2021年1月3日日曜日

新田次郎「新田義貞」(昭和56年)

自分、太平記を初めて読んだのが講談社少年少女古典文学館の平岩弓枝版「太平記」。もう10年以上昔。その後、杉本苑子「小説 足利尊氏」を読み、NHK大河ドラマ「太平記」再放送を見て、そしてようやくこの新田次郎「新田義貞」(新潮文庫 昭和56年)を読む。昭和51年から53年までサンケイ新聞に連載されたもの。

新田義貞って誰でも名前は知っていても、ドラマや映画ではあまり見たことがなく、それほど印象がない。NHK大河ドラマ「太平記」では萩原健一(病気により降板)から根津甚八に途中交代していた。自分には根津甚八新田義貞のイメージしかない。

10年ちょっと前に友人Tくんと鎌倉ハイキングによく出かけた。そのとき新田義貞が攻め入って鎌倉を燃やしたという話をTくんがよく話していた。化粧坂や稲村ケ崎、この本を読んだらそのへんの伏線が序盤に登場していて驚いた。

新田一族は源氏の嫡流なのだが一時的に没落していた。義貞の幼少時の記録とか少ないために小説にするには苦労したらしく、各チャプター末に使用した資料や説なんかの解説と弁明を新田次郎せんせいが書いている。そのほとんどが創作。「武田信玄」もそうだったけど、側室は出身氏族の名前しか伝わっていない。なのでラブロマンス的要素のために愛した女の名前は新田せんせいの創作。

そもそも新田義貞は鎌倉に攻め入る以前の記録があまりない。正中の変とか出てくるけど、その描写は新田先生の創作フィクション。日野資朝が義貞に接近してくる様子とかエンタメ小説に徹してる。新田庄で産出する鉄で刀を作って売るとか、自作農に1頭馬を育てる義務とかもフィクションっぽい。

だが、冒頭の水利争いや、足利貞氏の嫡男又太郎との出会い、鎌倉大番役勤めで榛名山麓の村から大都会鎌倉へ出たときの様子、幕府の命で常陸国筑波山麓に初めて出征したけど政治の話がよくわかってない貞義など、創作にしてもイキイキとその場面が想像できて楽しい。
奥州安東氏の相続争いに派兵したときなどは、鎌倉北条得宗の支配が緩んでることを示すために、史実じゃないけどあえて挿入。義貞の思考はほぼ現代人のそれ。

京都の警護を担当する小太郎義貞。乱暴狼藉を働く者どもとやり合う過程で吉田定房、楠木正成、護良親王、赤松則村らと出会う。そして元弘の変。六波羅に追われた後醍醐天皇が笠置山へのがれ、赤坂城が落ち楠は逃走。日野俊基は斬られ、上巻終了。

そして下巻。京都、鎌倉、新田庄、西国、ジリジリとあまり進展がないのだが、やがて足利高氏が後醍醐天皇側に従って旗揚げ。足利と新田、どちらが源氏の嫡流として主なのか?足利が多数派だが、新田に心を寄せる勢力も。新田と足利はライバル同士。

東京府中市の分倍河原駅前には新田義貞の騎馬武者姿の銅像がある。自分はあれを歴史に興味を持つ以前に数回みたことがあったのだが、そのときは新田義貞を名前しかしらなかった。この下巻でついに「分倍河原の合戦」についての小説を初めて読んだ。この合戦は新田側も大損害を受けたので本来なら敗戦のはずだった。だが、家臣を戦死させ北条泰家は鎌倉へ逃げかえる。これで鎌倉と北条の運命はほぼ決まった…。

ちなみに府中税務署は中世から税務署w 高倉(租米の保管庫があった場所)で、1000年以上そこが税務署だと解説で新田次郎氏は語っている。

建武になってダメ公卿たちで世の中めちゃくちゃ。護良親王は足利も新田も敵視。そして鎌倉に送られ斬られるのだが、新田次郎版では自害したことになってる。

そして、諏訪頼重と北条時行による中先代の乱。後醍醐帝から許可のないまま鎌倉へ行ったまま帰ってこない尊氏を追討することになった義貞。寄せ集めなうえに戦術に口を出す公卿たちに困り果てる義貞。

かつては尊氏から「足利と新田は兄弟みたいなものだよね?」と言われたりもしたけど、完全に敵同士。義貞は楠木正成、名和長年、千種忠顕、北畠顕家らの軍と京都市街戦の末に尊氏を九州に追い落とす。

義貞は後醍醐帝から勾当内侍をもらっていちゃいちゃしてる間に足利を討つ機会を逃したように言われてるけど、新田次郎は義貞のその間の行動を指摘して弁護。「太平記」「梅松論」の両方から合理的と考える方を選びながら筆を進める。

千種忠顕、吉田定房、坊門清忠、みんな調子がイイときだけ武士たちを褒めて持ち上げる公卿。だが、負けが込むと責任を日野俊基や護良親王、新田義貞に押し付けて売り渡し自己の保身を図る。最低。

高師泰が金ヶ崎城を攻めたときにやったことが酷い。尊良親王も恒良親王も逃げ惑った末の不幸な最期。
後醍醐天皇の権力欲によって多くの武将や兵、一般市民が死んだ。酷い話。義貞もこの時代の他の武将のようにもっとのらりくらり上手く立ち回れば仲間の多くを死なせずに済んだのに。

後醍醐天皇の綸旨を奉じて新田庄を出て、そのまま二度と故郷に帰れなかった新田一族のことを想うと、新田先生と同じような気持ちになる。

初めて新田義貞が主人公の小説を読めた。この本は自分には楽しく興味深く読めた。充実感。読むのに2週間ぐらいかかったけど。
この本が現在絶版なのは惜しい。はやく文庫新装版を出してほしい。

新田先生は連載中から読者から抗議の手紙が来たという。太平記を史実だと思ってる人が多いらしい。そうでなかった証拠もないというスタンスでフィクションを混ぜ込んで書くのが小説。
あと、新田次郎は新田義貞の子孫なの?と質問されることも多かったそうだが、新田次郎は長野県諏訪市角間新田の出身。本名は藤原。次男だったので新田次郎というペンネームを名乗った。

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