司馬遼太郎「城をとる話」(1965)の光文社時代小説文庫(2002年版の2003年第4刷)を手に入れた。100円。
昭和40年に日経新聞夕刊に約半年連載されたもの。1965年にカッパ・ノベルズで単行本化されて以来の初文庫化。
これ、司馬遼太郎唯一の映画原作のための作品らしい。なんと石原裕次郎主演作品のために依頼されたもの。当時の司馬遼太郎は「竜馬がゆく」を産経新聞に連載中。まさに時代の人気作家。
関ケ原合戦前夜の東北、伊達と上杉の国境にある村に突然普請され始めた山城での話。
これ、映画向けの痛快な娯楽時代小説だと思っていた。
1ページの文字数が少なくてサクサクめくれる。たぶん中学生でも平易にすぐ読める。
戦国時代の話はみんなそんな感じだけど、読み進めるうちにイライラしてくる胸糞悪い話。ぜんぜん痛快時代小説だとは感じなかった。
どこか魅力があって行動力がある夢想家の車藤左(常陸・佐竹家の臣)が主人公。西国浪人・赤座刑部が伊達領内に普請中の帝釈城を、仲間の中条佐内と二人で、ただうばってやろうとぼんやり思いつく。
車藤左の夢につきあってしまった仲間、村人がほぼ全滅する終盤の展開に絶句。計画性も実務能力もない思いつきだけの男がヒーローになりそこねた話。罪もない多くの人々を巻き添えにした。もちろん司馬はこういうバカに批判的。
陸軍戦車部隊で終戦を迎えた司馬先生の経験に基づく寓話的時代小説。たぶん陸軍のダメ上司たち批判。
この小説が書かれた時代、すでに映画は斜陽産業。石原プロの設立が昭和38年。起死回生をかけて司馬先生に書いてもらった本だが、この映画も現場の都合から形を変えていった。それほどのヒット作にはならなかったようだ。
これを読んだ人の意見も割れている。「おもしろい」「つまらない」賛否両論。自分も否定的。ただ、時代小説を初めて読むような中高生にはオススメ。
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