蝉処女」(昭和58年)

横溝正史ミステリ短編コレクション第6巻「空蝉処女」(2018 柏書房 日下三蔵編)を読む。

「空蝉処女」は角川文庫版が出てるけど、探しててもぜんぜん見つからないし、昨年から古本屋を探し歩くようなこともしていない。もうたいていの読みたい横溝正史は読んだ。未読の落穂ひろいは柏書房のこのシリーズで十分。

「空蝉処女(うつせみおとめ)」は終戦直後に横溝一家が疎開していた岡山県吉備郡岡田村で書かれたもので、昭和21年に雄鶏社の「紺青」という雑誌に掲載される予定だったらしいことがわかっていた。
原稿を持っていた人が現れ、結果、埋もれていたこの作品は「月刊カドカワ」昭和58年8月号に掲載された。そのへんは昭和50年代に横溝作品のすべてを角川文庫化しようとがんばっていた中島河太郎氏の努力のおかげ。

読んでみて驚いた。普通に純文学作品っぽかった。神戸空襲で起こった一家の離散と再会の奇跡のちょっと感動的な話。横溝作品に期待するような恐ろしいミステリー作品ではなかったが、美しい短編小説だった。

この短編集には角川文庫「青い外套の女」に収録されている8編と、「血蝙蝠」に収録されている7編と、「空蝉処女」収録の7編、「死仮面」に収録されている「上海氏の蒐集品」を合わせた23作品。そして、付録として横溝正史の評論、「空蝉処女」初掲載のカドカワに孝子夫人が寄せた文などを掲載。

「上海氏」と「青い外套の女」収録ぶんは読んだことがあるので今回は読まない。読んでいなかったものを読んだ。どれも短い短編でミステリーというよりも、ちょっとした娯楽読物。
どれもがシティーボーイ横溝による洒脱な語り口。大衆的で読みやすくて、それでいて格調も高い作品。

「花火から出た話」週刊朝日 昭和13年4月特別号
「物言わぬ鸚鵡の話」新青年 昭和13年10月号
「マスコット奇譚」オール読物 昭和13年11月号
「恋慕猿」現代 昭和14年5月
「X夫人の肖像」サンデー毎日 昭和15年1月特別号
「八百八十番目の護謨の木」キング 昭和16年3月号

どれもが「事件と真相」の短い読物。それほど意外な展開もなく30分ドラマにするのも難しい。だが、野心的な脚本家と演出家ならなんとか面白くはできそう。

「二千六百万年後」新青年 昭和16年5月号 は読んで驚いた。SF作品?これは芥川龍之介の「河童」を意識した作品に違いない。紀元2600年を生きる主人公が眠ってしまうと2600万年後に!?タイムスリップもの?
数年後に、この小説に書かれたように日本は空襲で子どもたちもたくさん死ぬことになるので予言の書?!

「玩具店の殺人」トップライト 昭和22年1月号
「頸飾り奇譚」朝日 昭和4年8月号
「劉夫人の腕環」サンデー毎日 昭和3年3月特別号
「路傍の人」聚英閣「広告人形」大正15年6月書き下ろし
「帰れるお類」探偵趣味 大正15年11月号
「いたずらな恋」苦楽 大正15年9月号

「頸飾り奇譚」は首飾りを質入れする夫とその妻の、どっちがやりて?という落語みたいな話。
「いたずらな恋」はシャーロック・ホームズ「ボヘミア醜聞」みたいな話かと思わせておいて意外な真相。
個人的に太宰の短編みたいな「帰れるお類」が楽しくて好き。映像化希望。

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