2021年3月9日火曜日

ボーマルシェ「セビーリャの理髪師」(1775)

ボーマルシェ(1732-1799)作の全4幕喜劇「セビーリャの理髪師」を読む。鈴木康司訳2008年岩波文庫版で読む。
正しくは「セビーリャの理髪師 または無駄な用心」1775年2月23日コメディ・フランセーズにて初演。
Beaumarchais LE BARBIER DE SEVILLE 1775
ボーマルシェのフィガロ三部作の第一作。フィガロ三部作を「セビーリャの理髪師」「フィガロの結婚」「罪ある母」だと即答できる人はおそらくクイズオタ。
クラシック音楽を聴く人にとってはロッシーニの歌劇としても有名。

貴族の孤児で真相の令嬢ロジーナに恋をしてマドリードからセビーリャまでやってきたアルマビーバ伯爵。なんとしてもロジーナに逢いたい!だが、後見人のバルトロがそれを阻む。口八丁手八丁の快男児フィガロがふたりの恋を成就させるべく奮闘するドタバタ喜劇。それが「セビーリャの理髪師」。

18世紀の喜劇を今日の日本人が読んで面白いと感じるかどうかは微妙。時代背景と注釈を読まないと面白さはわからない。
この時代、医者は患者の悪いところは瀉血して血を抜けば治ると信じてた時代。フィガロが女中たちに睡眠薬、くしゃみ薬を飲ませるのはともかく、勝手に血を抜いて意識を失わせるのは現代なら完全に殺人未遂。酷い。

アルマビーバ伯爵はロジーナの前では身分を偽ってランドールということになっている。ロジーナの音楽教師ドン・バジールが急病で、その代理でやってきた学生アロンソだと偽ってロジーナになんとか会うのだが、そこにドン・バジール本人が現れ、アルマビーバ、ロジーナ、フィガロでなんとかごまかすシーンは現代でも十分に面白く出来そう。

「若さと恋心が力を合わせれば、それを防ぐことは無駄な用心」で芝居は終わる。
老人が若い美人を妻に持とうとすることは昔も今も滑稽だと嘲笑われる悲哀。

だが、ボーマルシェこと本名ピエール=オーギュスタン・カロンの人生が、アメリカ独立戦争やフランス革命期と重なっているので波乱万丈。

そもそも時計職人の子として生まれたのだが、王の食卓係フランケと知り合い、フランケ死後はその未亡人と結婚し所有地からカロン・ド・ボーマルシェを名乗り、妻の死後は文学と音楽に打ち込み、ルイ15世の娘たちの音楽教師になり、財政官パーリ=デュヴェルネーの後ろ盾を得て、国王秘書官職を得て、スペインに滞在し、帰国後は戯曲を書き、喧嘩沙汰から入獄し一文無しになり、イギリスに渡ったりウィーンで詐欺師と間違えられたり、劇作家協会を設立したり、アメリカ独立戦争に加担したり、ヴォルテール全集を発刊したり、「フィガロの結婚」で劇作家としての絶頂を迎え、ジャコバン党革命政府から要注意人物になって逮捕されたり、武器輸入に奔走したり、牢獄に入れられ殺されそうになったり、また貧乏になったりと、波乱の人生。享年67歳。人生のほとんどが訴訟につぐ訴訟。この人の人生が小説そのもの。

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