2018年1月7日日曜日

新田次郎「からかご大名」

新田次郎「からかご大名」を読んだ。昭和33年から46年までの短編歴史小説10編を収録した昭和60年新潮文庫。

自分が手に入れたものは昭和63年第8刷。関東地方のBOで90円で購入。この実物を見るまでこの本の存在を知らなかった。新田次郎の文庫本はいつも探してるけど全然発見できない。

新田次郎の歴史小説は記録に数行しか残されていないような出来事も取り上げる。どの短編も間違いなく面白い。

「からかご大名」は播州明石城主・松平直明の行列が三島を通りかかったとき、前を横切った6歳の少女が斬り殺されるまでとその後を描いた嫌~な気分の短編。
ちゃんとした大人たちは見て見ないふりしようとしたり、助命嘆願しようとしたりするのだが、つむじ曲がり大名が交渉役の言葉尻で機嫌を損なう。
最後はライトに良心的復讐。大人のリベンジはこうでなくちゃ。

「元寇秘話」は蒙古襲来のとき密かに活躍した松浦党の秘話。命がけの開城府潜入スパイ活動。
鎌倉幕府も朝廷も「九州のことは九州でなんとかしてね」と地方に丸投げ。兵も金も出さない。酷すぎる。
日本は韓国に元寇のときの謝罪と補償を請求するべき…って思ったけど、恩賞を得られなかった現地の人々がその後、倭寇になった。

「弾丸よけ竹束之介」は武田信玄が刈屋原城を攻めたとき、竹束で敵の弾丸を防ぐ方法を考案した米倉重継を描く。そういえば大河ドラマで竹束持って移動するシーンをみたことあるな。あれは考え出した人がはっきり歴史に名を残してたのか。

「仏桑華」は鉄砲伝来の一場面を描く。「鉄砲伝来」という言葉だけではすごいものが伝わったという以上のことはわからない。ポルトガル人が金儲けしようとしたけど、日本人だけはその仕組みと製法に関心を示し、あっというまに日本人自ら製造できるようになってしまった。
種子島時堯から鉄砲製造を命じられた刀鍛冶、その娘とポルトガル人の恋を描く歴史ロマン。

「首様」は三宅島に流された関白太政大臣藤原忠通の子で知的障害があったっぽい宇麻麻呂の島での生活、騒動、愛を描く。たぶんほとんどが新田次郎の創作。

「異人二拾一人」は文久三年御蔵島でのアメリカ商船遭難事件の顛末記。主人公の下っ端島役人が「船にもう一人女がいる!」と疑惑を深める。これも新田次郎らしい目線で、上役とのギスギスした関係を描いてる。

「巴旦島漂流記」は寛文年間に尾張から南の島へ漂流し苦心の末に長崎へ帰国を果たした船乗りたちの話。日本人が昔から未開の土人を忌み嫌う理由がわかった。助けを求めてさらに酷い目に遭う。こんなの、自分だったら島民皆殺しのために戻りたい。だが、この時代の航海技術ではリベンジに戻るのも無理。

「絵島の日記」はタイトル通りの話。高遠に遠流された絵島28年の日記に基づく小説。

「駒ヶ岳開山」は駒ヶ岳初登頂を果たした諏訪の若者二人の残酷な運命。ここに描かれていることは今現在もSNSで進行中。匿名の人々の勝手さと残酷さに翻弄される。味わい深い短編。

「諏訪二の丸騒動」は諏訪藩の家老職の勢力争い。自分は数年前に諏訪から茅野にかけてカメラ持って旅したけど、寒天を作ってる風景が印象的。諏訪で寒天、生糸、工業が発達した理由を初めて知った。

以上10篇、どれもささっと読めて味わい深くて面白い。

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