2021年5月4日火曜日

原武史 「松本清張で読む昭和史」(2019)

NHK出版新書から出てる「松本清張で読む昭和史」(原武史 2019)を読む。2018年に放送されてた「100分de名著」の内容に加筆再編集したもの。

松本清張の代表作「点と線」「砂の器」「日本の黒い霧」「昭和史発掘」「神々の乱心」の5作品を、書かれた当時の時代背景や社会、風俗、文化などを解説。
ちなみに自分はまだ「神々の乱心」だけは手に取ったことがない。そろそろ読もうかと思ってる。

「点と線」は昭和32年から33年にかけて日本交通公社(JTB)発行の雑誌「旅」に掲載された社会派推理小説を代表する傑作。東京駅空白の4分間のトリックはあまりに有名。

自分がこの本を初めて読んだのは小学生のとき。光文社新書で。もちろん漢字とかさっぱり読めなかったし、内容も半分ぐらいしかわからなかったと思う。

この当時は東京から博多まで、夢の寝台車「あさかぜ」が走ってた。この時代はまだ海外旅行が一般的でない。ちょっとは裕福な都民でも九州旅行が最上クラスのぜいたく。

鳥飼警部は自宅の風呂が五右衛門風呂。地方出張から東京に戻った三原警部は喫茶店でコーヒーを飲むのだが、この当時は美味しいコーヒーは東京でしか飲めなかっただって?!

「砂の器」は昭和35年から36年にかけて読売新聞夕刊に連載。これも映画化されたりしてあまりに有名。自分は新潮文庫上下巻を13歳の時に読んだ。かなり背伸びして頑張った。

けどやっぱり「ハンセン病」についてはほとんど何もわかってなかったし、まして癩予防法時代の偏見差別についてわかってきたのはつい最近。

この小説も鉄道。刑事たちは秋田の本荘や島根の出雲へ出かける。この当時は蒸気機関車で固い座席のボックス席。屈強な男たちでも長時間の鉄道旅にヘトヘト。そいうことも最近わかってきた。

「日本の黒い霧」昭和35年に文芸春秋に連載。この本は20代の自分に最も影響を与えた本。こういう本をそれまで読んだことがなかった。日本占領時代に起った不思議な事件。帝銀事件、下山事件、松川事件、もく星号遭難事故、などなど。下山事件に関してはこの文庫本を片手に事件現場の五反野まで行ってしまったw

占領政策が終わって10年経たないうちに、これだけの仕事を成し遂げた清張には畏敬の念しかない。今も世界で汚い事件が起こってる。清張先生が今いればきっと調べ上げて暴き立てていたはず。

清張は北九州小倉で生まれ貧しく学歴がなかった。なにもかもGHQ黒幕説にしてしまう清張を、東京出身で京大文学部卒のエリート大岡昇平は「ひがみである」と見下して批判。こういうの、むしろベストセラー作家になった清張をひがむ大岡という構図に見える。
一方で芥川賞選考委員だった坂口安吾は清張をしっかり評価。

「昭和史発掘」昭和39年から46年まで週刊文春に連載。これは8年前に文春文庫版全10巻を読んだ。

病弱で国民にとって不在も同然だった大正天皇が崩御し、若き摂政が天皇に即位し昭和になると直訴が頻発したって知らなかった。だから「北原二等卒の直訴」が起こったのか。昭和天皇は明治大帝の再来を期待されたのか。

清張は中橋基明を中心とする宮城占拠計画に重点を置いてる。中橋の気おくれの説明がいまひとつよくイメージできない。
三島由紀夫は昭和史発掘の連載を読んでいて、2.26事件への認識を変えた?!

秩父宮は西田税と陸士で同期。安藤輝三大尉とは宮のイギリス留学中も頻繁に手紙のやりとりをしていた間柄。昭和天皇の母貞明皇后は皇道派にとても同情的だったらしい。2月27日の弘前からの上京と貞明皇后との長い面会は昭和天皇を不機嫌にさせ不気味な印象を与えていた…。

「神々の乱心」平成2年から4年5月まで週刊文春連載の未完の遺作。未読。
昭和史発掘で得た資料と知見を活かして、天皇、貞明皇后、秩父宮を架空の人物や地名に置き換えたフィクション。
大正天皇崩御後に貞明皇后が皇太后として影響力を保持してたことに清張は気づいてた。終戦間際に昭和天皇は宇佐と香椎宮に戦勝祈願の勅使を送っていたのは貞明皇后の思いつき?!

近代国家になっても日本の宮中には古代王朝のシャーマニズム的宗教の名残が脈々と生き続けてることを指摘?!

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