監督はよく知らない人だが製作に野村芳太郎、脚本に加藤泰の名前がある。それなりに期待して見る。
原作では大正時代に起こった事件だったのだが映画では昭和15年が舞台になっている。
渡瀬恒彦演じる老刑事が、平幹二朗が経営する小さな印刷会社に、40年前の「天城山土工殺し」の捜査資料を活字にして印刷する依頼を持ち込む。
植字工が1文字ずつ活字を拾って1ページをつくるシーンは原作を読んだときはイメージできてなかった。
今もドラマや映画でよく見る人びとが登場するので見ていて楽しい。
柄本明、吉行和子、阿藤海、山谷初男、伊藤克信といった2時間ドラマでよく見る(見た)面々。
石橋蓮司と樹木希林の取っ組み合い夫婦喧嘩シーンに笑った。
薄汚れた家屋と衣服、貧しい生活感、土砂降りの雨、そして伊豆下田方言まるだし感が強烈で良い。みんな一時代も二時代も前の人のような感じが強い。
役者たちがみんな汗びっしょりで驚く。着物がヨレヨレで数日風呂に入ってない感じで、着物も背広も表面まで汗で濡れた感じが今見ると新鮮。こういう夏場の汗びっしょり演出は近年まったく見ない。
(現在放送中の「いだてん」はそのへんがリアルに明治と昭和30年代を感じない。みんな小ぎれい。)
戦前の警察の取り調べが人権無視でとにかく乱暴。聴き取り調査で少年や老婆、市民には優しく接していた渡瀬恒彦であっても、容疑者・大塚ハナの髪をつかんで机に叩きつけたり殴り倒したりする。
「はばかりに行かせてえ」と懇願すらも拒否。その場で失禁するシーン(たぶん原作にない)は最悪。
戦前も戦後も警察はずっとこんな調子で冤罪を生み続けた。警察はいつまでも「俺たちは威張っていい」「暴力を行使する権利がある」と思ってる。
だが裁判では証拠不十分で無罪判決。
事件のあらましがだいたい視聴者に示されてから、少年とハナ、土工をめぐる事件の真実再現シーンが長い。しかもル~ル~ル~♪という女声のムーディー歌謡メロディーには閉口。これが当時のロマンあふれる演出か?70年代80年代の映画は音楽が残念。
事件の被害者になる「流れ者の土工」が峠道ですれ違った時から気持ち悪くて不快。片手を股間につっこんで白痴のように口半開きでよだれを垂らしてる。まさにけだもの。
これは少年が憧れた娼婦を汚されたと嫌悪感を抱くのも当然。
あの汚らしい土工と「話があるから」と急に態度を豹変させ少年を追っ払おうとする田中裕子。少年にとっては理解できない急な心変わり。
ハナと土工の叢の中での情交シーンが長い。まるで成人映画。当時26歳ぐらいの田中裕子さんが胸をはだけて悶えてる。昔の女優さんはすごかった。
そういえばガッキーも田中裕子さんの演技は凄いと言っていた。そこにカメラがあることを意識してないかのようだと。
原作でサラッと書かれている場面がしつこい。原作にないものまで足してる。どうしてこういう構成にした?自分はあんまり好きになれなかった。
とくにラストの時代が変わった感を出すために暴走するバイクを通行させたシーンは嫌。
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