2017年10月19日木曜日

司馬遼太郎「夏草の賦」(1967)

司馬遼太郎「夏草の賦」文春文庫版の上下巻を、それぞれ100円で見つけて買っておいたものをようやく読んだ。
戦国土佐の梟雄・長曾我部元親の一代記。

(ちなみに、司馬遼太郎には「戦雲の夢」という、元親の息子・長曾我部盛親を扱った作品もある。「戦雲の夢」は1961年の作品。)

「夏草の賦」は、織田家中一の美貌だという菜々(斎藤利三の妹)の、岐阜から土佐への輿入れの場面から始まる。この時代の人々にとって、南国土佐は堺から船で5日かかる僻地。誰も土佐のサムライを見たこともない。

織田家から正室を得た元親は権謀術数を使って土佐一国を斬り盗っていく。

上巻のクライマックスだと感じたのが、土佐中村の一条兼定の元へスパイ&謀略へ向かった菜々の「どうにもならぬおっちょこちょいな性格」による、ウソだろ?っていう大ドタバタコメディーw
好色な一条の殿様に茶室で体を要求された菜々、茶釜を蹴とばしてから大混乱の、まるで三谷舞台のようなファース劇。そもそも菜々なんて人、司馬の創作だろ。

やがて元親は伊予と阿波へ侵攻し快進撃。だがしかし、信長の了解を得たつもりだったものの、丹羽長秀を頼った三好笑巌ラインによって信長の気が変る。「やっば長曾我部は織田の敵だわ」
明智光秀は家老・石谷光政を使者に派遣「阿波南部はつけてやるから土佐一国へ帰れ」という命令を伝える。織田家臣でもない元親へ完全な横車。元親激怒。

土佐から安土へ戻る光政に「明智が信長を討てばいんじゃね?」と、元親が謀略を持ち掛けるシーンで上巻終了。

下巻では元親の息子・弥三郎こと信親が成長。この大柄で聡明な息子が何から何まで立派。内省的な元親よりも出来た息子だった。本能寺の変の後、なぜ京に攻め上がらない?と父に不満。

創業一代の元親には中央の政治のことが何もわからないし他大名とコネもない…。秀吉の前に完全に屈服。運のなかった自分の運命に嘆き悲しみ悔し涙。やがて、秀吉の人柄の巨大さに魅せられ、ここに天下の野望も終わる。

司馬遼太郎らしいエロラノベ感が充実w やたら長い。
22歳になっても女に興味を持たない息子に戦国大名の父として諭す。「女は子を産む道具と割り切って接しろ」「え、まだ女を知らない…ウソだろ…」

今度は母親、「私が女の子を選んでおいたから、今夜からやさしくいたわりなさい」息子「は?どういたわれば?」母「そなたは馬鹿ですか」

国主を継ぐものとして欠陥みたいに責められる…。読んでて辛い。
現代日本でも中学までは異性にモテたい感だすと不良扱いするくせに、色気づいちゃって…とか言うくせに、大人になって何もないならないでやんやと催促か。

そして秀吉から九州征伐の下知。長曾我部は仇敵・十河存保とともに先陣を命じられる。こいつが今でも長曾我部をネチネチと恨んでる。しかもさらに悪いことに軍監が、元親がかつて何度も負かした仙石秀久。すごく嫌な予感。ここから長曾我部家は傾きだす。

期待の高かった優秀な息子・信親の戦死。菜々の死。そして元親はしょんぼりぼんやり廃人に…。
そんな状況で家督を継いだ盛親、何も政情がわかっていない。関ヶ原の戦いで判断を誤り、やがて長曾我部家は滅亡へ…。

戦国時代の大名たちの物語は何を読んでも切ないが、この本もやっぱり切ない。

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