2019年10月3日木曜日

横溝正史「悪霊島」(昭和56年)

横溝正史「悪霊島」(昭和56年角川文庫版)上下巻をついに読んだ。

これ、映画版があまり面白くなくて読むモチベが湧かなかった。それに、なかなか上下巻一緒にそろってそこに売られている棚に出会えずに読めないままでいた。
1年ほど前にようやく上下巻とも100円で売られている現場にでくわしたので買い求めた。この夏にやっと読んだ。

昭和51年の角川映画「犬神家の一族」の大ヒットによって、忘れられた作家だった横溝正史センセイは一躍人気作家に帰り咲き。若い女性からもファンレターをもらうようになりがぜん張り切りだしたw

前作が野生時代に連載された金田一耕助最後の事件「病院坂の首縊りの家」。これは70過ぎた巨匠にとって塗炭の苦しみだったらしい。
そして横溝正史最後の長編「悪霊島」は事前に書き溜めた状態で75歳から連載開始、77歳で書き上げた。野生時代昭和54年1月号から全15回の連載。

事件は昭和42年7月の瀬戸内海にある架空の島「刑部島」が舞台になっている。
横溝正史「獄門島」、小野不由美「黒祠の島」、内田康夫「贄門島」、古い因習に支配された島が舞台のミステリーホラーはたいてい面白い。期待して読んだ。

金田一さんがヨレヨレの着物に袴姿、もじゃもじゃ頭に御釜帽子なのは変わらないのだが、え?ボストンバッグ?!
この時代、すでに地方は過疎化が進んでいた。対岸には石油コンビナート。漁業も立ち行かない。島民は島を出る。
ポータブルテープレコーダーを持ったヒッピー青年も登場。時代は変わった。

そんな刑部島で、金田一先生への依頼人の部下が崖から転落。波間を漂うところを船の甲板に引き上げられ、「あの島には悪霊がとりついている」「あいつは歩くとき蟹のように横に這う」「鵺の鳴く夜に気をつけろ」など、謎の断末魔を残して死亡。

横溝先生はエラリー・クイーン「シャム双生児の謎」に刺激を受け、日本でもシャム双生児を扱ったミステリーを書いてみたかったそうだ。

金田一さんの依頼人は刑部島の網元の出身でアメリカ帰りの億万長者。島を再開発するプロジェクトが進行中。島の調査のために派遣された青木が殺された?

この島では昭和23年ごろに、置き薬行商人、神楽大夫、阿波の人形遣いなど若い男性が相次いで失踪していた。共通点は男盛りで屈強な体格を持っていたこと。

美魔女巴御前とその双子の娘。身分違いの恋を引き裂かれ島を去った男。首からカメラを提げたヒッピー青年。失踪した父を探す置き薬行商人青年。神楽大夫の息子兄弟。そして磯川警部。典型的な2時間ドラマ感がする。

おどろおどろしい舞台設定は魅力的だったのだが、あまり推理小説らしくない。
平家公達の末裔の神職の美魔女が若く逞しい男を食い散らかして死体を遺棄していた猟奇殺人事件の顛末記。
下巻の真ん中あたりで犯人が示されると、ジュブナイル金田一みたいな洞窟探検怪奇小説展開になる。

それほど面白かった印象がない。横溝正史作品はすべて読まないと気が済まないというオタにしかオススメできない。
これを「面白い!」と絶賛している人はたぶん下巻の巻き返しに惑わされてる。

なによりどうしてそんな構成?というわかりづらい時系列。とても理解しずらくこなれてない文体のように感じた。
これを面白いドラマ映画にするにはかなり大胆に構成を変えて書き換えないとダメだと思う。

やはり連載推理小説って会話が冗長。検死の結果とか磯川警部の岡山方言でダラダラ説明する必要はないように思う。
だが、ダラダラ長く冗長だからこそ登場人物たちがちゃんと活き活きとイメージできる。そこはやはり魅力を感じる。

PS. ここ数年NHKががんばってる新金田一シリーズ。新作が2019年10月12日(土)BSプレミアムで放送されるのだが、またしても吉岡秀隆!
毎回違う金田一でいくのか?と思っていたのでちょっと失望。しかも「八つ墓村」なのも失望。
2時間ドラマ原作に合う作品がないなら思い切って大胆改変作や脚本家オリジナルでもよいのでは?ただし、舞台設定はかならず昭和20年代の地方都市にかぎる。

0 件のコメント:

コメントを投稿