2021年4月2日金曜日

遠藤周作「反逆」(1989)

遠藤周作「反逆」を読む。平成元年に講談社より単行本。1991年に上下巻で文庫化されたものを読む。荒木村重(1535-1586)を描いた歴史小説。
自分は荒木村重を大河ドラマ「軍師官兵衛」を見るまでまったく名前も知らなかった。今こうして歴史小説をどんどん読んで知識を吸収していく。

茨木城を切り取り成り上がったは村重は今後はどう身を立てていくか悩んでる。どうやら織田信長が天下人になりそうだ。でも、酷薄な残虐魔王の信長なんかに使えたらどうされるかわからない。
木下藤吉郎の計らいで一向宗勢力を討つために織田信長から摂津を任される。信長から刀に刺した饅頭を「食え!」と一喝された屈辱は忘れない。

卑しい身分から成り上がったのは荒木村重も秀吉と同じ。信長の後ろ盾で増長したことに和田や池田といった地侍たちは気に入らない。それでも伊丹城を奪って以後、有岡城と名付ける。若き日の信長の恋人の娘だしを嫁にもらう。信長猊下の武将として一向宗勢力掃討作戦に出陣。

恐れと憎しみ妬みとコンプレックスの村重、信長が銃で傷を負ったり戦に敗れたと聞けば、込みあがる笑いをかみ殺す。
そんな村重に松永久秀が接近。信玄は死んだが、謙信は上洛をうかかがってる。石山本願寺も毛利水軍も強い。雑賀衆も一度は信長に服したとは言え反撃したい。光秀も秀吉も家康も、いつまでも信長の恐怖支配に従っていないだろう…。

天王寺砦を棄て信貴山に立てこもった久秀は上杉も村重も呼応しないまま自爆死。村重は自分にはあんなことはできないとビビる。

村重は石山本願寺に単身乗り込んで顕如と命がけで講和に臨んだものの整わない。信長が過去に約束を守らなかったから不備となったのに、弁明に駆け付けるも信長からはねぎらいの言葉の一つもないまま追い返される。理不尽。
さらに、石山と内通してたこともバレそう。杉谷善住坊の娘を匿ってたこともバレそう。村重は眠れない。

そして謀反。もうこうなっては邪知暴虐の信長に従ってはいられない。有岡城に籠城。
しかし、同じ気持ちだった高槻の高山右近は悩みつつ投降。中川清秀も寝返り。頼りの毛利輝元はやってこない。有岡城も石山本願寺も兵糧が尽きつつある。そして宇喜田直家も秀吉によって織田方に…。(この本、黒田官兵衛が潜入してくるのだが数行のみしか書かれていない)
いよいよ村重は脱出し直接毛利にかけ合う検討し始める。

そして下巻。村重は尼崎城へ逃れる。荒木一族は再起をかけて散り散りになる。妻や子を棄てて。場内に残されたものは一人残らず惨殺の仕置きをするのが信長。だし他おんな子ども六条河原で皆殺し。村重を匿ったとして高野聖たちも数百人皆殺し。村重は勝手に頭をまるめて廃人同然。家臣たち「ダメだこりゃ」
信長への恨みを晴らすために、上巻のもう一人の主人公、村重の初期からの忠実な家臣竹井藤蔵は加藤虎之助と一騎打ちして斬り死に。

下巻の主人公は明智光秀。従来のドラマで描かれる信長の勘気に触れて強く叱責折檻される光秀はまったく描かれない。「麒麟がくる」の光秀のようにスマートな武芸者で教養人。
だが、光秀も心の中で信長のやりようを批判。いつかの比叡山で殺した小僧のように、信長の顔が恐怖でゆがむところを見てみたい…という危険な想像。

波多野秀治の残党が謀る。主君の恨みを晴らすには光秀に信長を殺させよう。流言を流して光秀を嫉妬と疑心暗鬼。長曾我部元親の件で光秀の顔をつぶした信長。光秀はもう我慢ならない。

本能寺の変、山崎合戦、安土城炎上、坂本城炎上、そして明智一族の滅亡。ここで終わっても良いのだが、遠藤先生は賤ケ岳合戦まで描いてこの小説を終える。
最後に取材後記として、佐久間盛政、前田利家、荒木村重、賤ケ岳で中川清秀軍に参加した荒木村次、織田信孝、高山右近らのその後について短く触れる。

この本、3日ぐらいで一気に読んだ。とても面白かったし味わい深い余韻。強くオススメ。
遠藤先生はやはり切支丹の高山右近にシンパシーを感じていたようだ。信長という強者を前に恐れおののく弱者たちの勝ち目のない反抗を描いた佳作。

この歴史小説、ずっと信長がいかに残虐だったかの記述が続く。面白くないことがあると気まぐれで女も子どもも殺す。
多くの罪なき人々を虐殺し呪われた邪知暴虐の独裁者信長を弑するのに成功した光秀はまさにヒーロー。光秀が殺さなかったらさらに犠牲者が増えていた。
今われわれは次のヒーローを待っている。庶民が10年生きるために、人事で国を支配する菅と二階、政商パソナ竹中をかならず除かねばならない。
PS. この「反逆」という本、2005年に日本テレビで放送された「女王の教室」において、暴虐の担任教師(天海祐希)に反抗する進藤さん(福田麻由子)の部屋に置いてあった本だった。以後ずっといつか読もうと思っていた。ついに読んだ。

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