2019年9月17日火曜日

アガサ・クリスティー「無実はさいなむ」(1958)

アガサ・クリスティー「無実はさいなむ」(1958)を読む。小笠原豊樹訳1978年ハヤカワ・ミステリ文庫版で。自分にとってクリスティー50冊目。
ORDEAL BY INNOCENCE by Agatha Christie 1958
これ、中学生の時に読んだ。当時持っていたものは映画「ドーバー海峡殺人事件」の写真を使った表紙のものだった。
今回読み返してみて、真犯人も内容もまったく覚えていなかった。ただ、暗かったということしか覚えていなかった。

薄ら寒い夕刻、キャルガリ博士はサニーポイントのアージル邸へ渡し船で向かう。重大な知らせを胸に秘めて。
2年前に女主人が殺され、問題児だった養子のジャッコが逮捕された。当日金銭支援のことで口論し脅迫のようなやりとりがあり、撲殺に使用した凶器の火かき棒には指紋があり、夫人が持っていた5ポンド札1枚を所持していた。そして有罪宣告。後に肺炎で獄死。

ジャッコはアリバイを主張したのだが、犯行時刻前後30分にジャッコを乗せたという運転手が見つからなかった。
だが、その運転手は私キャルガリだった!事件のあった夜、交通事故で記憶を失い、後にオーストラリアへ渡り南極観測へと出かけていたために、英国を揺るがせた裁判をまったく知らずに2年間を過ごしてしまっていた。

贖罪の気持ちを持ちつつも、殺人犯を出した一族の汚名をそそぐことができるんだから喜んでもらえるだろうとアージル邸を訪れたキャルガリ氏だったのだが、あれ?家族たちの反応が思ってたのと違う…。
アージル家の問題児で悪党だったジャッコが犯人てことでよかったのに!無罪ってことはまた警察やマスコミに蒸し返されて追い回される!マジかんべん!
法律手続きで故人ジャッコは特赦され無罪確定。では真犯人は誰か?キャルガリ氏は誰に頼まれたわけでもないのに方々に聴き込み開始。

資産家だった両親から遺産を相続した故レイチェル夫人は子どもができなかったために、2男2女の計4人も養子を迎えていた。
戦争中から孤児たちを疎開させる施設を運営したり慈善事業にのめり込む篤志家だったレイチェル夫人。4人のこどもたちの教育に熱心。

夫人は遺産を供託し均等にこどもたちがお金を受け取れるようにしていた。老家政婦にもお金が行き渡っている。
犯行は戸締りした家の中。誰もアリバイがない。だが、夫人が死んでも誰も得をしない。
夫であるリオとの愛は冷めていた。夫人の死後、リオは美人秘書と結婚しようとしている。目に見える動機は夫しかない。

これ、あまり推理小説という感じがしない。多少のサスペンス要素のある家族を描いた小説だった。
だが、アージル家の長女の旦那フィリップ(脊椎カリエスで不具)も独自に聴き込み調査するのだが、終盤に突然殺される。混血の次女も背中を刺されて急展開!

夫人が殺された一家の心に起るさざ波と軋轢と心理を巧みに描き分けるクリスティ女史の力量に感服せざるを得ない作品。地味だが佳作。訳も読みやすく好印象。

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