2019年10月25日金曜日

鮎川哲也「死のある風景」(昭和40年)

鮎川哲也「死のある風景」を読む。これは昭和40年に著者11冊目の長編推理小説として講談社から出版されたのが最初。後に各社から改訂版を重ねている。
今回自分が手に入れたものは1995年青樹社文庫版。もう1年以上前にいつかよむだろうと買っておいたもの。100円でゲット。

鮎川哲也は日本推理小説界の巨匠。松本清張の10才下、高木彬光より1才上という世代。
自分は今までまったく読んだことなかった作家だけど、「ペトロフ事件」が面白かったので2冊目としてこれを選んだ。松本清張や西村京太郎に近いアリバイ崩し昭和鉄道ミステリー。

作中で使われている架空の航空会社の時刻表から判断してたぶん昭和35年ごろが舞台。
当時はまだ蒸気機関車の時代。昭和の鉄道や地方の様子が興味深い。

家族で妹の誕生日を祝うはずが帰宅しない姉、翌日も会社を無断欠勤し失踪が発覚。後日、阿蘇山の噴火口へ身を投げて自殺した女性の遺留品から身元判明。
松本清張の短編でも読んだけど、この当時は阿蘇の噴火口に身を投げる自殺が流行ってたらしい…。

すると今度は唐突に金沢を旅する医者と看護婦カップルの場面へ転換。医者は旧友に会うために女と別行動。だがその夜、女は旅館に戻らない。海岸で射殺体となって発見される。
そして容疑者たちのアリバイ捜査。石川県警の刑事が東京、内房と関係者の話を聴いて歩く。社会派刑事ドラマのような展開に。
これは正直、自分と合ってなかったかもしれない…と思いかけた。

だが、西多摩の秋留にある農業用ため池の管理小屋でゴロツキ記者の死体が発見される。こいつは美容整形外科を脅迫し強請ってた。ここから先になると各ピースがピタッと組み合わさっていく。ああ、そう繋がってたのか。

鮎川哲也の推理小説には鬼貫警部が登場するのだが、この作品は全13章のうち第12章にしか鬼貫警部は登場しない。鉄道ダイヤと電報のトリックで決定的なひらめきをもたらす。
(クリスティのポアロやマープルでもラスト近くにならないと登場しないパターンはあるな)

これ、出版当時はかなりの力作鉄道時刻表ミステリーだったかもしれないが、ややこしすぎて現代人にはどうでもいいトリックかもしれない。昔の鉄道時刻表をじっくり眺めるのが好きな人は好きだろうと思う。
だが自分としてはあまり面白いものでもなかった。あまりオススメできない。
強いて感心するとすれば、上野駅のポストから発見されたブローニング拳銃の件ぐらいか?

この小説、現代人が読むにはかなりの困難が予想される。というのも、昭和30年代の常識がもはや多くの人が分からなくなってる。
この時代は多くの人が遠方と連絡を取る手段を電報に頼ってた。頼信紙(電報を記入する用紙)のこととかどうでもよすぎてさっさと読み飛ばした。
米軍キャンプ、ニュース映画館とか時代を感じる。昭和30年代になっても上野駅には闇米の取り締まり警官がいたことにびっくり。

あと、日本海を渡ってくるツグミはかつて金沢の名物料理だったことを知った。
現在では野鳥を捕獲することは厳しく禁じられているのだが、ほんの40年50年前まで、ツグミは料亭や居酒屋で焼き鳥メニューとしてポピュラーだったことを初めて知った。
調べてみたら、石川県や北陸地方ではツグミを大量にカスミ網で捕獲して食用にしていたし、農村でも食用にされていたらしい。

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